アフターコロナの地方創生

持続可能な〝本物〟へ 既成概念破る事例続々 日経地方創生フォーラム

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

テレワークが特別なことではなくなり、都市への転入超過に歯止めがかかるなど地方への経済循環にフォローの風が吹く。デジタル技術の浸透や高付加価値を生み出すための人材育成により、持続可能な“本物”の地方創生へと続いていく素地が整ってきた。日本経済新聞社が11月11日に実施した、コロナ後の社会を見据え具体的事例から持続可能な経済循環を考えるフォーラム「アフターコロナの地方創生」では、その息吹を存分に感じさせる多くの講演や討論を実施。観光やまちづくりの概念を一変させる発表が相次いだ。

 [挨拶]変革の波 地方から

 デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣氏

 地方創生については、2014年に地方創生の取り組みをスタートさせて以来、多岐にわたる施策を推進し、地方の創意工夫を生かした様々な取り組みが全国各地で行われている。

 今般の新型コロナウイルス感染症の拡大は、地域の経済・社会に大きな打撃を与えたが、一方で東京都への転入超過数の減少や、地方移住への関心の高まり、テレワークの普及など、国民の意識、行動にも変化をもたらしている。

 国民の意識、行動に生じた動きを逃すことなく、地方移住や地方創生、テレワークの推進、デジタル化や脱炭素化にも資する地方への人材支援などに取り組み、都会から地方への力強い人の流れを作り出すことが必要になる。

 こうした中、地方の活性化に関して、10月発足した岸田内閣では、「デジタル田園都市国家構想」を掲げた。地方は高齢化や過疎化などの課題に直面しているが、まさに地方にこそ介護や農業、観光をはじめ、デジタル技術を活用するニーズがある。デジタル田園都市国家構想に取り組むことで、地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮め、地方の活性化を目指す。

 本日の各セッションはいずれも地方の活性化に資する重要な要素を含んだ取り組みになる。

 [講演]未来世代のニーズ満たす

 ニセコまち 取締役/クラブヴォーバン代表 村上 敦氏

 今後のグローバルリスクで最も影響が大きいのは気候変動問題だ。脱炭素化の流れが加速する中、温暖化ガス排出ゼロに向けた投資資金は世界で3000兆円規模になるといわれる。日本でも脱炭素問題がようやくクローズアップされるようになったが、2050年までに気候中立を目指すという世界目標に対して、日本市場は何か売るべきものを持っているだろうか。

 私はドイツ在住で、日本に欧州社会の変革の様子を紹介するべく1万人以上の視察者を受け入れてきた。私が住むフライブルク市のヴォーバン住宅地は、1990年代にフランス軍施設跡地を国から払い下げて都市計画がスタートした。同時に住民団体が設立され、行政計画に強く関与した結果、一般的なドイツの住宅地開発との比較で「70%以上のCO2削減」「80%以上のマイカー利用削減」などが実現。さらに子育てしたいまちの代名詞になったことで不動産価値が上昇した。住民の経済性も向上し、今では世界中から模範とされている地域だ。

 私は日本で2008年に一般社団法人クラブヴォーバンを設立し、グローバルスタンダードなまちづくりを提案している。15年には「持続可能な発展のための自治体会議(持続会)」を設立。日本の小規模自治体の勉強会や相互視察を実施してきた。その結果、18年の自治体SDGsモデル事業に、われわれの持続会から3自治体が選定された。

 そのうちの1つであるニセコ町の取り組みは非常に意欲的だ。われわれはヴォーバン住宅地のノウハウを十分に抽象化した上で、農村でも機能する形で「NISEKO生活モデル地区構想事業」を打ち立てるサポートをした。この構想事業は、教育移住などで人口増加傾向にあり、外国籍住民が多いニセコ町で、新しいまちづくりとしてできることを町民と3年間かけて考えた内容だ。

 地域課題としては世帯数の増加と住宅不足、温暖化ガス削減がある。住民への調査では「暖かい家に住みたい」「除雪や庭の手入れが大変」「光熱費を抑えたい」などの理由で過半数超が家の住み替えを検討していた。これらのニーズをSDGs街区で対応するために、われわれは官民連携のまちづくり会社「ニセコまち」を設立した。

 豪雪・極寒のニセコで未来の世代のニーズを十分満たすような開発を実現できれば、北半球においてどこでも実現可能になるだろう。ニセコの取り組みを脱炭素市場におけるマイルストーンにしようと、関係者一同気合を入れて設計に取りかかっている。

 [討論──SDGs未来都市へ]ニセコ、脱炭素の街追求

 ニセコ町長 片山健也氏/WELLNEST HOME 創業者・ニセコまち 取締役 早田宏徳氏/WELLNEST HOME 代表取締役社長 芝山さゆり氏

 北海道・ニセコ町では「SDGs未来都市」を打ち出し、持続可能な生活空間であるモデル地区のまちづくりが進められている。プロジェクトの先頭に立つ4氏が、実現への構想や進捗状況を語り合った。

 芝山 ニセコ町のまちづくり構想について聞きたい。

 片山 かつて作家の有島武郎は「相互扶助」の精神を説き、ニセコで自ら所有していた農地の無償開放を宣言した。われわれはSDGsとは相互扶助を意味すると考え、まちづくりの理念の一つとしている。住民の環境意識は非常に高く、これまで地下水保全条例など様々な取り組みを実施してきた。現在は環境モデル都市として、50年度までに二酸化炭素(CO2)を86%削減することが目標だ。ニセコ町の7割が建物由来のCO2排出のため、環境配慮型住宅の建設などを通じてカーボンゼロを目指している。

 村上 われわれニセコまち社は、ニセコ町新庁舎におけるエネルギー計画のお手伝いをした。庁舎は災害時の防災拠点でもあるので、エネルギー源の分散化による安全性向上を提案。電気と灯油に加えて、自家発電機とLPGコージェネレーションを導入した。小さなエネルギーで真冬でも快適な環境を維持できる高性能断熱材などを使用しており、今年11月の時点でも無暖房で過ごせている。見どころ満載の庁舎なので、チャンスがあったらぜひ来ていただきたい。

 産官で「第二役場」も

 早田 日本の住宅は世界的に見ると短命だ。日本ではトップの性能でも、ドイツでは建築基準法すら通らず、エネルギー効率の面でも非常に性能が悪い。私は村上氏との出会いでそのことを知り、住宅会社を退職。日本で世界水準の高性能住宅を実現するべく12年にウェルネストホーム社を起業した。現在では全国で年間約180棟の高気密高断熱の住宅を供給。20年にはニセコまち社と包括的連携協定を結び、ニセコ町の持続可能なまちづくりに関わっている。

 芝山 ニセコ町では官民連携をどう考えているか。

 片山 日本社会は戦後、行政サービスの向上という美名の下、住民の地域力や自治力を奪い取ってきた。この仕組みを変えるには、まちづくりを行政だけでなく多様なセクターが担う社会にすべきだ。ニセコはSDGsの発想で住宅不足という大きな課題を克服しようとしている。町民や町内事業者によって再エネなどの発電事業や社会的な交流ある住宅提供が行われ、地域循環につながればいい。ニセコまち社が「第二役場」として地域の活力を生み出していくことを期待している。

 早田 ニセコは全国でも珍しい人口増加エリアだ。住宅供給を民間だけに任せていると、地価や家賃がどんどん値上がりし続け、決して住民の幸せにはつながらないだろう。とはいえわれわれニセコまち社は小規模な会社なので、ぜひ皆様の協力をお願いしたい。

 芝山 まちづくりにおいてSDGsは大事な観点だが、市民に関心を持ってもらうのは難しかったのではないか。

 片山 先ほども述べたように、ニセコは相互扶助がキーワードだ。将来にどんな価値を残していくかを自分ごととして皆が考えており、これまでやってきたこと自体がSDGsだという自負を持っている。このたび地球温暖化と住宅不足という二大問題に真正面から向き合うべく、議会の応援を得てニセコまち社を立ち上げた。まちを挙げてSDGsに取り組み、全国にこうした理念や活動が広まればいい。

 芝山 ニセコまち社の取り組みはどのようなものか。

 早田 自分の家だけが幸せになっても、コミュニティーやまちが持続可能ではない限り、価値がどんどん毀損されていく。われわれは持続可能かつ幸せな街区を形成している、ドイツのヴォーバン住宅地を手本に取り組んでいる。

 村上 ヴォーバン住宅地では、住宅のストックの価値が年々数%上がる前提に立ち、持続可能な都市計画を実施している。しかし日本では法律上あまりうまくいかない。土地を持つ人の自由度が大きく、過剰供給になって価値がいずれ毀損されてしまうためだ。われわれはヴォーバン住宅地のように長持ちする、価値が毀損されないインフラや建物を日本で実現しようと計画している。将来の人口推計を見極めながら、住人の世帯人員や住み替えなどのニーズにも対応したエリアを実現するのがニセコ町のSDGsのまちづくりだ。

 ■計画、柔軟に変えて

 芝山 村上氏が立ち上げた「持続可能な発展のための自治体会議(持続会)」に参加した9自治体のうち、ニセコ町を含む3自治体が第1回SDGs未来都市のモデル事業に選ばれた。その理由は何か。

 村上 持続会では片山町長をはじめとして、いいまちを作ろうと持続可能な取り組みを柔軟に行う自治体が集まった。悩みや失敗などについて自治体同士で相談し合える場を作れたこともうまく機能した。こういう勉強会では珍しく、自治体の建設や建築、技術、エネルギーの担当者が参加していたのも良かった。

 片山 行政は計画に縛られ、その通りにやること自体が美しいと思ってしまう。しかし、時代の流れに合わせて柔軟に変えていくことが重要だ。そこを変えられるのが民間企業や住民自治の力だと思う。

 行政に任せるのではなく、一人ひとりが自ら考えて行動する。しかも「見える化」されていて、風通しが良いことが大前提だ。私たちの町にはタブーはないので、どんどん自分の価値観を発信し、議論してほしい。自由な町であることが多くの人の共感を呼んでいる。「共感資本社会」をつくることが、連携して助け合える社会を生むのではないか。

 早田 「このまちに暮らしたら安心、安全だ」と思えるようなまちをつくりたい。来年3月25日にはニセコ視察ツアーが開催されるので、百聞は一見にしかずで、ぜひその快適さを実感してほしい。

  ◇  ◇  ◇

 [講演]6学部新設、地域課題を研究

 東海大学 学長 山田清志氏

 東海大学は来年、6学部を新設する。現在は東京、湘南、札幌、静岡、熊本にキャンパスがあり、熊本には文理融合学部を新設。熊本地震で被災した阿蘇キャンパスでは、広大な跡地を利用し、地域連携で「あか牛」の育成等に取り組む。また2023年には熊本空港のリニューアルと同時期に、空港隣接地に農学部の新キャンパスが完成予定だ。

 静岡キャンパスには若者の県外流出を防ぐ目的もあり人文学部を新設する。海洋学部ではレトルトカレーや海藻を練りこんだかまぼこの開発など、地域と連携した食品開発も行っている。医療分野での地域貢献では、海洋調査研修船を利用して医学部のスタッフが小笠原に出向き、島民にワクチン接種を行った。医学部付属病院は東京、八王子、伊勢原、大磯にあるが、新型コロナ患者受け入れ数は6カ月間で2000人を超える数になっている。

 またキャンパスのない名古屋地区では東海大学、豊橋技術科学大学、中部大学、デンソーが共同で、新型コロナウイルスを検出するバイオセンサーを開発し実用化を進めている。

 「神奈川ウェルネスコリドー」は湘南キャンパスと周辺の3市3町で回廊(コリドー)を形成し、大学を中心に地域を活性化させる取り組みだ。一般社団法人をつくり様々な企業も参加している。「生活のコリドー」では、例えばバス会社と共に地域の交通利便性を高める取り組みを検討中。児童教育学部の新設により、地域の子育て支援も行う。健康につながる医学、体育、健康の各学部と、食を扱う農学部の連携による「健康のコリドー」や、農業や林業へ人材を供給するための「産業のコリドー」にも取り組む。本学は学生数約3万人で、関東以外のキャンパスの学生は6000人に上る。大学として地方創生に貢献することは大きな使命と考えている。

 [講演]獺祭、世界ブランドに

 旭酒造 代表取締役社長 桜井一宏氏

 旭酒造は山口県岩国市の山奥に酒蔵を構える小さな日本酒メーカーだ。生産しているのは純米大吟醸の「獺祭(だっさい)」1ブランドのみ。しかし、昨年の海外向け販売額は35億円と日本酒全体の15%弱を占め、今年はさらに倍増の輸出を見込んでいる。

 日本酒好適米として知られる山田錦を50%以上磨き、アルコールを加えず、小さなタンクで年間3000回に及ぶ仕込み作業をすべて人の手によって行う。機械力に頼らない品質重視の酒造スタイルにこだわる理由は、先代が酒蔵を引き継いだ40年前、弊社が地元では完全に「負け組」だったことが大きい。当時は価格よりも品質勝負のバブル時代、東京市場への適応を目指し、「おいしい酒」を追求して開発したのが獺祭だった。

 味の決め手となる酒米の供給量を確保するため、3年前から「山田錦プロジェクト」をスタートさせた。食味コンテストを通じ、高く売れるが栽培が難しい山田錦の生産地を拡大させ、生産農家の経済的安定を実現、地域経済の活性化につなげようという試み。いろいろな地域に声がけを行った結果、原産地の兵庫県だけでなく新潟や栃木などにも生産地が広がってきた。

 今年5月、日経新聞に「飲食店を守ることも日本の『いのち』を守ることにつながる」とする意見広告を出稿、大きな反響をいただいた。「飲食店を中心とする地域経済の復活なしに日本の再生はあり得ない」。そんなメッセージを伝えたかったのだ。

 コロナ後を見据え、海外展開にも力を入れる。スポーツと同様、世界中に出ていって強くなることが地元への恩返しになる。すでにニューヨークで建設中の酒蔵も、来年完成の予定。一般のお客様を集めた試飲会「獺祭の会」をニューヨークや上海などで開催するなど、海外でのさらなる日本酒普及を目指す。

 [講演]食通じ街を面白く

 バルニバービ 代表取締役会長 CEO 兼 CCO 佐藤裕久氏

 1995年の阪神大震災の後、飲食店が人を勇気づけることを再確認したのを機に1号店をオープンした。僕たちは地方創生を「地方創再生」と言っている。今までの地方創再生は公的な助成金に頼り持続性がなかった。助成金を得る審査の範囲では面白いものはできないというのが持論になる。

 地方には「退屈」「卑屈」「窮屈」の3つの屈「3屈」があり、それを覆す事ができれば、地方に住みたい人も出てくるはずだ。そのために飲食業は有効な手段になる。食べるだけでなく集うことで喜びや悲しみを分かち合えるし、大きな雇用を生むこともできる。

 当社では2年前、兵庫県淡路市にレストランを開業した。最初、スタッフは住みたくないと言っていたが、数カ月後には多くの人間が移住した。10年以上取引のあった農水産物の生産業者が出店に協力してくれたのも大きい。

 地方創再生は観光ビジネスを盛んにすることではない。多くの観光地は日没前に人が減り飲食店も16時半には閉まる。いい旅館があっても施設内で完結したら街はにぎやかにならない。最終的に住みたくなることが地方創再生になる。

 淡路島の西海岸のレストランは、きれいな夕日を見ながら食事ができる。不便な場所でも足を運びたいと思わせるものを造ることが大事だ。2020年にはホテル、今年はコテージ、BBQ&ピクニックエリア、ラーメン店、すし店、BAR、散歩ができる遊歩道も整備した。さらに廃校を買い地域活動の拠点にしてコミュニティーを復活させていく。

 地域の人とコミュニケーションしながら新しい血を入れ、面白くなかった地方の街を、食を通して面白くすることが地方創再生だと思っている。

 [講演]若手人材のネットワークを

 移住・交流推進機構 業務執行理事 椎川 忍氏

 地方創生第1期の成果は、日本創成会議が指摘した「消滅可能性都市が約900ある」という問題を広く国民に知らしめたことだ。解決に向けた恒久法「まち・ひと・しごと創生法」も制定され、当初予算で1000億円規模の地方創生関係予算が確保されるようになった。さらに内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、内閣府地方創生推進事務局の体制も整備された。

 特に強調したい成果は、私の提言に基づき、Eラーニングによる人材育成システム「地方創生カレッジ」が創設されたことだ。これまで国は地方に多くの財源を流してきたが、肝心の地域の人材育成をしてこなかった。地方創生を志す者が実践的なカリキュラムを無料で学べるようになった意義は大きい。

 一方で、残された課題も多い。大臣や公務員は任期や異動周期が1~2年から長くて数年で、短期的で対症療法的な政策が多く、根本治療的な対策が打ち出せていない。その最たるものが教育分野での取り組みだ。子供たちが地域に戻ってきたいと思えるような教育をできるかが問われている。文部科学省、教育委員会が役割を認識して取り組むべきだ。

 地方創生が中央集権的手法で進められ、市町村止まりになってしまっているため住民に浸透しきれていないのも問題だ。地方公務員でも正しく理解している人は少ない。単なる地域活性化ではなく、サステナブルな地域づくりが究極の目標だと認識すべきだ。

 地方創生の第2期には2つの重たい課題がある。出生率向上と、東京への一極集中を是正することだ。そのためには、国民の価値観の転換を促す必要がある。豊かな地域にするためには、基本的には付加価値生産額を大きく伸ばさなければいけない。その地域に付加価値を高くする産業が育っていけるかをRESASなどで分析することが重要だ。

 地方創生は特定分野の人材だけではできない。都市人材や企業人材、内外の専門家を活用してチームを組み、イノベーションを起こす若手人材のネットワークを構築する必要がある。地域活性化センターではアクティブ・ラーニングで地域のイノベーターとなる横串人材の育成を行っているので、ぜひ参考にしてほしい。

 [対談]日本の観光、量から質へ

 早稲田ビジネススクール 教授 池上重輔氏/早稲田大学アカデミックソリューション 社会連携企画部 主幹研究員 桑原佐知子

  「インバウンドとアウトバウンドの循環による地方活性」をテーマに池上重輔氏が講演し、桑原佐知子氏が新潟県燕三条地域の例を紹介した。

   ◇  ◇   ◇

 池上 アインシュタインは「困難の真ん中にこそ好機がある」と言った。困難を好機に変えるにはパラダイム(考え方)を変えることが大事だ。アラブ首長国連邦のドバイは砂漠にある人工都市だが、世界一のモノをたくさん作って成功した。一方、イタリアのソロメオ村は「ブルネロ クチネリ」という高級ブランドにより村の風情を変えずに高付加価値のモノを提供している。地方創生には様々なパターンがある。資金やアイデアは外部の資源を活用して発展させる発想が大事だ。

 観光も大きな発想の転換が必要だ。良いものを安く提供するサービスが中心の従来型観光では持続性がない。安くて高サービスなものは働く人の犠牲によって成立する場合が多いのが実情だ。日本の観光は海外の富裕層のニーズと提供サービスにミスマッチがあるのも課題になる。

 紹介したいのはインバウンドとアウトバウンドが循環して発展するフレームワーク「インバウンド・アウトバウンド・ループ」。好循環をつくるには観光事業者と非観光関連事業者の連携も大事になる。海外事例ではカリフォルニアのナパバレーがある。同地の高級ワインの歴史は60年未満だがイノベーションとマーケティング戦略を駆使した長期戦略で、外の権威を活用し高付加価値・高価格化に成功している。約9割のブドウ園が共同団体に所属し連携しているのも強みだ。

 国際観光は世界で急成長を遂げてきた経済セクターの一つで、米国では輸出品目として輸送機器に次ぐ2番目の規模である。2019年の日本の国際観光客数は3190万人で世界11位だが、1人当たり収入は34位。日本には素晴らしい自然、良質な食がそろっているので、量から質への転換で持続的発展は可能と思う。

 そのためには経験価値化、地域連携、高付加価値化・高価格化がカギになる。経験価値化では顧客経験を重視し、客が楽しいと感じるようなことを提供する。例えば岡山のジーンズストリートはメーカーが集まり、街全体をオープンファクトリー化して経験価値を高めている。高付加価値を高価格に反映するには、反応を見ながら値段を調整、外部の評価を利用、希少性の伝達などの方法がある。

 高付加価値化の具体例として新潟県燕三条地域を紹介してほしい。

 桑原 燕三条地域は金属加工産業の集積地として知られ、伝統と最先端が融合する地域である。金属製品製造業の製造品出荷額等は一時、ピーク時の半分に減少したが19年時点では、燕市がピーク時の約8割、三条市で約6割にまで回復した。両市はライバル地域ではあるが海外販路開拓、インバウンドプロモーションでは連携している。

 燕市の鎚起(ついき)銅器の老舗・玉川堂では職人が訪日外国人に外国語で説明。また十数万円のティーポットなど高価格商品も販売している。三条市の庖丁工房タダフサは経験価値化が充実している。また燕三条工場の祭典では工場を開放し製品の良さを伝えている。

 池上 燕三条の課題は。

 桑原 旅ナカの観光体験充実、顧客情報の収集・管理、旅行後のフォロー、特に顧客データベース化し国内外に情報発信するなどでループがよりうまく回ると思う。

日経地方創生フォーラムとは
 「日経地方創生フォーラム」は、日本経済再生の鍵となる地方の活性化を経済の視点からサポートするため、2015年に発足しました。地域経済を持続的に発展させるための仕組みづくりをする企業や自治体等の取り組みを紹介することで、地域の課題解決につながる情報提供や交流の場づくりをお手伝いしています。
●最近取り上げた主なテーマ
ワーケーション/テレワーク・地方移住/中小企業活性化/ス
ポーツ/SDGs未来都市/インバウンド/アウトバウンド ほか
●過去1年間のアーカイブ視聴は日経チャンネルで───
https://channel.nikkei.co.jp/

 ■日経地方創生フォーラム アフターコロナの地方創生

 主催:日本経済新聞社

 後援:内閣府

 協賛:清水建設 旭酒造 東海大学 バルニバービ ウェルネストホーム 移住・交流推進機構

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。