競争しない競争戦略

「ガリガリ君」10円値上げ 価格戦略のお手本 早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫

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 ・ガリガリ君の商品開発

 同社のコーポレート・スローガンは「あそびましょ。」であり、商品開発のネタは若手に任せ、チャレンジすることが企業文化である。「他社がまねできないことを積極的に展開(*1)」 することが、赤城乳業のコア・コンピタンスである。

 こうした企業文化から、1985年には「ラーメンアイス」がヒットし、さらに「カレーアイス」「きつねうどんアイス」「イクラ丼アイス」などが続いた。

 そして2012年には、アイスでは前代未聞の「ガリガリ君リッチコーンポタージュ」を発売した。コーンポタージュは入社3年目の社員が開発した。同製品は売れすぎて、発売3日で販売を休止するほどの大ヒット商品となった(その後、〝変な味ブーム〟は、カップ麺業界に飛び火した)。

 2006年には、ガリガリ君は年間約1億6000万本、2013年は過去最高の4億1000万本を販売した。日本人1人当たり年間3本食べた計算となる。

 その後も「ナポリタン味」(2014年。これは失敗に終わる)「メロンパン味」(2016年)「黒みつきなこもち」(2017年。山梨県とのコラボ)「九州みかん味」(2017年。くまモンとのコラボ)「抹茶ティラミス」(2019年)などを発売した。

 ガリガリ君の当初のターゲットは小学生だったが、今では幅広い年齢層に広げている。ちなみに2016年に、ミュージシャンのGReeeeNとコラボした青リンゴに甘酸っぱいラムネを入れた「ガリガリ君リッチ ほとばしる青春の味」を発売したが、購入したのは中高生ではなく、なつかしい味を思い出す50代、60代だった。

 ・ガリガリ君の販売促進

 2016年には、社員100人がいっせいに頭を下げる「値上げCM」をテレビで流した。それまで25年間1本60円でがんばってきたが、70円に値上げするという内容だ。大手の消費財メーカーにとって、値上げは顧客離れを起こすため、細々と行うことが多い。この面で、赤城乳業は大手がとてもまねできないCMを作ったのである。

 結果的には、「前年比11%増」という予期しない売上を達成した。消費者は、「そんなに長い間値上げしていなかったのか」「70円でも十分安い(*2)」と総じて好意的だった。

 同社の製品はSNSで数多く拡散しているが、自社でガリガリ君の公式アカウントは開設していない。「拡散させようとすればするほど、わざとらしくなる(*3)」という考えからである。同社のマーケティングは、拡散されやすいような小ネタを用意することに徹している。

 赤城乳業では、ガリガリ君以外の製品でも、大手企業がまねできないマーケティングを展開している。例えば2018年には、みかんの果肉と果汁入りのアイスキャンディー「ガツン、とみかん」に関して、「ガリガリ君より売れてないのに20 周年キャンペーン」を実施した。大手企業のキャンペーンで、「売れてない」を訴求することはまずないが、赤城乳業は、社長の「売れていないから、何をしてもよい」との号令の下、このキャンペーンを打った。

 以上のように、赤城乳業は、100円玉でおつりが来る単価の安いアイスキャンディーに特化し、大手とは戦わない戦略を一貫してきたのである。

 (*1) 「氷菓と話題で売る」『日経トレンディ』2013年5月

 (*2) 「ガリガリ君に謝らせるわけにはいかない」『日経デジタルマーケティング』2016年7月

 (*3)「老舗ブランド再点火」『日経ビジネス』2014年4月21日号

山田英夫著『競争しない競争戦略 改訂版 環境激変下で生き残る3つの選択』(日本経済新聞出版、2021年)、「第2章 ニッチ戦略―市場不適合を引き起こす」から抜粋。

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