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経済安保、最大の法的リスクは「経営者が知らないこと」 高橋郁夫・駒澤綜合法律事務所所長に聞く

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 ロシアのウクライナ侵攻で経済安全保障への関心が高まる中、岸田文雄政権は「経済安全保障推進法案」の今国会での成立を目指している。同法案は①供給網の国内構築強化②基幹インフラの安全確保③先端技術の官民研究④特許の非公開――の4つが柱だ。国際的にも経済安保に関する整備が進んでいる。政府や企業の経済安保の取り組みに詳しい駒澤綜合法律事務所の高橋郁夫所長は「経営者にとっては知らないことが最大のリスクだ」と警鐘を鳴らす。

 21世紀の経済安保の焦点は重要技術の「情報」

 国会で岸田首相は法案について「経済活動が萎縮することがないよう十分配慮していく」と説明した。他方、国際情勢の不透明感が強まる中で、企業の危機管理能力の向上が課題との指摘は少なくない。

 高橋氏は「経済活動を通して国と国民の安全を維持しようとする考え自体は、最近生まれたものではない」と話す。20世紀における石油や天然ガス、今世紀初めのレアアース(希土類)などの確保が経済安保の対象だった。ただ、近年はこれらに『情報』が加わったのが大きな特徴という。とりわけIT(情報技術)や人工知能(AI)、量子コンピューターなどの重要技術の分野では、企業の持つ情報が国家の安全に直結している。「経営者は経済安保のリスクが顕在化しないように常に確認し先手を打つことが求められる」と高橋氏。情報やデータを扱う企業は経済安保を自分事としなければならないと強調している。

 高橋氏は「ウクライナ危機は経済安保の方針に大きな影響を与えつつある」と指摘する。ただそれ以前に、日本企業にショックを与えた事例が2021年3月の「LINE事件」だ。LINEの業務委託先の中国の関連会社の従業員が、日本国内の個人情報データにアクセス可能な状態だった。高橋氏は「法的な視点からみれば、LINEは安全管理措置として不十分な点があったものの違法とまではいえない」と指摘する。しかし、同社は総務省から行政指導を受け、中国の関連会社への委託を終了し社として謝罪した。適法の範囲内であっても、経済安保上に問題があれば経営リスクに直結することを示した形だ。

 国際的にも重要技術の促進について法整備などが進む。米国は21年に「イノベーション・競争法」が上院を通過し、下院でも同様の法が通過している。同法は半導体、通信、AIなどの振興を推進する法律も含む。欧州連合(EU)も30年までのデジタル化目標を示す「デジタル・コンパス」計画を明らかにした。中国は21年の「第14次5カ年計画」でAI、量子技術から宇宙、深海など幅広い分野でのイノベーションを進める方針を打ち出した。高橋氏は「米中などの輸出管理規定、外国情報のアクセス法制、データのローカル化に関する規定なども日本企業は把握する必要がある」とする。EUの一般データ保護規則(GDPR)は我が国にも適用されうる余地があるようだ。

 高橋氏は「国内における経済安保の規範は生成途上にある。法律・規則もガイドラインも、それ自体では明確な回答を提供してくれないケースも少なくない」と言う。社内で経済安保の問題を指摘された場合に対応する枠組みを作っておくことが求められるゆえんだ。

 

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