第2の選択肢は、独立・起業である。
フリーランスとして働きたい、あるいは自分で会社を立ち上げて経営したいという夢を持っている人は少なくないが、若年者が十分な経験もないまま独立しても成功する確率は低い。
いっぽう40代になれば、独立や起業に必要な経験や実力が備わっている場合が多い。また経済的にもそれなりの蓄えがあり、子育ても一段落していれば失敗のリスクを冒してチャレンジできる。
そして第1、第2の選択肢とも、意欲と能力さえあれば年齢に関係なく働き続けられる。事実、ジョブ型が基本のアメリカでは年齢差別が禁止され、70代で正社員として働いている人も珍しくない。
そして第3の選択肢が転職である。
現在の労働市場では「転職適齢期」が30代くらいの若年層に偏っているが、その大きな原因は上図で示したような報酬制度にあると考えられる。かりに40代からジョブ型に移行するなら現在の職場にしがみつく必要性はないし、企業側も将来の人件費負担を考えなくてもよい。
45歳でいったん清算する仕組みを
ただし、このようなシステムに切り替えるには前提条件がある。貢献と報酬が交差する年齢を30代後半くらいまで引き下げ (必然的に若年層の給与水準は上がる) 、45歳時点で帳尻を合わせるように給与制度を見直すこと。また当然ながら本人が希望するかぎり、45歳以降も雇用の継続を保障することである。
つまり45歳時点で、いったん貢献と報酬の「貸し借り」を清算するのである。そうすれば働く人にとっては会社から自由になれるし、企業にとっては中高年の社員に高い報酬を支払い続ける責任を免れる。
現在の雇用システムを前提にした「45歳定年制」は非現実的だが、45歳を基準に「生涯現役社会」を見すえた新たな日本型雇用システムを設計するなら、今回の問題提起は的を外していなかったことになる。
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論、とくに「個人を生かす組織」について研究。日本労務学会常任理事。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞本賞などを受賞。『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)、『公務員革命』(ちくま新書)、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『個人尊重の組織論』(中公新書)、『「超」働き方改革』(ちくま新書)など著書多数。近著に『同調圧力の正体』(PHP新書)