競争しない競争戦略

山下達郎・アメックス・ゴアテックス 共通するニッチ戦略  早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫

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 価格競争による不毛な消耗戦など企業間の厳しい競争に打ち勝ち、大きな利益を上げるためには「競争しない」状況をつくることが重要だと早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授はいいます。それを実現するためには「ニッチ」「不協和」「協調」の3つの戦略があります。ニッチ戦略はリーダー企業との競合を避け、特定市場に資源を集中する戦略。不協和戦略はリーダー企業の経営資源や戦略にジレンマを起こさせる戦略。協調戦略はより強い企業と共生し、攻撃されない状況を作り出す戦略です。この連載では、山田教授の著書『競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択』(日本経済新聞出版)のなかから、戦略別に企業などのケーススタディをとり上げ、「競争しない」状況どう作り出すかを明らかにします。第3回は「量を限定する」ニッチ戦略をとる、防水透湿性素材のゴアテックス、シンガー・ソングライターの山下達郎、クレジットカードのアメリカン・エキスプレスのケーススタディを紹介します。

 

 ニッチ戦略

 ■限定量ニッチ

 限定量ニッチとは、生産量・供給量を意図的に絞ることでプレミアム感を出し、利益を確保する戦略である。リーダー企業がやりにくいのは、仮に供給量を限定しても一定の固定費がかかるので、収益的には貢献しない可能性があるためだ。

 ボリューム・ニッチと限定量ニッチの違いは、前者は市場規模自体が小さいケースを言うのに対して、後者は事業的には量産が可能であるにもかかわらず、あえて供給量をコントロールして市場規模を小さくとどめ、利益を獲得しようとするものである。

 古くは老舗の菓子、日本酒などの分野でこの戦略がとられてきたが、最近は、嗜好性の強いフィギュア、コイン、万年筆、リトグラフなどでよくとられる方法である。しかし、量産のきく分野でも、ウィスキーのように、あえて数量を限定することによって希少ニーズを喚起できる。

 ▼ ゴアテックス

 ・ゴアの沿革

 部品や素材などのB to B企業は、自社のブランドを消費者にアピールするケースは少ない。村田製作所やクラレなどがテレビ広告で社名やブランドをアピールしているが、これは自社製品を売るためというより、社会的認知を高め、CSR(企業の社会的貢献)への取り組みを強めたり、良い人材をとったりしたいという狙いが強い(ちなみにインテルがパソコンに「Intel Inside」のシールを貼り始めた理由は、日本で優秀な学生がとれないためであった)。

 そのような中、生産財ブランドを消費者にアピールして消費者に選択してもらおうという企業が米国ゴア(W.L.Gore & Associates Inc.)である。

 ゴアは新ポリマーであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の活用を模索するために、1958年にゴア夫妻によって設立された。ゴアが発見した延伸多孔質PTFE (ePTFE)は汎用性に富むポリマー素材として、ファイバー、シート、フィルム、テープ、チューブなど様々な形で用途を広げていった。ePTFEは、化学的安定性(他の物質と反応しにくい性質)、生体適合性(生体組織・細胞に対して、炎症・免疫・血栓形成反応を起こさない性質)、強靭性、耐熱性、低摩擦係数、耐候性(紫外線などがある屋外で使用されたときに、変形、変色、劣化しない特性)など卓越した特性を持っていた。

 ゴアはePTFEを核に、ファブリクス、医療、工業用製品などの分野に事業を拡大してきたが、ファブリクスに関しては「ゴアテックス」というブランドを服につけ、直接消費者に訴求してきた。

 ファブリクス製品では、防風性、防水性、透湿性を特長として、ヘビーデューティー分野・アウトドア・ウェアなどで高い信頼を得てきた。特に、「透湿性」と「防水性」という一見矛盾する機能を両立させたことが、ゴアテックスの最大の特長だ。小売りの店頭では、衣料品にゴアテックスのタグが付けられ、単価も他のウェアより高めに設定された。

 日本では、ゴアと潤工社(特殊電球の皮膜メーカー)との50 対50 の合弁企業として、1974年にジャパンゴアテックスが設立された。

 ・ゴアとアパレルのWIN ― WIN

  ゴアテックスの対消費者へのブランド訴求は世界共通であり、これはゴア社長の「真のお客様はエンドユーザーだ」という信念をベースにしている。

 1982年頃に日本ではスキーブームが起き、ゴアテックスを採用したスキーウェアが爆発的に売れた。しかし、ジャパンゴアテックスではスキーブームは長く続かないと見て、早く他の分野に進出しなくてはならないと考えていた。同社は、「これだけ良い素材であれば、消費者にも訴求したほうが良い」と考え、消費者に訴求すると同時に、ファブリクス・メーカーと共同で商品開発にかかわった。

 例えば、ゴアテックスは防水性をうたっているため、縫い目の目止めをどうするか、テープをどうするかまで商品開発に入り込み、防水性を高めた。また、縫製の機械をゴアがファブリクス・メーカーに貸与し、目止めのライセンス契約までした。これは、ゴアテックスが完全な形で消費者に届けられるようにという思いからだった。

 ゴアが他の素材メーカーと違ったのは、ファブリクス・メーカーの上級製品だけにゴアテックスを採用してもらったことである。これによって消費者も、「上級製品に採用されているなら、良い素材なのだろう」と考えるようになり、「ゴアテックスを採用している衣料品なら高品質だろう」と考える消費者も出てきた。これが、ゴアの成功要因だ。同時期に類似の素材として登場したスリーエムの「シンサレート」が、幅広い製品ラインに供給していたのとは対照的だ。

 ゴアは完成品の衣類にゴアテックスのロゴのラベルを付けているが、ファブリクス・メーカーには協賛金を渡していない。お互いWIN ― WINの関係から実現した施策だった。

 上級製品は当然、価格も高いが、ゴアテックスを使用しており付加価値が高い衣料品と認識してくれるため、顧客は喜んでその対価を払う。その結果、巡り巡って、ゴアの高い収益性に結び付くのである。

 ジャパンゴアテックスは、2009年に合弁を解消してゴアの完全子会社になり、社名を日本ゴアに改称した。同時に、ゴアテックスというブランドは、ファブリクスだけに使用することになった。

 

 

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