稲盛と永守

京都発カリスマ経営 リーダーの共通点とは? 一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授 名和高司

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 京セラの稲盛和夫氏と日本電産の永守重信氏は、ともに京都をホームベースとしてグローバルに活躍する日本を代表する経営者です。両氏の経営哲学は、世界中に信奉者が広がっています。二人には、未来創造に向けて自社にとどまらず幅広く種まきをしてきたことなど、数々の共通点があります。この連載では、書籍『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)をもとに、コロナ後の新たな世界を拓く経営モデルでも「盛守」経営の本質を解説します。

稲盛氏と永守氏。二人のキャリアやリーダーシップスタイルの特徴、それらの共通点とは何かを解説します。確固たる哲学を貫き通している点も共通で、しかもそれは経営論を超え、人生論にまで根をおろしています。稲盛氏の「利他の心」、永守氏の「人を動かす経営」は、そのような未来を拓く経営モデルの有力な手掛かりになります。

 京都発世界企業

 京都は、日本の古都、そして神社仏閣の町として世界に名高い。コロナ渦中の2020年秋、アメリカの大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』の読者アンケートで、「世界で最も魅力的な大都市ランキング」で京都がトップに選ばれた。

 しかし、京都が日本を代表する企業を輩出していることはあまり知られていないかもしれない。京都生まれの世界企業といえば、京セラ、日本電産、村田製作所、任天堂、オムロン、ローム、島津製作所、堀場製作所、ワコールなどの名前が挙がる。

 中京地区が自動車メーカーを中心とした巨大な城下町として粛々と発展してきたのに対して、京都ではそれぞれの企業が、思い思いの姿で咲き誇っている。なぜだろうか?

 堀場製作所の堀場厚会長兼グループCEOの著書『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(講談社、2011年)が、大変参考になる。京都企業の独自性は、室町時代から続く職人文化の4つの特徴に根差しているというのである。

 ①人のマネをしない

 ②目に見えないものを重視する

 ③事業を一代で終わらせず、受け継いでいくという考え方

 ④循環とバランスという考え方

 さすがに、「棲み分け理論」で有名な京都学派の生態学者、今西錦司を生んだ土地柄である。

 日本が「失われた30年」をさまよっている間、前述の京都企業らは、それぞれ独自の成長と進化を続けてきた。アメリカ型資本主義の弊害から距離をおき、持続的な成長を実現してきた良質な京都企業は、我々が目指すべき次世代の経営のあり方を示している。

 京都企業を売上高でみると、2020年末時点で、日本電産、京セラ、村田製作所の3社がトップ3だ。いずれも年間売上高は2兆円に迫る。これらの3社は「京都御三家」と呼ばれている。

 ちなみに、京都の「のっぽビル」ランキングでも、この3社の本社ビルがダントツのトップ3である。歴史的景観を保護する理由で京都では建物の高さ規制があるなかで、南部の工場地区に位置している3社は例外となった。

 いずれもB2B企業なので、任天堂やワコールに比べると、一般には知名度が高いほうではないかもしれない。しかし、アップルやサムスン電子などの世界に冠たるハイテク企業の間では、最もよく知られた日本企業である。

 なかでも京セラと日本電産は、企業もさることながら、その創業者の言動が世界から注目されてきた。稲盛和夫と永守重信。京都のみならず、現代日本を代表する経営者だ。

 不易を見据える――二人の共通点

 稲盛和夫については、今さら紹介の必要はあるまい。京セラ、そして第二電電(KDDIの前身企業の1つ)の創業者でもあり、かつJALの再生劇をリードした伝説の経営者だ。さらには、これらの企業との関係を超えて、その経営哲学や人生哲学は広く知れ渡っている。

 ベストセラー『生き方』(サンマーク出版、2004年)や『働き方』(三笠書房、2009年)、『心。』(サンマーク出版、2019年)などをはじめとする著書はこれまでに42冊、共著も含めると60冊に上る。また、1983年には、稲盛を慕う中堅・中小企業の若手経営者が集まって、盛和塾という自主勉強道場を発足。2019年末に解散したときには、世界中で100塾を超え、塾生は1万5000名にまで達していた。まさに平成の「経営の神様」という名にふさわしい。

 その思想は、海外、特に中国で多くの人たちの心をとらえている。中国語に訳された書籍は、2020年末に累計発行部数が2000万部を突破。中国の盛和塾は37カ所、塾生は7000名を数え、解散宣言が出された後も、活動を続けている。アリババグループの創業者ジャック・マーや華為技術(ファーウェイ)の任正非CEOなどの大物経営者も、稲盛に心酔しているという。松下幸之助とともに、中国の経営者が最も尊敬する日本人なのだ。

 一方の永守重信は、現代のカリスマ経営者の名をほしいままにしている。1973年に創業した日本電産は、過去50年間で、最も成長した日本企業である。圧巻は、60を超える国内外のM&Aをすべて成功させたことだ。なかでも「死に体」だった企業を、人員整理を一切せずに1年で再生させる手腕は、「永守マジック」と呼ばれている。

 創業直後のオイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、タイの大洪水や東日本大震災、そして今回のコロナ禍など、危機に直面するたびに、非連続な成長を遂げている。その度重なる大変貌ぶりは、まるで永守が自ら好んで口にする「脱皮しないヘビは死ぬ」というニーチェ18の言葉に、突き動かされているかのようだ。

 永守も、『「人を動かす人」になれ!』(三笠書房、1998年)や『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所、2005年)などのベストセラーを著している。また世界経営者会議をはじめ、さまざまな場で「永守節」を唱えている。「一番以外はビリ」「死ぬ気でやれ」などといった超スパルタ発言で誤解されることも少なくないが、それゆえに、時流に流されない本音トークが企業人の胸に刺さる。

 稲盛と永守には、多くの共通点がある。その1つが、それぞれ、確固たる哲学を貫き通している点である。しかもそれは経営論を超え、人生論にまで根をおろしている。その神髄は、本書のなかで、じっくり説き起こしてみたい。

 二人のすごさは、その独自の哲学を、社員のみならず、社会に対して広く発信している点である。人々の心をわしづかみにするその伝播力は、哲学を超えて、宗教とも呼ぶべきパワーを放っている。

 稲盛は、「自分を信じてくれる者が増えてくると、儲けも多くなってくる」と語っている(『心を高める、経営を伸ばす』PHP文庫、1996年)。「儲」という字は、「信じる者」と書く。社員が信者となり、顧客が信者となり、社会に信者が広がれば、儲けにつながる。まさに、京都の隣国・近江商人の「三方よし」につながる商いの鉄則でもある。

 欧米流の経営モデルや流行の経営手法に飛びつく経営者が、少なくない。少し前だと、DXやガバナンス改革。最近では、両利きの経営やグリーン革命。外来種のバズワードの波が、パンデミック(世界的大流行)のように世の中を席捲している。この「グローバルスタンダード」病こそが、過去30年間、日本企業を骨抜きにしてきたのである。詳細は、拙著『経営改革大全――企業を壊す100の誤解』(日本経済新聞出版、2020年)を参照いただきたい。

 しかし、稲盛や永守は、このような浮ついた風潮には一切流されない。「不易流行」でいうところの「不易」をしっかり見据えているからである。さらには「流行」の底流にある本質を、ずっと以前からしっかりつかみ、実践しているからである。

 このゆるぎない信念にもとづく経営こそ、稲盛流、そして永守流の強さの本質である。

 

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