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「ガリガリ君」10円値上げ 価格戦略のお手本 早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫

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 価格競争による不毛な消耗戦など企業間の厳しい競争に打ち勝ち、大きな利益を上げるためには「競争しない」状況をつくることが重要だと早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授はいいます。それを実現するためには「ニッチ」「不協和」「協調」の3つの戦略があります。ニッチ戦略はリーダー企業との競合を避け、特定市場に資源を集中する戦略。不協和戦略はリーダー企業の経営資源や戦略にジレンマを起こさせる戦略。協調戦略はより強い企業と共生し、攻撃されない状況を作り出す戦略です。この連載では、山田教授の著書『競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択』(日本経済新聞出版)のなかから、戦略別に企業などのケーススタディをとり上げ、「競争しない」状況どう作り出すかを明らかにします。第1回はアイスキャンディー「ガリガリ君」で知られる氷菓メーカー、赤城乳業(埼玉県深谷市)がとった、単価を上げないことでリーダー企業の参入を防ぐニッチ戦略を紹介します。

 

 ニッチ戦略

 ■単価を上げない

 売上高は単価×数量で決まる。単価があまりに安いと、仮に数量が出たとしても売上高は大きくならない。大企業にとっては、前項で述べたように、一定の売上規模が必要である。

 そこで、単価を上げずに事業を続けていくことによって、大手に参入をあきらめさせる方法もある。次に述べる赤城乳業のガリガリ君は、その典型例と言えよう。

 ▼ 赤城乳業

 ・「ガリガリ君」誕生

 日本で一番売れているアイスキャンディーは、赤城乳業のガリガリ君である。赤城乳業は、1961年に設立された。社員数は約400名、森永乳業などの大手に比べると10分の1の規模である。社名に「乳業」とあるが、乳製品が中心ではない。それにもかかわらず「乳業」という社名にしたのは、当時アイスクリーム大手が皆「××乳業」と名乗っていたからである。

 赤城乳業が全国に知られるようになった契機は、1964年に発売した「赤城しぐれ」だ。これはかき氷をカップに入れた製品である。同社はその後、冷凍食品に多角化を試みたが、時期尚早で失敗し、しばらくは赤城しぐれだけに頼る経営を続けていた。

 それに終止符を打ったのが、1981年に発売された「ガリガリ君」だった。ガリガリ君は、カキ氷に棒を刺して片手でも食べられる氷菓で、子どもが遊びながらでも食べられるアイスキャンディーを目指した。ネーミングは、食べるときにガリガリという音がすることから命名された。発売当初、ガリガリ君は1本50円で、味はソーダ味、コーラ味、グレープフルーツ味の3種類だった。

 ・アイスキャンディーと季節性

 アイスキャンディーには季節性がある。気温が25度を超えるとアイスクリームが売れ出すが、35度を超えると、アイスクリームよりもアイスキャンディーと氷が主役となる。気温が命なのである。

 また、アイスキャンディーは、装置産業である。そのため町の駄菓子屋に納めていたような中小メーカーにとっては、大きな投資はできなかった。

 他方、大企業がアイスキャンディーを製造しようとすると、第1に季節性にともなう手余り/手不足のリスクに直面する。冷夏の場合は、損益分岐点を下回る危険性さえある。相対的に規模が小さい赤城乳業のほうが事業リスクは低かった(もちろん赤城乳業も、冬の需要を喚起するために、キットカットやロイズとのコラボレーションを行っている)。

 第2に、大手乳業メーカーにとっては、単価の安いアイスキャンディーよりも、単価が高いアイスクリームに力を入れるほうが経営上重要とされた。

 ・ガリガリ君のマーケティング

 ガリガリ君が売れるようになったのは、発売後4年目の猛暑の年からだった。その後、毎年のように新しい味の新製品を出し、累計100種類以上が市場に投入された。

 ガリガリ君が売れ出した理由は、チャネル政策を抜きには語れない。当時、森永乳業、雪印乳業というアイスクリーム大手は、専用のショーケースを店先に置き、小売店チャネルを押さえていた。赤城乳業が後から同じチャネルを攻めようとしても、その牙城は揺るぎそうもない。そこで赤城乳業が目をつけたのが、当時、黎明期にあったコンビニだった。

 当時は大手企業もコンビニは手薄であり、赤城乳業はここに集中した。コンビニのチェーン名を冠したガリガリ君を出したり、季節限定商品で消費を喚起するなどし、コンビニの成長とともにガリガリ君の売上を伸ばしていったのである。

 

 

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