実践・営業デジタルシフト

先行NEC 営業DXのベンチマークに グローバルインサイト合同会社代表 水嶋玲以仁

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事業部側から見たデジタルシフト

 ここまでマーケティング部門からの視点で展開してきたが、営業事業部側はデジタルシフトをどのように捉えていたのだろうか。

 先述した7部門のなかでも、いの一番に動いたのが、清水一寿氏が率いる第二製造業ソリューション事業部だ。同事業部が抱える人員は200人程度。清水氏の傘下に10チームあり、顧客は、プロセス産業と呼ばれる医薬品製造業、化粧品、日用雑貨、鉄鋼、化学、食品、ゼネコン、住宅メーカーと多岐にわたっている。

 「営業の生産性をいかに上げるかという課題は常に持っていました。私自身、現在の部門に来る前に巨大なお客様を担当していた際に、一人で500人、1000人を相手にコミュニケーションすることへの限界を感じていたこともあり、コロナ前から、顧客専用のメルマガを立ち上げるなどと、いくつかの施策を打っていました。そんななか、実際にリアルな面談ができないとなったため、デジタルにシフトするしかないと腹をくくりました」

 しかし、デジタルシフトといっても、清水氏の傘下だけでも、200人、10部門があり、それぞれの業界ごとにお客様像も違えば、アプローチ方法も変わってくるため、トライ&エラーの連続だったという。建設業界の中でも売上100億円から1000億円規模の顧客を担当している奥田吉彦氏は、当時を次のように振り返る。

 「実は、コロナが始まる前から、お客様の購入経路が変わったという実感を持っていました。お客様のほうで事前にインターネット等で情報収集された後に、私たちが提案するというケースが増えていたからです。ですから、私たちとしては、お客様が情報収集する段階からタッチできないかということに課題意識をもっていた状態で、新型コロナウイルス感染症が流行し、部門としても大きくデジタルシフトすることになったという流れになります。

 とはいえ、やはり当初は手探り状態でした。1万人くらいの名刺データが手元にあったので、ひたすら電話をかけたりもしました。ただ、当然といえば当然ですが、ヒット率が低い。これはどの企業もどの部門も同じ悩みを抱えていると思うのですが、持っている名刺情報が更新されていないということを改めて痛感しました。本来は、こちらが提供できる価値を求めているお客様、課題感をもっているお客様をきちんと見極めて電話する必要があるのですが、しっかりとした顧客情報のデータベースがないことがボトルネックになってしまったのです。インサイドセールス=テレアポと考えると失敗するというのは身をもって経験しましたね。

 また、私たちのような部門と、全国に拠点のあるフィールドセールス、そしてIMC本部側の連携が不足していることを感じた1年でした。例えば、国内営業の要望は、『お客様が困っていることを解決できる製品、当該製品のセミナー・キャンペーン情報』です。一方、IMC本部側はデジタルマーケティングで情報を広く提供するわけですが、本当に欲しているお客様に届いていないケースも少なくありません。

 2021年の2月頃に建設業界向けのセミナーを開催した際、参加されたお客様の9割がバナー広告等からの新規リードだったときは、けっこうな衝撃でした。それは、営業の紹介で参加したお客様が1割くらいしかいないということであり、これが今の実態だということを痛烈に感じたのは覚えています。2020年度は、マーケティング部門、インサイドセールス、フィールドセールスという役割を分担するチーム戦で、顧客により高い価値を提供できるようになることを身をもって知ることができた年でした」

 化学、土石、窯業、ゴム、建材といった生産財関連の顧客を抱える第四インテグレーション部の青木克文氏は、当初、インサイドセールスを導入すれば、すぐに結果が出るのではないかと感じていたそうだ。

 「第四に関しては、奥田さんの部門と違って、インサイドセールスに舵を切るという号令がかかってから動き出したのですが、当初は、もっと簡単に結果が出ると思っていましたが、大きな誤解でした。前向きな表現をするなら、今までのアナログ営業で見て見ぬふりをしていた課題が表層化し、それに対してしっかり向き合うきっかけになったと言えるかもしれません。

 例えば、インサイドセールス導入前から、私たちの部門は、すでに対応すべきお客様が目の前にいらっしゃるので、必要な商材を必要なタイミングで提供するというのはある程度できていました。一方で課題としてあったのは、目の前のお客様対応に工数をとられてしまい、提案できていない商材がたくさんあるということ。ですから、インサイドセールスを導入し、商材をあてる機会が増えれば、成果につながるのではないかと安易に考えてしまっていたのです。

 結果、どうだったかといえば、ご想像の通り、思うように成果につながらない。最初の課題は、奥田さんの指摘と重なる部分ですが、NEC 全体の顧客管理データベースが存在しないという事実に直面してしまったということです。極端な話、顧客の最新データは、各自の頭の中、名刺入れの中にあったり、施策ごとにエクセルで管理していたり、管理方法や更新頻度もばらばらな状況で、インサイドセールスで活用できる状態にはなっていませんでした。

 そんな中、見よう見まねで、まずは200件コールという量を目標にコールをしてみたのですが、ほぼヒットしない。メンバーたちは口にはしませんでしたが、電話をかけるだけの仕事をやらされていると感じてしまい、モチベーションが下がっていくのが手に取るようにわかりました。

 そしてもうひとつの課題が営業プロセスですね。量を追うだけではメンバーが疲弊するだけですので、いかに質を高めた活動にシフトするか、どういった価値をぶつけるのがいいのか、通り一遍のスクリプトだけではなく、営業のプロセス自体を標準化するためにはどうすればよいのか、ということを必死に考えました。例えば、ある商材に関しては、経験豊富な営業や、販促支援や導入支援をしているSE がいますので、彼らの行動や知見や判断ポイントなどをまとめながら、成果につながる標準的なプロセスを整備できないかといったことにチャレンジしたりしています。ベテランの頭の中や経験の中にある活動の点を線にしていくイメージですね」

 3人目は、生産財の中でも鉄鋼業を中心に扱う第三インテグレーション部の川邉理恵氏。

 「現場で最初に感じたのは、今やっていることと、そこまで大きく変わらないのではないかということでした。生産財の特徴でもあるのですが、もともとお客様の拠点が全国に散らばっているため、北は北海道から南は九州まで、全国横断的な対応が求められていました。きっかけの1つとしてコロナはありましたが、コロナ以前から、全国横断型でフォローするのは限界があるというのは感じていたため、東京にいながらどう現場のお客様を支援するかという課題感を持っていたということです。そこで自分の経験則として始めたのが、メルマガでした。そのタイミングで、インサイドセールス導入の号令がかかったので、その流れに乗ろうと考えました。

 私は営業の醍醐味は、お客様と対話を重ねて、課題を一緒に考えるプロセスだと思っているのですが、対面での打ち合わせができなくなったことで、どうしたらいいのかわからないと元気をなくしてしまったメンバーもいました。そうしたメンバーに対して、ナレッジセンターのほうで、トークスクリプトや、相手の課題を聴く力を強化するといったインサイドセールスについての教育プログラムをつくってくださったのは、ありがたかったですね。そうしたプロセスを経ることで、マーケティング側でも営業の思いを汲(くみ取ってくださる方が増えて、事業部側としても主体的に取り組めるようになったのは大きな収穫だったと思います」

 川邉氏のコメントで登場したナレッジセンターは、事業部内のデジタルシフトを推進する役目だけでなく、マーケティング側との橋渡し役も担う組織であり、主担当の原田大助氏はIMC本部の仕事も兼務している。

 「今までハイパフォーマーのセールスのスキルを可視化するのは難しかった。それをいかにデジタル化し、再現性の高いものとして標準化するかに挑戦しています。清水さんが、常々『商材にはストーリーが必要だ』と言っているように、セールスのプロセスをしっかりとパッケージ化したいと考えています」(原田氏)

 取材を通して印象深かったことの1つに、奥田氏が語った「チーム戦」という言葉がある。インサイドセールスにおいては、営業プロセスの機能を分け、チームで案件を醸成するという意識が不可欠であり、奥田氏、青木氏、川邉氏の置かれた状況は三者三様であるとはいえ、全員が自部門だけでなく、他部門との連携が強化されたと感じているのは、今後にとって明るい要素の1つではないだろうか。

 取材時、事業部全体の営業デジタル化を底上げするためにも、組織を含めた見直しを実施すると話していた清水氏は、2021年4月、役割の明確化と業種スキル(VCI)の強化策を打ち出した。同時に行われた組織変更で、いくつかのインテグレーションが統合されることになったが、注目すべきは、インサイドセールス部隊をまとめた「デジタルマーケティング部」が新設された点だろう。清水氏は新規・既存事業を拡大するためにも、インサイドセールス部隊が各インテグレーションと連動した目標を持つ必要があると考え、予算の15%に関与するという具体的な数値を発表している。

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