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アップルカーの衝撃 世界の自動車供給網を変える 深尾三四郎・伊藤忠総研上席主任研究員に聞く(下)

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 電気自動車(EV)へのシフトが加速する国際的な潮流を受けて、自動車業界に新たな主役が誕生することになりそうだ。その大本命が米アップル。米通信社は完全自動運転に対応できるEVを、同社が早ければ2025年にも発売すると報じた。その対抗馬は日本ではなく中国の小型EVかもしれない。中国メーカーは欧州に次いで日本市場にも参入する。急速な市場変化の背景にあるのは、車載半導体の深刻な生産不足だ。「モビリティ・ゼロ 脱炭素時代の自動車ビジネス」(日経BP)の著者である伊藤忠総研の深尾三四郎・上席主任研究員は「日本の自動車メーカーの影響力が及ばなくなっている。半導体メーカーを巻き込んだ生産拠点を再構築すべきだ」と提唱している。

 乗員が向かい合って座る?アップルカー

 ――2010年代半ばからEV開発計画に着手したとみられる「アップルカー」の姿がうっすら見えてきました。米ブルームバーグの報道では運転操作のためのハンドルやペダルをなくし、乗員が向かい合って座るリムジンのような座席配置を目指しているといいます。

 「アップルはスマートフォンの成功体験である国際的な水平分業モデルの成功体験を自動車業界に持ち込むとみられます。開発・設計と、生産を分けるわけです。EV化に出遅れたメーカーは買収されるか、受託生産を請け負う可能性も出てきます。さらにアップルはサーキュラー・エコノミー(循環型経済)の構築を重視すると表明しています。自動車の部材を供給するメーカーにおいては、サプライチェーンに関するデータのトレサービリティー(追跡可能性)を確保することも重要になります。デジタル情報の信頼性を担保するブロックチェーンの技術に精通している人材確保が業界全体で促進していくでしょう」

 「アップルカー実現の背景のひとつは、国際的な半導体不足です。電子制御ユニットなどの半導体なしにはクルマはつくれません。生産能力が限界に近いファウンドリー(製造受託企業)各社はスマホやパソコン、データセンター向けの最先端で高収益な半導体供給を優先する一方で、車向けが後回しになっているとみられます」

 「ファウンドリー最大手の台湾積体電路製造(TSMC)にとって最上の顧客は、自動車メーカーではなくアップルです。アップル向けビジネスで成長した台湾・鴻海精密工業はEV用プラットフォームを開発する共同プロジェクトを立ち上げ、世界から約2100社が参画しています」

 中国EVが日本に攻勢

 ――中国の自動車メーカーが商用EVで日本に攻勢をかけています。低価格・実用的・デザインもなかなかという評価があります。国内物流大手のEVシフトでは中国車を選ぶケースも目立っています。

 「中国は商用EVを突破口に自動車産業の国際化を進めています。アフリカで中国製商用EVの輸入が増加しています。東風汽車のピックアップトラックEVはガーナで、BYDのEVバンはジンバブエやケニアで販売されています。欧州でも中国製EVに対する信頼感が徐々に高まっています。商用EVは走行ルートと充電拠点を固定化しやすく乗用EVより普及が速いといえます。中国製EVは海外で着実に実績を積み上げています」

 ――日本の自動車メーカーの多くは、EVがLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点からハイブリッド車を含むエンジン搭載車より脱炭素で劣ることなどを訴えています。

 「正論です。しかし国内で賛同者が多くとも世界では少数派であることも事実です。米中が追随する欧州発の脱エンジンの流れにあらがうことなく、逆に上回るスピードでEV化を進める戦略も日本メーカーに必要でしょう」

 

 

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