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国内でも「つながらない権利」 企業は風土作りを ニット広報/オンラインファシリテーター 小澤 美佳

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 「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に、仕事関連のメールや電話への対応を拒否できる権利のことである。世界各国で法整備が進んでいることを受け、日本でも少しずつ人々の関心を集めつつある。前回の記事「つながらない権利、世界各国が法制化 日本は動きなし」に続き、本記事では「つながらない権利」を尊重する上でのマネジメントの注意点を紹介する。

 新婚旅行が悲しいムードに

 私がリクルートに勤めていた頃の話である。後輩が九州へ新婚旅行に行ったのだが、旅先で会社から電話がかかってきた。自分の顧客との間でトラブルが発生してしまったとの報告を受け、彼女はその対応に追われることになってしまった。景色そっちのけで、パソコンとにらめっこ、電話では謝罪をするばかり。楽しいはずの旅行が、悲壮なムードになってしまった……とぼやいていた。

 これは極端な事例だが、業務終了後や休日のリラックスした時間に仕事の電話を受け、途端に現実に引き戻されるような経験をした方は少なくないだろう。このようなことが続くと心理的な負担や疲労が蓄積されていくのは言うまでもない。

 インターネットが世界中をつなぐ今、私たちはどこにいてもつながれてしまう環境にある。新型コロナウイルスの流行によりリモートワークが普及したことがこうした状況に拍車をかけた。在宅で仕事ができるということは、通勤の煩わしさから解放される一方でプライベートとの垣根が曖昧になりやすいことでもある。

 在宅勤務中は、常時パソコンのカメラをオンにしておくことを強制させられる企業もあると聞く。社員のパソコン画面をランダムに選び、スクリーンショットで撮影する機能を導入する企業まであるらしい。このような半ば強制的な「つながり」は、社員の姿が見えないリモートワークにおいて特に起こりやすい。

 真面目な社員であるほど、このような上司からの監視に対して、「信じられていない」「もっと仕事ぶりを見せなくてはいけない」といったプレッシャーを感じやすく、この状況が続けばメンタルに不調をきたす可能性もある。

 マネジメントする側にとって、社員が「サボっているのでは?」と不安になる気持ちも理解できる。しかし、実際に心配すべきは「働きすぎているかもしれない」ことの方だ。リモートワークではプライベートと仕事とのメリハリがつけにくい環境にあるため、社員がオーバーワークになっていないかにまずは気を配ることが大切だ。

 就業時間外の業務連絡に対して、すぐに対処するよう求めるようなことがあるならば、それは心理的ストレスになるだけでなく、リモハラ(リモートハラスメント)につながることも考えられる。「つながらない権利」を尊重することは、このようなリモハラの抑止にも有効だといえる。

 「権利」保護に動く企業

 日本国内では法整備が進んでいない「つながらない権利」だが、独自に権利保護に動く動きも少しずつ出始めている。

 米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人は全社員を対象に、平日の深夜から早朝までと休日などはメールをなるべく控えるようにしている。勤務時間外には趣味や家族との時間にたっぷりと集中し、プライベートを充実させることが、結果として業務効率や生産性の向上につなげることが目的だ。

 「つながらない権利」を守ることを目的としたアプリを開発した企業もある。レッドフォックス(東京・千代田)は、開発するスマートフォンアプリ「cyzen(サイゼン)」に退勤後の社員への業務連絡を禁止できる機能を2021年から追加した。登録された勤怠情報に基づき、退勤後の社員に対する連絡を遮断できる。勤務時間外の社内連絡を物理的に防ぐことで、社員の「つながらない権利」を守ることが目的だ。

 

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