日経メタバースプロジェクト

新たな可能性秘めたメタバース 産官学で取り組みを 日経メタバースコンソーシアム第1回未来委員会

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 2022年3月の日経メタバースシンポジウムを皮切りに始動した「日経メタバースプロジェクト」。その一環として、7月1日に「日経メタバースコンソーシアム第1回未来委員会」(座長・広瀬通孝東京大学名誉教授)が東京ステーションホテルにて開催された。メタバースの技術や事業をけん引するメンバーが一堂に会し、広瀬氏の座長就任と小室哲哉氏の特別アドバイザー就任の承認からはじまり、メタバース振興に関して経済や産業振興の視点から議論が行われた(司会は山田剛・日本経済新聞社日経イノベーション・ラボ上席研究員、文中敬称略)。

 プラットフォームの覇権どこが握るか

 ――メタバースに関わる政策的な課題や技術的な課題は何か。

 上田「経済産業省では、2020年度に、仮想空間ビジネスを手がける事業者を対象にどういった課題があるのかを調査(*)した。その中で浮かび上がってきたのが、プラットフォームの覇権をどこが握るのかという問題だ。海外に目を向けると、世界標準化に向けて各社がルールづくりをしようとする動きが目立つ。その動きに伍していくために、わが国でもプラットフォーム間での互換性を高めるべく、仕様の標準化を進めていかなくてはならない。技術面では、メタバースを支えるインフラ、基幹部分に課題が多い。日本ではメタバースとの親和性が高いコンテンツ分野が進展しているが、それを支えるインフラ部分も協調領域として両輪で進めていかないと勝ち筋が見えてこない。半導体や、高速通信規格『5G』といった通信環境、ヘッドマウントディスプレー(HMD)などユーザーの利便性を左右するインターフェースのデバイス、そういった部分の開発を産業政策的にどう促していくか、国として取り組んでいく必要がある」

 *「【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)

 失われていく匿名性

 ――メタバースで新しいビジネスを作っていくうえでの課題はあるか。

 天野「現在、新技術としては、仮想通貨、金融系だと分散型金融(DeFi)、所有権系だとNFT(非代替性トークン)、株式的なものとしてDAO(分散型自律組織)といったものが注目されている。これらは現実世界で経済を回す仕組みをデジタルに置き換えるもので、今やインターネットでは面倒な書類手続きなしに世界中の人と一瞬で金銭のやりとりができるようになっている。メタバースでビジネスを展開するうえで欠かせない技術だ。また、事業者にとっては、メタバースで『圧倒的に美しい世界』を見せることも課題だ。現状のメタバースでは、通信速度や描画速度などの制約があり、まだそこに至っていない。同時接続できるのが数百人程度というサービスが少なくない中、我々の理想は万単位の人が集まる圧倒的に美しい世界、コミュニティーだ。そこに先ほどのDeFiやNFTなどの技術が合わされば、我々が望んでいるメタバースが実現する。10年以内に起きるその世界を目指し、今我々事業者が何をなすべきか。それぞれの領域で、どのようにクリエイティビティーを発揮していくことがミッションなのか。正しく捉えていかなくてはならない。ユーザー側に目を向けると、アカウントやアバターとの付き合い方も変わっていくだろう。これからは、今よりも早い年齢でアカウントを取得し、自分が選んだアバターが必ず付随してくる時代が来る。アバターを自分に似せるのではなく、『なりたい』『好ましいと思う』姿に寄せている現状を考えると、メタバースにおいては、自己の現実の肉体と精神との分離が起きるだろう。一方でアカウントと自己の同一化も進む。ブロックチェーン技術によって、アカウントが特定しやすくなり、匿名性は失われていくためだ。アバターであることと現実のありようをどう扱っていくのか、楽しいエンターテインメントを作るための重要課題だ」

 実装するには多大な投資

 岩花「いろいろな企業のメタバース事業を支援しているが、課題としてよく挙がるのは次の3点だ。1点目は、初期投資の負担。メタバースの可能性やユースケース(実例)を検討する中、ある程度ビジネスとして成立するめどが立ったとしても、実装するには多大な投資を必要とする。また、実装できたとしても、コンテンツを作って1回限りで終わってしまうケースも多い。なるべくアセット(資源)化し、使い回しがきくような仕組みづくりを意識したい。それには、上田氏の指摘した標準化や、汎用的な仕組み作りを意識して進めることがポイントになる。また、政策的にも、初期投資を支援する制度を期待したい。2点目は、新しい技術に対するネガティブな印象をどう払拭してくか。HMDやNFTに対してネガティブな印象を持つ人は少なからず存在する。例えば、大がかりなデバイスに依存することなく、没入感を提供するアイデアが待たれるところだ。3点目は、バーチャル空間ならではの新しい価値をどう提供するか。メタバースに関しては、どうしても『リアルのビジネスを、バーチャル空間で展開できないか』という発想で取り組むケースが多い。しかし、現状の技術でリアルを単純にバーチャルに置き換えるだけでは、視覚聴覚に依存したサービスとなり、現実体験を超えることは難しい。コストをかけてもこの程度かと失望させ、ストップしてしまうケースも少なからずある。こうした事態を招かないようにするのは、物理的・身体的な制約を超えた新たな体験、あるいはコミュニティーといった、バーチャル空間ならではの価値の訴求が必要だろう。リアルの置き換えではなく、リアルの空間や人間の機能の拡張として、新しい価値や付加価値が提供できないか、追求していかなくてはならない」

 運営持続化する仕組みづくりを

 半田「一方で、自治体が補助金でメタバースを作ったとしても、その先を考えておかなければ、『仮想空間上のハコモノ』で終わってしまう。メタバースの運営を持続化する仕組みづくりが必要だ。そして、ユーザーがリピートしたくなるような楽しさ、新しさを提供する企画的な部分を、コストを見ながら進めていく。こちらは我々事業者が取り組まなければならない」

 ――初期投資の問題を解決するアイデアはあるか。

 天野「そもそも、すべての事業者がメタバースをゼロから構築する必要があるのか疑問に思う。例えば、当社ではオンラインゲーム『Fortnite(フォートナイト)』上で、米津玄師氏のライブを運営して数千万アクセスを稼いだが、それは当該ゲームが長年にわたって継続し、1億人以上のユーザーを獲得していたからこそなし得たことだ。そこに今からゼロベースでスタートして競い合うのは、いくらコストをかけても難しいはずだ。既存のメタバースを利用しながら、企業のやるべきこと、つまりは本業を発展させることを考えてはどうか」

 地方創生へ「関係人口」作りに活用

 宮川「我々は自治体や美術館など実在する場所を軸に、メタバース事業を進めている。地方創生という文脈の中で自治体や施設オーナーが目指しているのは、地域と多様な方法で関わりを持つ『関係人口』作りだ。XR技術(拡張現実=AR、複合現実=MR、仮想現実=VRと呼ばれるメタバース関連技術の総称)を使って時間と場所の制約を超え、場所の価値を拡張しつつ、そこで人がどう関わり合えるかを模索している。一例を挙げると、バーチャル空間に遠隔地の小中学生が集い、ワークショップに取り組むプログラムを実施した。空間の印象を大掛かりに変えなくても、コミュニティー単位で取り組む内容を工夫することで、さまざまな用途や効果が生まれると実感している。今後はこうした試みに加え、NFTの技術を使ってアート作品の権利許諾を、ワークショップの参加者に渡して二次創作を推進し、販売も可能にするようなことも手がけていきたい。既存のパーツを組み合わせることでも、経済的な循環をつくっていけるはずだ」

 ――経済活動につなげるには、認証の問題を解決しなければならないが、今後の見通しは。

 半田「従来のVRとメタバースの最大の違いは、商行為や決済の有無にあると考えている。メタバースでは、お金が動くがゆえに、強固なセキュリティーや認証が求められる。また、アバターなどのデータの真正性の保証も求められるようになるだろう。フォトリアルなアバターや商品などがビジネスのプロセスに組み込まれた際に、目の前にいるのは本人なのか、仮想世界で取引されている賞品は本物なのかどうか、確認したいニーズが企業側にはある。こうしたコンシューマー向けのセキュリティーや企業内ユースでのセキュリティーを、用途に応じて使い分けていくことになる。そのためのガイドラインをつくって、仕組みとして実装していくことを、国や業界を挙げて検討すべきだ」

 若手エンジニアの育成を

 ――メタバースの基盤を築くうえで留意すべきことは。

 田中「先ほども指摘があったように、コストの問題をどう解決していくかだ。仮想空間に現場を再現するデジタルツインの開発には、最低でも数億円から数十億円かかる。しかも、そこで完了するわけではない。デジタルツインは主にプランニングのためのシミュレーションなどを行うものであり、作り上げたら終わりではなく、継続的に利用していくものだからだ。また、コストだけでなく、多くの人材が必要になることも忘れてはならない。海外の産業界では、IT系エンジニアの6、7割が会社に所属しており、社外にアウトソーシングしているのは3割程度。ところが、日本ではその割合が逆転している。そういった人材の構造的な部分を転換するとともに、若手のエンジニアを育成していく必要がある」

 ――クリエイター、エンジニアの人材発掘や育成に必要なものは何か。

 橋本「長期的な視点と覚悟だろう。バーチャル空間で多人数が同時接続してプレイできる多人数参加型オンライン(MMO)ゲームは、現在は100万人が同時接続している。バーチャル空間で100万人同時接続という構想は、実に1997、98年から始まったものだ。当時は千人単位の同時接続が一般的という中、この目標を掲げて人材を育ててきた。自社サーバーで365日24時間、世界中のユーザーに対応するには、多くの人材が必要だからだ。まずは労働環境と就業規則を整え、若いエンジニアの育成を始めた。そして20年がかりで目標の達成に至った。正直、時間もノウハウもコストもとんでもなく必要になる。企業の経営者が腹をくくることができるかどうか。同時に初期投資を回収できるようなコンテンツを育てることも必要だ」

 あらゆる分野で知恵を出し合う必要

 ――本気でメタバースを育てていくには、長期的な視野と取り組みが必要という意見が多数見られた。最後に座長の広瀬氏にまとめをお願いしたい。

 広瀬「VRやメタバースは、現在は先端技術という扱いだが、やがては基盤化して、多くの産業や人が関わることになる。急ぎ法整備を進め、労働環境や契約環境、税制などを整えていかなくてはならない。それには、アカデミア側にも協力してもらい、法学、経済学、工学、理学、医学、文学などあらゆる分野で知恵を出し合う必要があるだろう。今後もこうした対話の場を設け、多様性のある意見交換を続けていきたい」

関連情報

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。