実践・営業デジタルシフト

先行NEC 営業DXのベンチマークに グローバルインサイト合同会社代表 水嶋玲以仁

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なぜ、自ら手を挙げ、インサイドセールスを推進したのか

 当初、IMC本部がマーケティングと営業のデジタルシフト連携を提案した7部門に含まれていないにもかかわらず、コロナ禍を契機に、営業デジタルシフトを志した部門がある。それが主に通信キャリア向けの営業を統括するネットワークサービスビジネスユニットだ。支配人の田野 穣氏は、CMO榎本氏の説明で7部門の取り組みを知ると、すぐに東海林氏にアプローチし、マーケティングとの連携を進めた。

 田野氏がすぐに動いたのには理由があった。直接のきっかけは支配人に就任し、上長より営業デジタルシフトを検討するようにと指示があったことだが、次のような理由も大きかったという。

 「以前は、NECがお客様にお届けするソリューションは競合ともしっかりと差別化できていたため、ぜひNECからの提案を受けたいというお声が多かった。しかし、NECに限らず、さまざまな技術がオープン化されるなかで、業界全体として商材がコモディティ化してしまった。そうした状況においては、個人の営業力というよりも、組織として営業力をベースアップするために、さまざまな知見を共有し、可視化して、それをデータとして残しながら、営業力を高めていきたいと考えていました」

 中でも、東海林氏から「インサイドセールスは関係醸成にも使える」という説明を受けたことで、自分たちが担当する長期スパン型の営業にも活かすことができると感じたという。

 早速、田野氏は、傘下の部門であるキャリア営業本部で本部長代理を務める橘裕之氏とともに、デジタルシフトを推進していった。もともと、橘氏が所属する部門では、以前からセールスフォースを使った顧客管理を積極的に進めていたため、土地勘があったのは大きなアドバンテージだった。

 橘氏は当時のことを次のように語る。

「競合他社に比べ、自分たちの営業力はどの程度かというのは常に意識してきました。ですから、もともと営業対応として顧客へ価値のある行動をしようといった取り組みのなかで様々な手法を模索していたのです。さらに2020年からのコロナ禍で、デジタルツールへのシフトを加速化する必要があると改めて感じたタイミングで、田野さんから指示がありました」

 では、具体的には、橘氏はどのように現場で改革を進めていったのだろうか。当初は、「今でも電話でコミュニケーションすることはできているので、必要ないのではないか」といった声もあったそうだが、そうした声にも対応するため、マーケティング部門と連携しながら、闇雲に導入するのではなく、「ネットワークサービスビジネスユニットなら、どのように使うことができるか」という点を、メンバーに腹落ちする形に一つひとつ落とし込んでいった。中でも田野氏は「これまでの営業行為を否定するのではなく、インサイドセールスをどう営業活動に組み込んでいくか」という点に注意を払っていたという。

 そのためにも、田野氏傘下の4部門からインサイドセールス推進メンバーを募り、落とし込んでいくプロセスを10ステップにまとめて、現場で実践していった。例えば、いきなり大掛かりな案件にチャレンジするのではなく、トークスクリプトを用意して、それに沿って進めてみることで、これまでの営業にどうプラスしていくかを実感できるように工夫をしたという。結果、「トークスクリプトがあったので、お客様としっかりとコミュニケーションがとれました」とか「自分は逆に話しにくいので、自分なりにアレンジした」というような、自分事として捉える傾向が広がっていった。

 「今は、まずは自分たちの仕事に組み込もうという段階ですが、今後は、本部全体としての戦略の中にインサイドセールスをしっかりと組み込み、それを実行に移すことの意識づけを強化していく必要があります。そして、頭ではわかっても、実際にアクションにつながらなければ意味がありませんから、泥臭い話ですが、営業としては『行動』を変えるということを地道にやっていこうと考えています」(橘氏)

 「どんなことでも、新しいことを始めるには、それなりのハードルが存在します。今回も、デジタル化するためには、追加で発生する具体的な作業、工数について、意味のあることだという理解を広める必要がありました。そのためには、やはり効果を出して、納得感を得ていくという啓蒙活動は欠かせません。その点、NTTドコモ営業本部のエキスパートの伊東 利彦さんたちが、日々、率先して動いていただけるのはありがたいですね。今では、『これまで会う機会が少なく、もっと情報提供をしてほしいと思っていたが、インサイドセールスによって、以前よりもしっかりフォローアップしてもらえてうれしい』というお客様の声も聞こえてきています。ですから、そうした反応をしっかりと継続できるような仕組み化を行っていきたいと思っています」(田野氏)

 両氏に共通しているスタンスは、ツールや流行(はや)りの言葉に踊らされないで、営業に自的に取り組ませること、また個人の活動の集約に終始しがちな営業をデータとチームの一体感を醸成しながら組織変革を行うことだ。デジタルシフトは不可逆ではあるけれど、そうしたツールや仕組みをこれまでの営業スタイルの中にいかに組み込み、よりよい形にしていくか。田野氏の次の言葉からは、リアルとデジタルのハイブリッドを目指すネットワークサービスビジネスユニットのスタンスが垣間見える。

 「バーチャル、リモートになったからこそ、お客様と直接対面する機会というのは貴重になっています。ですから、デジタルなツールを駆使しながら、最適なアプローチを図るとともに、リアルな時間も大切にしながら、お客様にソリューションを提供するという営業の本質も忘れてはいけないと考えています」

 IMC本部、第二製造ソリューション事業部の体制変更については先述したとおりだが、ネットワークサービスユニットもまた、デジタルシフトを加速させるための体制変更を行った。その目玉と言えるのが、4営業本部横断の組織である「カスタマーエンゲージメントセンター(CEC)」の組成だ。その狙いについて、田野氏はキックオフイベントで次のように述べている。

 「昨年(2020年)から取り組んでいる営業デジタルシフトをさらに加速させるため、リアルな世界の営業とバーチャルな世界の営業をデジタル技術を使ってつないでいきたい。ポイントはデータの記録と活用だ。現場としては一時的に仕事量が増えると感じるかもしれないが、今取り掛かるか取り掛からないかで未来の勝率に大きな差が生まれると確信している」

NECの目指すデジタルシフトとは

 最後に、東海林氏に今後の取り組みついて、聞いてみた。「マーケティングと営業のデジタルシフト2年目である今年(2021年)は、成果を上げる年と位置付けています。昨年7部門から草の根的にスタートしたこの活動は営業改革のプロジェクトと融合し、全社の取り組みに進化しました。今年度は営業とマーケが共通の受注目標をもち、年間のマーケティングプランと営業戦略との融合も始まっています。今年は、その要となるデータ基盤の刷新にも本格的に取り組みます。リアルタイムに顧客の状況を可視化し対応するための新しい顧客データベースの構築です。グローバルスタンダードを目指して作り上げてきたデジタルマーケの基盤が、マーケティングだけでなく、営業自身が活用できるようになることを目指しています」

水嶋玲以仁 著『実践・営業デジタルシフト』(日本経済新聞出版、2021年)、「Part3ケースで見る営業デジタルシフト」から抜粋。転載にあたり一部編集しました。
水嶋玲以仁(みずしま・れいに)グローバルインサイト合同会社代表。 東京都出身。北海道大学経済学部卒。日本メーカーから外資系保険会社に転職し財務部長まで務めた後、デルコンピュータに転職しコンシューマー部門のジェネラル・マネージャーとなる。以降、マイクロソフト、グーグルなどでインサイドセールスの実務全般について、20年に及ぶ経験を持つ。著書に『リモート営業入門』(日経文庫)『インサイドセールス 究極の営業術』(ダイヤモンド社)がある。

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