日経SDGsフォーラム シンポジウム

持続可能な社会へ企業動く 環境配慮、経営の主題

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国連の第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で示した「産業革命からの世界の平均気温の上昇を1.5度以内」に抑えるため、各国で温暖化ガス排出削減のさらなる積みを目指す動きが広がっている。経済活動の担い手である企業は地球環境や持続可能性への配慮を経営の主軸に置き、「誰一人取り残さない」社会の実現に向けた様々な取り組みを進め、投資家もESG(環境・社会・企業統治)の観点で投資先の選別を強めている。サステナブルな街づくりが進む東京・日本橋で2日にわたり開催した日経SDGsフォーラムシンポジウムでは有識者や企業による先進事例の紹介などを通じ、持続可能な開発目標(SDGs)達成へ向けた道筋を探った。

 <ご挨拶>

 ジェンダー平等へ全力

 内閣府特命担当大臣(地方創生 少子化対策 男女共同参画)、女性活躍担当、こども政策担当、孤独・孤立対策担当 野田聖子氏

 政府は「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」に基づき、各府省一体でジェンダー平等の実現に向けた取り組みを進めている。

 地方創生では地域の活力維持が重要な課題だ。SDGs達成に向けた施策を行う地方公共団体の割合を2024年度までに60%にする目標を掲げ、持続可能な街づくりの実現を目指す。

 子どもの貧困対策は社会全体の課題だ。企業や個人などの寄付による「子供の未来応援基金」は草の根の活動をする団体を支援するものだ。関係機関やNPOと連携体制を整備する自治体には「地域子供の未来応援交付金」による支援を強化する。

 気候変動、自分事で

 国連広報センター 所長 根本かおる氏

 2030年までのSDGs達成の可能性はコロナ禍で遠のきつつある。20年には飢餓人口が増えた。女性や児童への暴力の増加など、取り残されがちな人にしわ寄せがいっている。

 21年12月時点の世界の新型コロナワクチン接種率は4割余りの一方でアフリカは6%にとどまる。公共財であるべきワクチン格差は問題だ。1国でウイルスを抑え込んでも変異し、再流入する恐れがあるからだ。

 より長期的な人類最大の脅威が気候変動だ。世界各地で自然災害による被害が頻発している。こうした地球規模の問題解決には一人ひとりが自分事として理解し行動するとともに、社会の仕組みの変革が必要だ。

 <基調講演>

 Z世代、投資の主役に

 SDGインパクトジャパン CEO 小木曽麻里氏

 ESG投資はここ数年で新しいフェーズに入りつつある。米国では受託者責任を規定するエリサ法の規制改正で、ESG(環境・社会・企業統治)を考慮して投資先を選べるようになる。英国では2019年に職域年金スキーム規制を改正。日本では20年のスチュワードシップ・コードの改定でESG要素を考慮したエンゲージメント(対話)を行うよう定められた。

 また、社会や環境に対するインパクトを企業や投資家も見るべきだとするダブルマテリアリティーの議論が欧米を中心に活発になった。欧州ではこの考え方が既にサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の根底にある。気候変動への取り組みは企業の義務となり、ESG投資もインパクトを求められつつある。

 その背景には環境被害の増大により環境や人的資源の外部不経済を内部化する動きの加速化や、モノより共感に価値を見いだし、新たな資本主義を求める若い世代の声などがある。今やウェルビーイング(心身の幸福)を実現する企業でなければ存続できない時代になる。団塊の世代から若い世代への資産継承が今後20年で活発化する。Z世代がお金を動かす時代がすぐそこまできている。

 ウェルビーイングは多様性の概念がなければ実現できない。日本は多様性、ジェンダーの取り組みが必須だ。21年は人権元年ともいわれているが、所得格差やダイバーシティーは無視できない状況になる。こうした分野への取り組みが日本企業の課題になるだろう。

 正のループへ技術駆使

 シナモン 代表取締役社長CEO 平野未来氏

 人類が活動を急加速した結果、地球に大きな負荷がかかり温暖化につながっている。人間の心の面では、世界的にネガティブな感情が増加傾向だ。「自分が何をしたいか」よりも「他人にどう思われるか」を気にした結果、不幸になっているのではないか。

 心と地球は深いところでつながっている。これまでは短期的な利益追求のために地球環境が破壊され、人々の心がすさむ〝負のループ〟だったが、これを正のループにするため心と地球の課題をテクノロジーで解いていかなければならない。

 今後は全体感を持った最適化が求められるが、人間は全体感を把握しきれないためデータとAI(人工知能)が必要となる。企業は地球と顧客と従業員をつなぐリアルな世界をイメージしてほしい。これはビジネス用語でいうパーパス(存在意義)で、AIの真の役割はパーパスの実現だと考える。

 テクノロジーは使い方で幸福にも不幸にもなる。その境目にパーパスがあり、パーパスを実現すれば人間は幸せになり、地球環境も良くなるだろう。技術が急速に進化すると、ビジネスモデルはすぐに陳腐化してしまう。理想はパーパスが野心的な変革目標にまで昇華されることで、そのために「役に立つこと」ではなく「意味のあること」をすべきだ。

 地球上の様々な課題にはあらゆる企業が同時多発的に全力で取り組まなければ間に合わない。我々はAIを通じてパーパス実現のサポートをしていきたい。

 世界の健康課題に挑む

 キリンホールディングス 代表取締役社長 磯崎功典氏

 当社グループは創業以来、発酵バイオテクノロジーをコア技術として事業を展開してきた。技術力を最大限に活用し、社会と共に成長するのが我々の使命であり、存在意義だ。現在はヘルスサイエンス領域に注力し、免疫、脳機能、腸内環境に重点を置いている。

 当社はビールの〝敵〟だった乳酸菌に注目。免疫研究を35年以上続けており、2010年に世界で初めてプラズマ乳酸菌の免疫維持機能を発見した。

 プラズマ乳酸菌は死んだ菌でも効果を発揮できるため、あらゆる食品への導入が可能だ。今後も免疫のリーダー企業として社会に貢献したい。

 産官学連携の取り組みでは、グループ以外の企業との協業や商品のラインアップの拡大を加速。免疫の重要性啓発活動として研究会を通じた国への働きかけや、プラズマ乳酸菌を題材にした図書を全国の小学校や図書館に寄贈してきた。

 また国内外の大学や研究機関と連携し、様々な熱帯感染症に対するプラズマ乳酸菌の効果について研究を進めるなど、世界の健康課題の解決にチャレンジし続ける。

 高齢化や女性の健康、美容に対しても発酵バイオ技術を活用する。プラズマ乳酸菌同様、科学的エビデンスのある健康素材を使い、商品として提供できるのが強みだ。

 当社は19年、世界のCSV(共通価値創造)先進企業になることを宣言した。社会に寄り添い、コーポレートスローガンの「よろこびがつなぐ世界へ」の実現を目指す。

 消費者の声、生産者に意欲

 食べチョク 代表 ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元里奈氏

 当社はネットで生産者から直接食材や花などを購入できる「食べチョク」を提供。高齢者やネットに不慣れな生産者など「誰一人取り残さない」ことを大切に運営をしている。リリースして約4年になるが、ユーザーの登録者数は50万人、生産者は6000件超だ。

 日本の農家は9割以上が中小規模で、自ら価格決定ができない流通の課題を抱えている。一方、消費者側ではこだわりの食材へのニーズが高まり、直売所やマルシェの人気が高い。この新しいニーズと小規模生産者をつなぐプラットフォームが食べチョクだ。

 新鮮な生産物がすぐに手に入るという物理的なメリットに加え、売り手と買い手が対話できるサービスも好評だ。「子どもが野菜嫌いを克服した」といった消費者の声は生産者のモチベーション向上にもつながる。

 この5年で世の中は変わり、価格や形の価値だけでなく作り手の思いや環境への配慮に消費者の目が向き始めた。

 食べチョクではプラスチックフリー、規格外食材、不ぞろい食材の加工品、アニマルウェルフェア(動物福祉)、持続可能な漁業といったSDGs特集を企画。生産者のつながりを強化して知見を共有し、事業の持続可能化を目指している。

 ネットが苦手な人を支援する「ご近所出品」は若手生産者の提案で始まった。自治体とも連携しノウハウを共有し合う会も開いている。生産者のこだわりやストーリーを発信して持続可能な農業をサポートしていきたい。

 中小企業で独自の試み

 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史氏

 私は現在、国連のグローバル持続可能開発報告(GSDR)の執筆メンバーとして米国に滞在しているが、いよいよSDGsに向けた変革が始まろうとしている。今回がSDGs達成のラストチャンスになるだろう。

 欧州は他地域に先んじてルールを策定しリーダーシップを取ろうと動き始めている。一方、日本はSDGs達成度ランキングで世界18位という状況だ。経済力では世界3位を維持しているのに総合評価が落ちてしまうのは社会・環境対策が遅れているからだ。

 世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数で日本は世界156カ国中120位と下位に沈む。ジェンダーの目標達成は今後日本が成長するカギを握る。

 2021年に開催したSDGs進捗を考査する国連のハイレベル政治フォーラムで日本はステークホルダー評価のレビューを行った。政府は実施指針を策定したが評価の制度づくりはこれからだ。

 現時点でまだ注目度が低いが、SDGsの取り組みで面白い事例が集まっているのが中小企業だ。例えば取引先の拡大や社内外のコミュニケーションの潤滑化、企業イメージ向上による優秀な人材確保などの効果があるようだ。こうした事例を広げていくには行政や自治体の支援が不可欠で、社会全体の変革につなげていくのが理想的だ。

 コロナ禍でもESG投資やエシカル消費への関心は高まっている。地球環境と多様性確保の取り組みを大きな力に変えていくことが重要だ。

 

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