競争しない競争戦略

GE・星野リゾート コア事業を競合から受託し「独占」 早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫

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 価格競争による不毛な消耗戦など企業間の厳しい競争に打ち勝ち、大きな利益を上げるためには「競争しない」状況をつくることが重要だと早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授はいいます。それを実現するためには「ニッチ」「不協和」「協調」の3つの戦略があります。ニッチ戦略はリーダー企業との競合を避け、特定市場に資源を集中する戦略。不協和戦略はリーダー企業の経営資源や戦略にジレンマを起こさせる戦略。協調戦略はより強い企業と共生し、攻撃されない状況を作り出す戦略です。この連載では、山田教授の著書『競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択』(日本経済新聞出版)のなかから、戦略別に企業などのケーススタディをとり上げ、「競争しない」状況どう作り出すかを明らかにします。第6回は協調戦略の「コンピタンス・プロバイダー」型のなかから、GEの航空機エンジン、星野リゾートのケーススタディを紹介します。

 

 協調戦略

 ■コンピタンス・プロバイダー―コア事業を受託

 コンピタンス・プロバイダーとは、バリューチェーン全体では競合企業と競争しながらも、自社のコア・コンピタンス領域を積極的に競合企業から受託し、そこでは協調していく戦略である。「ある特定のコア・コンピタンス領域で、独占かもしくはできるだけ独占に近い状態を構築する」(ハメル&プラハラッド 1994)ことが目標となる。

 以下、コンピタンス・プロバイダーの例を見てみよう。

 ▼GEの航空機エンジン

 GEは1997年に「グローバル・サービス・カンパニー」をうたい、サービス型のビジネスモデルへの転換を図ってきた。例えば、航空機エンジンに関して、従来の「売り切り」スタイルからサービス中心のビジネスモデルに切り替えた。

 1980年代初頭には、航空機エンジンは米国プラット&ホイットニーが7割近いシェアを持ち、GEのシェアはその4分の1にすぎなかった。それが2010年には、世界の航空機の半分以上がGE製のエンジンを搭載するようになり、競合のプラット&ホイットニーやロールス・ロイスを引き離すようになった。

 GEは航空機のエンジン販売業から、まずリース契約に切り替えた。この契約は、実際に稼働している時間に対してのみ課金し、故障中は課金対象にならないという顧客本位の課金システムだった(エンジンは航空機の中で一番故障が多い)。

 この契約によって、エンジンのどこが壊れやすいかという情報をGEが把握し、次のエンジン開発に反映させることができた。さらに、特定の部品は、一定の時間稼働すると故障の原因になりやすいということもわかってきたため、早めに部品交換するようになり、GEのエンジンの稼働時間が増え、リース収入も伸びる結果となった。

 そして、次の段階では、競合企業のエンジンを含む航空機エンジンのメンテナンス業に進出した。自社製のエンジンには多数のセンサーと発信システムを組み込み、航空機の飛行中のデータをリアルタイムで地上に送れるようにした。不具合が検出された場合には、エンジンを搭載したままで対処ができる。航空会社は、航空機から取り外してオーバーホールする頻度が減り、大幅なコストダウンを実現した。さらに、航空機が着陸し次第メンテナンスに取りかかれるため、航空会社の定時運行率を劇的に改善した。

 こうした地道なステップを経て、GEでは、エンジンの予防保全、補修、スペアパーツ管理サービスなどを総合して「グローバル・エンジン・マネジメント」というパッケージを航空会社に提供している。

 GEはこのやり方を、MRI、CTのような医療機器に関しても適用している。さらに、GEはこれらの延長として、産業機器を取りまとめる共通プラットフォーム「Predix」を開発し、これをオープン化して他社にも提供する方針を明らかにした。重要なソフトをオープン化することは、一見〝敵に塩を送る〟ように見えるが、この戦略は、「ソフト開発を強化して、情報分析力を磨くことが、産業機器メーカーが生き残る唯一の道だ(*1) 」(ジェフ・イメルトCEO:当時)というGEのポリシーに沿ったものである。

 GEはコンピタンス・プロバイダーとして、さらに多くの産業の情報を蓄積し、競争の武器にしていくと考えられる。

 GEの航空機エンジンは、2000年のGE内の売上順位では4番目のセグメントにすぎなかった。それが2019年にはGEの営業利益の8割を稼ぐようになり、2020年にはGE の最大の事業セグメントになっている。

 

 

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