アフターコロナの働き方

リモートワークはイノベーションにマイナスか? 同志社大学政策学部教授 太田 肇

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 リモートワーク(テレワーク)が普及するにともない、生産性への影響が真剣に議論されるようになってきた。新型コロナウイルス禍が終息したあともリモートを続けるか、対面に戻すかの経営判断は、生産性にかかっているといっても過言ではない。

 とりわけわが国の場合、カギとなっているのがイノベーションへの影響である。そこで、日本企業の特殊性も念頭に置きながら、リモートワークがイノベーションにプラスとなるのか、マイナスになるのかを探ってみたい。

 早々に対面へ戻す海外企業も

 コンピューター・ソフトのアドビが昨年、日本とアメリカの労働者それぞれ約1000人を対象に行った調査では、在宅勤務に移行した後、アメリカでは生産性がそれまでと同等か上がったという回答が77%に達するのに対し、日本では「下がる」という回答(43%)が「上がる」という回答(21%)の2倍にのぼる。

 とくに日本はコロナ禍以前からアメリカに比べるとイノベーションが起きにくく、それが生産性の足を引っ張ってきたと考えられているだけに、リモートワークがイノベーションのさらなる足かせにならないか懸念される。

 リモートワークのマイナス面が比較的小さいアメリカでも、コロナワクチンの接種が進み感染者数が頭打ちになるにつれ、リモートから対面に戻す動きが目立ってきた。イノベーションのシンボル的存在ともいえるようなグーグルやアップルでも、出社勤務に戻そうとする姿勢を見せている。

 また昨年、いち早くコロナ禍の克服を内外にアピールした中国では、企業の開発現場などでリモートから対面に切り替える動きが報じられた。開発などの最前線では、やはり場を共有しながらでないと深い議論や細かい情報の交換がしづらいといわれる。

 職場の同調圧力がイノベーションを妨げるおそれ

 ところでイノベーションには2種類ある。一つは製品のコンセプトや業界の構図を変えるほど大規模なイノベーションであり、もう一つは改善の延長もしくは積み重ねのような比較的小規模のイノベーションである。一般にイノベーションと呼ばれるのは前者であり、日本は後者が得意な半面、前者は苦手だといわれてきた。

 オックスフォード大学のカール・B・フレイらの研究では、リアルチームは大胆なイノベーションを創出する可能性が高いのに対し、リモートチームは既存のイノベーションの小幅な改善に適していることが明らかになったという(2021年9月22日付、日本経済新聞「経済教室」)。

 では日本企業も対面に戻せばよいかというと、コロナ禍がまん延する前からイノベーションが低調だったことを考えれば、それですむ話ではない。とくに日本の会社は共同体的な体質があり、同調圧力が強いだけに対面だとイノベーションの芽が育ちにくいという問題がある。

 一般にリアルな環境ではリモートに比べて刺激が多く、生の情報が直接入ってくる。自分の意見に対する反応も即座に返ってくる。そうした刺激や情報に触発されてアイデアが浮かぶことが多いし、そのアイデアを育てる知恵も周囲から得られる。そのいっぽうで、環境によってはリスクを回避し、先例を重視する空気が支配していたり、せっかくのアイデアが周囲からつぶされたりする。

 

 

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。