競争しない競争戦略

グリコ・アスクル なぜ他社製品も販売するのか? 早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫

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 価格競争による不毛な消耗戦など企業間の厳しい競争に打ち勝ち、大きな利益を上げるためには「競争しないこと」と早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授はいいます。「競争しない」状況をつくるためには、「ニッチ」「不協和」「協調」の3つの戦略があります。ニッチ戦略はリーダー企業との競合を避け、特定市場に資源を集中する戦略。不協和戦略はリーダー企業の経営資源や戦略にジレンマを起こさせる戦略。協調戦略はより強い企業と共生し、攻撃されない状況を作り出す戦略です。この連載では、山田教授の著書『競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択』(日本経済新聞出版)のなかから、戦略別に企業などのケーススタディをとり上げ、「競争しない」状況どう作り出すかを明らかにします。最終回の第7回は協調戦略の「バンドラー」型のなかから、グリコとアスクルのケーススタディを紹介します。

 

 協調戦略

 ■バンドラー―他社品も組み込む

 バンドラーとは、新たな機能を追加する上で他社品も組み込み、顧客価値を上げると同時に、競合他社が同じ事業をやることに対して参入障壁を高くする方法である。以下、バンドラーの事例を見てみよう。

 ▼グリコ(*1)

 グリコはかつて、自社の菓子を入れた自動販売機を置く「ジョイモア」事業を行っていた。スイミングスクール、ボウリング場、高速道路のサービスエリアなどではうまくいったが、4000~5000人規模のオフィスでは成功せず、撤退に至った。

 オフィスにおける菓子の購入の中心は、意外にも女性ではなく男性だった。特に30 代、40 代の男性に人気があった。菓子好きな女性社員は、コンビニまで行ってでも好きな菓子を購入してくるが、男性はわざわざコンビニまで出かけるケースが少ない。こうした男性社員にとって、手軽に買える社内の自販機は歓迎された。

 しかし、自販機では「買える商品がいつも同じ」ことがネックとなった。菓子は必需品ではなく、毎日同じ物では飽きてしまい、その日の気分で好みも変わる。自販機による商品提供は、そのニーズと合わなかったのである。

 そこで考案されたのが、プラスチックの3段ボックスに種類の違う菓子を入れ、毎週配達人が訪問して売れた菓子を補給し、1段分を別の菓子に入れ替えていくやり方だった。この方法であれば、3週間で菓子の種類が一新され、飽きの問題を解決できる。

 問題は代金の回収だったが、これも固定費をかけずに、購入者がカエルの貯金箱に代金を入れる信頼関係に基づいたシステムをとった。この仕組みは、農家近くの道路脇にある野菜の無人販売スタンドを参考にしたという(*2)(オフィス内にあるためか回収率は高く、95 %以上に上る)。このシステムは「オフィスグリコ」と名づけられ、2002年から始められた。

 オフィスグリコの展開にあたって、1つの決断が下された。それはボックスの中に、競合企業の商品を入れたことである。ジョイモアではグリコの商品しか入っていなかったが、グリコの商品だけでは菓子のバラエティが乏しくなるためだ。グリコは菓子業界では有名だが、すべての種類の商品ラインをそろえているわけではない。例えば、豆菓子や珍味系はグリコが手薄なため、他社品を組み込んだ。

 オフィスで菓子を食べる側のニーズとしては、同じ菓子ばかりでは飽きてしまい、選択肢が豊富なほうが顧客満足は高まる。そこでグリコは、別のチャネルでは競合している他社製品をボックスに入れるようにしたのである。

 社内では、「敵の商品を売るのか」という声も出たが、この仕組みは「参入障壁の構築」という副産物を産んだ。すなわち、グリコのシステムがうまくいけば、より広い商品ラインを持つ大手菓子メーカーが同質化をしかける可能性は高い。ところが、オフィスグリコですでに競合企業の商品も買えることから、一度オフィスグリコを設置した企業は、もし他の菓子メーカーから同じような設置の提案を受けても、わざわざスイッチする必要性が低くなった。すなわち、他社商品の取り扱いがユーザーのスイッチング・コストを高くし、競合の参入障壁を高めたのだった。ここに「競争しない競争戦略」のポイントがあった。

 このような戦略は、次項で述べる文具業界で4位に位置していたプラスが、通販のアスクルを設立し、早い段階で他社商品の取り扱いを始めたことから、後にコクヨや大塚商会に同質化をしかけられても、当初からのユーザーが他社にはあまりスイッチしなかったケースと似ている。

 その後は、アイスクリームの入る冷凍冷蔵庫タイプも増やし、かつ「災害時の非常食」という訴求により新たな需要も開拓してきた。

 しかし、オフィスグリコが全国に13 万台設置され、53 億円の売上(*3)を上げるのを見て、オフィスファミマ、Drink&Snack 、Office Oasis 、cubeshop 、OYATOOLなどが、ほぼ同じビジネスモデルで参入してきた。しかし、大手菓子メーカーはいまだ参入してきていない。

 

 

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