日経SDGsフォーラム シンポジウム

持続可能な社会へ企業動く 環境配慮、経営の主題

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 <基調講演>

 10年先の行動、変革促す

 President & CEO,World Business Council for Sustainable Development(WBCSD)

 ピーター・バッカー氏

 私は持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)で長年活動してきた。賛同企業のうち10%は日本企業で、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)にも多くの日本企業が賛同している。喫緊の課題は①気候の非常事態②自然あるいは生物多様性の消失③不平等の拡大――の3つだ。2050年までに90億人以上がプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の範囲内で真に豊かに生きられる世界の実現に向け、我々は長期的なビジョン「ビジョン2050」を発表した。ここには社会で重要な事業活動9つにおける変革への道筋が描かれている。道筋には10年先を見据えた10の行動領域があり、変革を加速させるマインドセットも提示している。

 今後、企業が気候リスクをよりよく管理できれば、より低いコストで資本資金を調達でき、サステナビリティーを加速する方向に進めるだろう。

 生態系築き排出量把握を

 TCFDコンソーシアム会長 一橋大学CFO 教育研究センター長 伊藤邦雄氏

 TCFDが勧告する情報開示のカテゴリーはガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標。日本は2021年11月末時点で601機関がTCFDに賛同しており、世界最多だ。

 企業の温暖化ガス排出は3つに分類される。多くの企業がスコープ1(直接的な排出量)、2(間接的な排出量)は把握しているが、スコープ3(取引網全体の排出量)の把握は難しい。だがサプライチェーンの川上・川下、取引先企業等まで含めた温暖化ガス排出の把握・開示は世界的な流れだ。1社だけで測定・把握は困難なため、エコシステムを構築することが重要だ。

 日本のカーボンニュートラルに向けた取り組みはトランジションファイナンス(移行金融)促進のための基本指針を21年に策定したほか、産業分野別ロードマップも策定中だ。モデル事業の認定や成果連動型利子補給制度の仕組みづくりも進む。

 <パネルディスカッション1>

 TCFD開示、一体感持って

 投資家との対話を通じ企業は気候変動対策の情報開示をどう進めればいいか。日経ESG発行人の酒井耕一がモデレーターを務め、経済産業省の梶川文博氏とバッカー氏、伊藤氏がパネルディスカッションを実施した。

  ◇ ◇ ◇ ◇

 酒井 気候変動とその情報開示に関し、どのような活動をしているか。

 梶川 1つは温暖化対策に関する政府の基本的目標の設定。2つはTCFDをはじめとする気候変動対策の資金調達に関する業務。3つはカーボンプライシング(炭素の価格付け)の検討だ。TCFDに賛同する日本企業の特徴は非金融セクターが多い点だ。2022年4月の東京証券取引所再編に伴い、最上位であるプライム市場に上場する企業に対するTCFD開示が実質義務化されることから、今後も賛同数は伸びるだろう。

 バッカー 企業は政府と議論しながら機能するシステムを確立して脱炭素化を進めなければならない。戦略策定の上で外部への情報開示は極めて重要だ。企業の事業活動コストは気候変動対策も反映されるべきだ。

 伊藤 TCFD開示の中でシナリオ分析が最も重要だと思う。シナリオを単なる予測と捉えるのは誤った認識だ。想定される様々な将来の認識に対する説明がシナリオであり、経営者の洞察力や認識力の産物だ。投資家は企業の戦略とシナリオの間に整合性があるかどうかに注目していると理解してほしい。

 酒井 情報開示の課題は。

 梶川 完璧にした上で全て見せたいという企業も多いが、進めながら開示していくことが重要だ。

 バッカー このほど国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が新設され、22年にはサステナビリティー報告基準が統一化される。各国の企業の取り組みを比較可能な形で開示することで投資家は投資判断がしやすくなる。

 伊藤 21年10月に公表した「グリーン投資ガイダンス2.0」は、19年に作成したものの改訂版だ。この2年で①投資家と企業のエンゲージメントの重視②投資先の気候変動対応を促す動き③企業活動に対するマテリアリティーの考慮――の3つの環境変化があった。

 酒井 グリーン投資の増加に伴う企業運営や研究開発に対する経産省のサポートは。

 梶川 2兆円規模のグリーンイノベーション基金事業では企業のR&D(研究開発)への投資や社会実装を支援する。トランジションファイナンスも促進し、脱炭素に向けた分野別の技術ロードマップを策定していく。

 バッカー 環境と社会のインパクトを財務に統合することで、我々は世界が必要とする脱炭素に向けたシステムを構築できる。企業の決算とは異なり、気候変動問題は長期的な視点が必要だ。その重要なステップがTCFDだ。企業が社会や環境への影響を考慮して初めて持続可能な成果を生む資本主義を実現できる。

 伊藤 気候変動に関する情報開示の標準化が進む一方で、企業は統合報告書などで補完的な情報開示を進める必要がある。TCFD開示には企業の個性とガバナンスが色濃く反映される。ぜひ一体感を持って進めてほしい。

 <パネルディスカッション2>

 ファンド通じ新興企業支援

 社会課題解決に挑む新興企業が存在感を増す中、ベンチャーキャピタル(VC)の役割は。大和企業投資社長の平野清久氏、iSGSインベストメントワークス代表パートナーの佐藤真希子氏、インクルージョン・ジャパン代表の服部結花氏が登壇。酒井耕一の進行でパネルディスカッションを行った。

          ◇ ◇ ◇ ◇

 酒井 それぞれの事業を説明いただきたい。

 服部 投資先ベンチャーのハンズオン支援と、大企業向け事業開発コンサルティングの双方を手がけている。今はICJ2号ファンドを通じSDGsの達成に寄与するベンチャーの株式に投資している。2021年夏に日本初のESGアクセラレータープログラムを実施し、大きな反響を得た。

 佐藤 我々の特徴は独立系VCファンドであり決済スピードが速い点、組織自体がダイバーシティーを体現し、女性市場への圧倒的な理解がある点だ。16年のファンド組成以来、78社への投資を実行。女性起業家やマイノリティー起業家にも多数投資しており、2号ファンドではほとんどの投資先がSDGsの実現に貢献している。

 平野 当社は大和証券グループのVCだ。これまでに投資先650社超が国内外で新規株式公開(IPO)を果たした。証券系VCであることから財務やM&A(合併・買収)、IPOなどに助言できる点が強みだ。SDGsやESGを重要な視点として、全ての新規投資案件のチェックポイントにしている。

 酒井 ベンチャー企業が持続的な成長を続けていくには何が重要か。

 平野 端的に言えば経営トップの目線だ。経営者が満足した時に会社の成長は止まる。もう一つはスケール感。日本では国内をターゲットにした後に海外に目を向けるが、他国では最初からグローバル戦略として世界70億人を対象にしている。

 佐藤 VCは基本的に10年のファンド期間があるが、成果が出るまでに満期になることがある。セカンダリー(流通)ファンドなどバトンをつないでいくことが必要だ。日本ではESGを意識するところにお金が集まりにくく、エコシステム的なものも必要ではないか。

 服部 SDGsやESGのテーマは今後伸びる領域だが日本は遅れている。グローバルでどんなルールがつくられているのかよく見て事業をすることが重要だ。上場のタイミングでグローバルの機関投資家が株主に入る意味は大きい。いかに世界のお金を取り込み、成長につなげるかが重要だ。

 酒井 自社のファンドをどのように発展させていきたいか。

 佐藤 日本でもダイバーシティーやESGは当たり前だという世の中にするために我々が存在している。大企業や大学を巻き込んで変化を促すことが重要だ。

 服部 今後、気候変動などの領域は国もルールを変えていかなければならない段階にきている。ベンチャー企業というプレーヤーも織り交ぜた形で、共にルールづくりをしていきたい。

 平野 優秀なキャピタリストとなれる人材育成が課題だ。大和証券グループはSDGsとカーボンニュートラルに長期的な目線で取り組んでいる。当社もグループの一員として貢献したい。

SDGs、若年層で認知度上がる
 日本の消費者の間でSDGsに関する認知や関心はどれほど広がっているか。SDGsに関する国内の調査からは若年層を中心に理解が進んでいる様子がうかがえる。
 電通が21年に実施した「第4回SDGsに関する生活者調査」によると「SDGsを内容まで含めて知っている」「内容はわからないが名前は聞いたことがある」を合わせた認知率は54%と半数を超え、前回(29%)からほぼ倍増した。年代別では10代が7割超と最も高く、10代男性は75%に達する。環境展示会「エコプロ」の学校見学など社会学習の機会が増え、学生にとって環境問題が身近になっているようだ。
 日本経済新聞社が同年10月に実施した調査でもSDGsや社会課題に取り組む企業に対して「好感が持てる」「積極的に製品・サービスを利用してみたいと思う」「その企業で働いてみたいと思う」の各項目で「とても当てはまる」と回答したZ世代(19~26歳)の割合はそれより上の世代の割合を上回っている。企業のSDGs達成に向けた積極的な姿勢が若年層から支持を得て、消費や就職活動といった具体的行動につながる好循環が見て取れる。

 

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