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テレワークで行き場失う承認欲求 偉さ誇る時代の終わり テレワークと承認欲求(上) 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 新型コロナウイルス禍を受けて、半ば強制的にテレワークが導入されてからおよそ2年が経過した。コロナ禍が落ち着きを見せるとともに大都市圏では通勤ラッシュが復活し、オフィスにもにぎわいが戻ってきた。会社が対面での働き方に戻し、出社を求められるようになった会社員も多いだろう。

 各種の調査から分かってきたのは、テレワークでどうしてもできない仕事はさほど多くないという事実だ。営業や窓口業務のほか、製造や建設現場の仕事ですらリモートでこなせるようになっている。むしろテレワークの定着を妨げる「見えない壁」が社会的・心理的な要因の中にあることが分かってきた。

 拙著『日本人の承認欲求 テレワークがさらした深層』(新潮新書)は、社員の承認欲求、とりわけ職場という共同体の中で自分の存在感を示そうとする日本人特有の表れ方がテレワークの普及を妨げていることを明らかにした。さらにテレワークだけでなく、組織のスリム化やムダの削減といった改革にも少なからぬ影響を与えている。

 その一端は次の調査結果からもうかがえる。パーソル総合研究所(東京・港)が2020年3月にテレワークを行っている人を対象に行った調査では、回答者の4分の1以上が「私は孤立しているように思う」「私には仲間がいない」と答えた。テレワークの頻度が高いほど孤立感も強くなる傾向がみられた。

 なかでも管理職がテレワークの影響を強く受けていることは、「必要がないのに出社を命じられる」「リモート飲み会の開催を執拗に迫られる」といった部下が口にする不満の声からもうかがえる。

 管理職の承認欲求はこれまであまり注目されてこなかったが、他の欲求に勝るとも劣らない力で人の態度や行動に影響を及ぼすことが明らかになってきた。わが国特有の組織・社会構造によって欲求が前述した独特の表れ方をすることもわかってきた。

 「序列」意識させる大部屋オフィス

 本人がどれだけ意識しているかはともかく、日本企業の管理職にとって会社は自分の「偉さ」を見せびらかす場であり、それによって承認欲求を満たしているといってよい。地位の序列は「偉さ」の序列であり、大部屋で仕切りのないオフィスは序列を見せびらかすのに適した構造になっている。部下は上司の一挙手一投足に注目し、ひと言ひと言に耳を傾けてくれる。自分が仕切る会議やイベントは管理職にとってはハレの舞台だ。

 程度の差はあれ、非管理職や若手社員も意識は同じだ。社内での地位は低くても下請け企業や取引先に会社のブランドをひけらかすことがある。若手社員も新人が入ってきた途端にがぜん張り切り、先輩風を吹かす。先輩が新入社員を公私両面で指導するメンター制度も、メンティー(指導される側)はともかくメンター(指導する側)のモチベーションは明らかにアップする。

 背景にタテ社会と共同体型組織

 自分の「偉さ」を見せびらかすことによって承認欲求を満たす日本人サラリーマンの志向と行動特性は、日本の組織・社会特有の構造から生じている。

 一つは、わが国がいわゆる「タテ社会」(中根千枝著『タテ社会の人間関係』)だということである。社内の上司と部下の関係だけでなく、元請けと下請け、顧客と店舗、さらには取引先との間でも上下関係ができ、そこから「偉さ」の序列が生まれる。敬語や言葉遣いにそれが象徴的に表れる。要は「対等」という概念がないのだ。接待や宴会は「偉さ」を見せびらかす場でもある。

 もう一つは会社がイエやムラのような共同体としての性格を備えていることである。日本企業はいまだに終身雇用の枠組みを残しており、転職や中途採用などメンバーの入れ替わりが少ない。メンバーが固定化すると、自然に「偉さ」の序列ができる。

 このようなタテ社会と共同体型組織は、かつての工業社会、とりわけ少品種大量生産型システムとは相性がよかった。決まったものを正確に作るには、軍隊のような上意下達の規律正しい組織が効率的だった。単純な事務作業が中心のオフィスも同じだ。

 

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