はじまる水素社会

「作る・ためる・運ぶ・使う」 水素実装、新ステージへ 社会イノベーションフォーラム(上)

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 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、水素利用が注目されている。再生可能エネルギーなどを用いた水素製造や国際サプライチェーン構築への実証事業など、社会への実装が加速している。9月14日にオンラインで開催した日経社会イノベーションフォーラム「はじまる水素実装ステージ」では、世界規模で動き始める水素社会で「作る・ためる・運ぶ・使う」取り組みの進捗と展望が示された。

 [挨拶]

 技術モデル創出 海外市場獲得も

 経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部長 茂木正氏

 新たなエネルギー基本計画の政府案がまとまった。水素が2050年に電力・非電力部門の脱炭素化に必要不可欠なエネルギー源であること、30年のエネルギーミックスの中でも水素とアンモニアの燃焼による発電を合わせて1%とすることを明記した。

 今後、水素の製造から輸送、利用までの一体検証やグローバルで通用する社会実装モデルを作り、海外市場を獲得すること、世界に誇る技術モデルを創出するためにグリーンイノベーション基金を最大限活用するなど、政府として社会実装をサポートしていく。

 [基調講演]

 国際供給網を構築 国内では地産地消も

 東京工業大学 特命教授・名誉教授 柏木孝夫氏

 2050年までの平均気温上昇を1.5度以下に抑えなければ気候変動が進み、生態系への影響も大きい。カーボンニュートラルの実現は世界の潮流で、空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収するDACCS(直接大気回収・CO2貯留)や資源化まで視野に入れないといけない状況だ。

 脱炭素化には、電化とともにCO2を排出しないゼロエミッション型電源を増やすことが不可欠。さらに熱利用している化石燃料などを水素に置き換えていく。

 水素を燃料として利用し、燃料電池にも使用する水素社会が世界で注目され、具体的な動きが出始めている。日本でも政府が昨年末に掲げたグリーン成長戦略の中で、水素導入量の拡大とともに30年に水素コストを1N立方㍍(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり30円、将来は20円に下げる目標を掲げている。

 水素の供給源は2つある。一つは再生可能エネルギー活用によるCO2フリーの水電解で製造するグリーン水素で、もう一方は化石燃料によるもの。後者は製造過程でCO2を排出するグレー水素だが、製造過程のCCUS(CO2回収・利用・貯留)によってブルー水素になる。これらの水素をコストの低い海外で製造し、日本に運ぶ国際サプライチェーンを確立する。

 国内では、グリーン水素を製造・供給し消費できる仕組み、つまり地産地消を進める。水電解に必要な電力は、太陽光に加え今後は洋上風力も使われることになる。国際的な水素サプライチェーンと地産地消を組み合わせて発展させることで、本格的な脱炭素社会が始まる。

 カーボンニュートラルの実現には燃料の多様性が重要。水素に加え、水素を活用した合成燃料の開発、グリーン水素とCO2を原料にメタンガスを合成するメタネーションもある。ケミカルエンジニアリングに強みがある日本の技術を活用・発展させることで、日本が化石燃料の輸入国から合成燃料輸出国になる可能性もある。水素はこれからの日本の成長戦略の要だ。

 [講演]

 用途に応じた最適解を提供

 日揮ホールディングス 常務執行役員TCO(テクノロジー・コマーシャリゼーション・オフィサー)サステナビリティ協創部長 秋鹿正敏氏

 水素は他元素と結合しやすく、水素だけの形では自然界にほぼ存在しない。水の電気分解や廃棄プラスチックからの資源循環など様々な方法で製造できるが、再エネコストが高い日本では、いかに効率よく製造し、消費地に運ぶかが重要になる。輸送・貯蔵の際のキャリアとして液化水素、有機ハイドライド、アンモニアなど様々な形態があり、それぞれの特性や用途によって選択の最適解は異なる。

 水素・アンモニアの普及への当社の取り組みの柱は3つ。まず低炭素燃料・ケミカル燃料アンモニアとして期待されるブルーおよびグリーンアンモニアの早期市場投入だ。グリーンイノベーション基金事業第1弾として、再エネを使うアルカリ型電解水素製造システムを開発するグリーンケミカル実証に着手する。

 2つ目は、地産地消型の水素サプライチェーン構築を狙い、廃プラからの水素製造や有機ハイドライドのサプライチェーン構築を進めている。当社は世界でも類のない長期商業運転実績を持つ廃プラの合成ガス化技術の実施許諾権を保有しており、年1万㌧の廃プラから水素1450㌧を製造できる。米国カリフォルニア州向けの水素製造実証事業では、現在の国内での水素製造コストの100円/N立方㍍に対し、30円/N立方㍍の早期実現の可能性が高い。

 3つ目は多様な水素キャリア貯蔵基地建設への貢献。液化天然ガス(LNG)で培った当社の技術が役に立つ。

 当社はゼロエミッション燃料の導入と利用拡大、再エネ普及、CCS(CO2回収、貯留)などを通じ、脱炭素社会に移行するスマートトランジションを目指していく。

 HC電解質膜でコスト低減

 東レ 常任顧問経営企画室(水素関連事業戦略)担当 出口雄吉氏

 水素は、産業、運輸部門共通のエネルギー源として利用が進むだろう。ただしカーボンニュートラルの実現には、製造段階でCO2を排出しないグリーン水素の供給拡大や製造コストの低減も必要になる。 

 グリーン水素製造用の水電解装置には、アルカリ電解質を加えた水を電極間で分解するアルカリ型と高分子電解質膜(PEM)の両側に電圧を加えて水を分解するPEM型がある。当社の炭化水素系(HC)電解質膜は、このPEM型水電解装置の高性能化を狙っている。

 HC電解質膜は高いプロトン(水素イオン)伝導性を備えるほか、ガスが透過しにくいため高効率で水素を製造できる。また、耐熱性に優れ、高温駆動も可能となる。これらの特徴で燃料電池の高出力化、電気化学式水素圧縮機や水電解装置の高性能化に貢献できる。特にPEM型水電解装置は近年主流になり、今後の市場拡大が期待できる。

 当社は水素コストの低減に向け、国内初のMW級PEM型水電解技術の開発・実証などに取り組んでいる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として山梨県甲府市米倉山で行った再エネからのP2G(パワー・ツー・ガス)システム開発では、従来のフッ素膜に比べ同じ電圧で膜面積あたり2倍の水素を製造できた。引き続きグリーンイノベーション基金を活用し、国内最大級の水電解装置の社会実装と電力・非電力の脱炭素化を進めていく。

 独自のHC電解質膜で水電解装置を高性能化し、現在の化石燃料に匹敵する水素コスト実現とグローバルなグリーン水素サプライチェーン構築を目指していく。

 商用供給網構築へ連携を

 岩谷産業 取締役締役常務執行役員水素本部長 津吉学氏

 当社の水素事業は、多様な原料ガスから水素を生成し、圧縮、液化をして産業分野に供給するサプライチェーンのすべてを行う。国内の水素流通の約7割、液化水素はすべて当社が担っている。

 国内の水素製造量は年間約200万㌧でそのほとんどは自家使用にとどまる。しかし今後は、水素社会に向けて水素発電、燃料電池車(FCV)などの使用が拡大する。不安定な再エネも水素に転換・貯蔵しておけば、必要な時に必要なだけ利用できる。現在は国内ソースを使って製造しているが、これからは再エネコストの安い海外にソースを広げていく。

 NEDO実証事業としてグリーンイノベーション基金を使い、商用サプライチェーンを想定した規模の設備を作る。現在、オーストラリアの未活用の褐炭を利用して水素を製造し、国内に輸送する準備が進められているが、さらに商用レベルの大規模実証に取り組む。また、水素製造についても褐炭のほかに豪でのグリーン水素の製造も検討中だ。

 さらに廃プラスチックの熱分解で生成した水素の利用やプラスチックリサイクルで副生する水素や液化石油ガス(LPG)成分の利用、バイオマスから直接水素を取り出す技術も検討していく。

 水素サプライチェーン構築には協働が不可欠。当社も国際的な水素協議会(ハイドロジェンカウンシル)に参加するほか、水素バリューチェーン推進協議会、日本水素ステーションネットワーク(JHyM)などでも主要メンバーとして活動している。今後、水素社会の構築には、多くの企業が参加し連携していくことが重要になってくる。

 既存設備も使い利用拡大を

 ENEOS 常務務執行役員中央技術研究所・水素事業推進部・FCサポート室管掌 宮田知秀氏

 水素は運輸・産業・電力の幅広い分野で活用可能で、新たな燃料として非常に大きなウエートを占めることになるだろう。太陽光や風力など再エネのコストは欧米やオーストラリアなどでは低コストだが、日本の地理的環境では難しい。再エネコストの低い国で水素を製造し日本に導入した方が競争力を維持できる。

 当社では、CO2フリー水素サプライチェーンの構築、それを燃料として運輸分野に向けた水素・合成燃料事業の拡大、そして電力と水素を組み合わせた地産地消型エネルギーマネジメントシステムの全国展開の3つを戦略として取り組んでいる。

 水素サプライチェーンでは、ボリューム、コストの面で競争力がある豪の再エネでグリーン水素を製造してMCH(メチルシクロヘキサン)に変換し、輸送する。中東では、化石燃料から製造過程でCO2を排出しないブルー水素の製造を検討中。マレーシアを中心に東南アジアでも事業開発を検討している。

 水素とトルエンを反応させたMCHは、常温常圧では液体であり、ハンドリングが容易なのが利点。ガソリンに近いので既存設備がそのまま使用できる。既存船舶による輸送も可能で導入が早く、初期コストも低い。MCHの技術はほぼ確立されているが、一気にトルエンをMCHにする直接電解合成の研究を進めている。

 グリーンイノベーション基金を活用し、MCHサプライチェーンの大規模実証や発電用の水素専焼タービン開発も行う。さらに液化水素サプライチェーンの商用化実証にも参画しており、当社として水素の燃料利用拡大に積極的に取り組んでいる。

 国内外で進む製造実証

 Jパワー(電源開発) 取締役常務執行役員 笹津浩司氏

 水素の主な製造法には、石油や天然ガスの改質と石炭ガス化、そして水電解がある。資源の安定調達やCO2の処理、コストや供給の安定性など、それぞれ長所・短所が存在するが、多様な製造方法の確立は、カーボンニュートラルへの移行に不可欠だ。

 当社は石炭ガス化、ガス精製、CO2分離・回収技術を持ち、これにCO2貯留技術(CCS)を組み合わせ、化石資源からCO2フリーのブルー水素製造を早期に実現する。水力や風力発電の運用ノウハウもあり、今後、グリーン水素製造も視野に入れている。

 石炭ガス化技術については、当社は30年以上前から研究開発を始め、2008年には水素製造を実証。石炭は調達リスクも少なく、貯蔵も容易なレジリエントな1次エネルギー。バイオマスとの混合ガス化とCCSで大気中のCO2削減に貢献できる。

 国内でCO2フリー水素を製造する場合、既存の石炭供給網を活用できるが、国内でのCCSが課題。海外からの水素輸入は、有望なCO2貯留地が近い炭鉱を製造サイトとしたうえで、水素の大量輸送手段が課題となる。

 現在、当社はNEDO助成事業として中国電力と共同実施の「大崎クールジェンプロジェクト」で、すでに純度85%の水素を製造しており、来年初めにはその水素を用いた燃料電池も稼働させる。海外では、今年1月からオーストラリアで褐炭からの水素製造を開始。商用化の際は大規模化・CCSプロジェクトとの連携でCO2フリー水素の安定・大量供給を目指す。

 今後実証成果や技術を総動員し、水素製造や発電利用など、カーボンニュートラル実現へ幅広く取り組んでいく。

 今後、石炭火力発電所にガス化システム追加やCCSを組み合わせたアップサイクルに取り組ん

 

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 主催:日本経済新聞社、日経BP

 メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

 後援:経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

 協賛:日揮グループ、東レ、岩谷産業、ENEOS、Jパワー(電源開発)

 特別協力:三菱地所

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