実践・営業デジタルシフト

ソフトバンクの成長戦略 企業や社会のDXを推進 グローバルインサイト合同会社代表 水嶋玲以仁

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定量的な指標は重要だが、定性的な指標も大切

 前項の最後では、トスアップの案件数から金額ベースに評価指標が変更されたことに触れたが、インサイドセールスがコミットすべきKGI、KPIに対して、上野氏はどのように考えているのだろうか。

 「営業部門、マーケティング部門である限り、定量的なKGIは売り上げへの貢献になります。一方のKPIに関しては、商材がたくさんあるので、お客様のコンディションも踏まえて、四半期単位あるいは半期単位で注力商材を設定し、提案・獲得状況を追いかけたりしています。

 直販営業にトスアップするのではなく、インサイドセールスのみで担当している11万社に対して、クロスセル、アップセルを行うことがベースの活動になります。たとえば、従来型の携帯からスマートフォンに機種変更するタイミングは、SaaS系の商材を提案するチャンスになりますし、期首か期末かでも提案すべき商材は変わっていきます。また、コロナ禍であれば、テレワーク関連の商材、体温を測定するセンサーといったものの需要が増えるというように、その時々で注力すべき商材をKPIに設定しているのが実態です」

 評価指標について上野氏が語る中で、印象的だったコメントがある。それは、「デジタルの活用により、いわゆる伝説の営業、トップセールスと呼ばれる人がこれまで個人ですべて完結させていたプロセスを見える化し、分業できるようになった」というものだ。これは、冒頭の原田氏の言葉にも通じるが、商材が多角化し、さらにデジタルデータの整備が進めば、営業プロセスの可視化、分業化は必至のことだろう。そして、チームでやったほうが、お客様へのサービスの質も向上し、より大きな成果が得られるなら、デジタルシフトの巧拙が企業の命運を分けると言っても過言ではない。

 とはいえ、その巧拙をめぐって各社がデジタルシフトに四苦八苦しているのも事実だ。その点、上野氏、原田氏がそれぞれの言葉で、営業のデジタルシフトを目的化してしまうことの危険性に触れていたため、これから営業のデジタルシフトを検討している方は参考にしてもらいたい。

 「デジタルシフトによって分業が進むことで、全体最適ではなく、部分最適が生じ、他部門やお客様への意識が希薄化するリスクがあります。完全に企業側の都合である部分最適によって、お客様が体験する一連のカスタマージャーニーを分断することがあってはなりません。ですから、部分最適に陥らないように組織を設計し、評価指標を設定する必要があります。

 だからこそ、私たちもこれまで7回も組織を変更したのです。そして、MBOの目標の中には、極めて定性的ではありますが、他者への貢献という項目を10%程度入れています。具体的にいえば、自部門が担当する業務の前後を担っている部署の仕事に対して協力的であるか否か、あるいは2つ、3つ先、あるいはその後のプロセスに対して意識を向けているかという点を定性的に評価するということです。

 また、日進月歩で進化するデジタルの世界をキャッチアップしていくために、『学習と成長』というものを、本部のスローガンの1つとして掲げています。一言で言えば、専門性を磨いていくということであり、マーケティングとは何ぞや、インサイドセールスとは何ぞやというのを、しっかりと学んでいるかという項目も10%入れています。あえて全体の評価の5分の1を定性的な指標にしているのは、部分最適ではなく、全体最適を目指すためでもあるのです」(上野氏)

 「インサイドセールスを推進することが、自分たちのためであっては意味がありません。自分たちを主語に考えてしまうのが、一番ダメなパターンです。この改革がお客様にとってどんなメリットがあるか、どう役立つかという視点を忘れてはいけない。会社や自分たちの効率や利益のためではなく、お客様に価値を提供するための一番効果的な手法を目指すようにしなければならないということです」(原田氏)

水嶋玲以仁 著『実践・営業デジタルシフト』(日本経済新聞出版、2021年)、「Part3ケースで見る営業デジタルシフト」から抜粋。転載にあたり一部編集しました。
水嶋玲以仁(みずしま・れいに)グローバルインサイト合同会社代表。 東京都出身。北海道大学経済学部卒。日本メーカーから外資系保険会社に転職し財務部長まで務めた後、デルコンピュータに転職しコンシューマー部門のジェネラル・マネージャーとなる。以降、マイクロソフト、グーグルなどでインサイドセールスの実務全般について、20年に及ぶ経験を持つ。著書に『リモート営業入門』(日経文庫)『インサイドセールス 究極の営業術』(ダイヤモンド社)がある。

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