オフィスに出社しないで自宅で仕事をするリモートワークが新たな働き方として定着しました。この過程でわかったのは多くの仕事が「どこでもできる」ということでした。この動きはさらに進み、オフィスから離れた地域に住んだり、一定期間リゾート地などで働くワーケーションへの関心が高まっています。働く人が自分の好きな場所で働けることは、実は企業にとっても有益なことが多いといいます。この連載では、一般社団法人みつめる旅著『どこでもオフィスの時代 人生の質が劇的に上がるワーケーション超入門』(日本経済新聞出版)をもとに、好きな場所で働くことのメリットを働く人、企業それぞれの側から解説していきます。第3回は都市部のビジネスパーソンなど複業に挑戦したい人と経営課題を抱える地方の企業・組織をつなぐ取り組みを進めるパソナJOB HUB(東京・千代田)の事例を紹介します。同社でワーケーションを企画し、自身も全国に「複業」を持つ加藤遼さんに聞きました。
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パソナグループ 「熱い想い」と「モヤモヤ」が出会い、エネルギーが爆発する体験を
明らかにコロナ禍で変わった会社員の意識
パソナグループは、総合人材サービスを手がける従業員約2万2000人(連結)の東証一部上場企業です。2020年には本社機能の一部を、兵庫県淡路島に移したことで大きな話題となりました。グループ会社であるパソナJOB HUBでは、「旅するように働く」をテーマに、2019年から地域複業型ワーケーションとして「JOB HUB LOCAL」を、2020年から地域協働型ワーケーションとして「JOB HUB WORKATION」を推し進めています。いずれも、パソナグループが持っている全国の企業とのネットワークを活かし、経営課題を抱える地域の企業と、複業に挑戦したい人をマッチングする取り組みです。
立ち上げから3年間で、都市部のビジネスパーソン中心に地域の中小企業と約150件のマッチングが成立した「複業型ワーケーション」。実施する「場所」も岩手、広島、香川、愛媛などさまざま、内容も多様ですが、最終的に実現したいことは「たった一つ」と加藤さんは言います。
物事を体感ベースで理解できる人材が強い
実は、加藤さん自身が20代から旅するように働く経験を通じて学んできたことが今の取り組みの原体験としてありました。
2011年、加藤さんは東日本大震災の被災地復興支援のプロジェクトにアサインされます。そこでも同じように「社会について自分は何も知らないんだ」と思い知らされることになります。
会社の業務としては数千人を無事に就職マッチングして成果を出すことができましたが、一方で根強い無力感が残りました。「社会の問題点を解決する」という企業理念に共感して入社したのに、それが十分にできていない……。その想いが、現在携わっている「JOB HUB LOCAL」や「JOB HUB WORKATION」の取り組みに繫がります。
ここ数年、自律型人材の育成が急務だとビジネスの現場では盛んに言われますが、『体感ベースで理解する→想いを持つ人と出会う→自分の人生を重ねる』という一連のサイクルがまさにそうした人材の育成に繫がると思います。『場所』を変えることで生じる新鮮な体験により、これまで自覚していなかった新しい自分と出会い、やりたいことの輪郭が明確になり、エネルギーが湧いてくるんです(加藤さん)