実践・営業デジタルシフト

先行NEC 営業DXのベンチマークに グローバルインサイト合同会社代表 水嶋玲以仁

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 新型コロナウイルスの影響で、世界的にビジネスプロセスや事業のあり方が大きく変化するなか、営業・マーケティングのデジタルトランスフォーメーション(DX)、すなわち営業デジタルシフトを計画したり、着手したりしている企業が増えています。しかし、期待するだけの効果を得られた企業はほんのひと握り、というのが実情です。この連載では書籍『実践・営業デジタルシフト』(日本経済新聞出版)をもとに、デジタルシフトへの課題は何か、それをどう解決すればよいのか、事例をもとに解説します。今回は情報通信大手のNECの事例を紹介します。

 社会と産業のデジタルトランスフォーメーションにより、持続可能な社会の実現に取り組んでいるのがNEC。2021年度経済産業省DX銘柄2021(2021年6月7日、経済産業省発表)にDX銘柄とレジリエンス部門の二つ同時に選出されました。本ケースの最大の特徴は、同社IMC本部の支援のもと、従来、訪問営業のみであった大手企業を顧客とする営業事業部が緊急避難的に始めたインサイドセールスを、継続拡大して、本格的な営業デジタルシフトに取り組んでいることにあります。

各社のベンチマークとなったNECのチャレンジ

 NECは、相当早い段階でグローバルスタンダードな、BtoB向けのデジタルマーケティングを志向し、オウンドメディア「wisdom」を2004年に立ち上げた。wisdomのメルマガ会員数は80万人という驚異的な数字を誇り、当時からIT部門以外の部門にアプローチする手段として活用しているという。そういったチャレンジは有名で、多くの企業がNECの取り組みをベンチマークすることになった。

 wisdomの企画・運営を担うIMC本部の東海林直子氏は、ナーチャリングという名称が一般化する前のNECの取り組みを次のように語る。

 「今、マーケティングオートメーション(MA)ツールを使ってやっていることを内製化していたと言うとわかりやすいかもしれません。条件によって場合分けして、スコアの高い顧客をタイムリーに抽出し、コールをするというような形です。そうした活動を徐々に進化させて、エンゲージメントを高め、長期的なリレーションを築くための活動をしていました。デジタルマーケティングにさらに力を入れるということで、2016年に、テレマーケティングからインサイドセールスという名称に変え組織化しました。

 具体的には、今から10年以上前に、デジタルマーケティングと連携するテレマーケティングの機能をつくるところからナーチャリングへの取り組みは始まっています。テレアポ、電話調査といった呼び名で各部門がそれぞれ実施していたものを集約したうえで顧客データベースをつくるという試みと、デジタルマーケティングを組み合わせながら成長させていきました」

 こういった、マーケティング側のリソースを使う形でリードを獲得し、そのリードの中で営業側が可能性の高いものを案件化し、受注につなげるといったデマンドジェネレーションという取り組みが、MAツールが日本で広がる前にすでに行われていたという事実に、驚く方も多いのではないか。

 BtoBマーケティングの業界から見れば、先進的な取り組みではあるが、IMC本部としては忸怩(じくじ)たる思いがあったと言う。

 「それまではマーケティングとセールスが連携できていたのは一部の商材での施策に限られていました。IMC本部が目指す理想の姿からすれば、限定的であり、マーケティングとセールスの連携を強化するためのデジタルシフトは、成果をスケールさせるために急務でした」(東海林氏)

コロナ禍で加速したデジタルシフト

 そうしたなか、デジタルシフトを一気に加速させるような出来事が起こる。IMC本部は年に数回のプライベート展や協賛展といったリアルイベントの運営も手がけていたが、2020年に世界的に広がった新型コロナウイルス感染症によって、リアルイベントは軒並み中止。開催を見送るか、ウェブでのイベントにシフトするかの判断を迫られることになったのだ。

 担当役員である榎本亮氏は、すぐにリアルイベントの中止、デジタルでの実施という判断を下し、ただデジタルに切り替えるだけでは意味がない。これまでにないくらいの集客を実現しよう」と号令した。

 IMC本部の吉見大輔氏、茂木崇氏によれば、もともとの計画では、2020年5月にAIのイベント、7月に関西でのイベント、11月には東京・有楽町の国際フォーラムでの大規模イベントをリアルで実施することになっていたという。そのすべてをデジタルに切り替えるわけだから、相当なハードワークであったことは想像に難くない。また、イベント運営に慣れていたとはいえ、IMC本部内で蓄積されていたのは、あくまでリアルイベントの運営ノウハウであり、IMC本部は、前例のないデジタルイベントの開催に向けて、動き出すことになった。

 「マーケティング部門であるIMC本部内でも、全員が一律にデジタルスキルを持っていたわけではありません。ですから、うまくいった事例などをチーム全体に共有、スキルアップもしながら、施策を打ち込みながらという感じで、あらゆることを短期間に同時並行的に行っていきました」(茂木氏)

 「茂木が指摘したように、最初はかなりの混乱がありました。IMC本部内にもデジタルイベントを手掛けるグループがあったわけではないので、組織横断的なワーキンググループをつくって、試行錯誤、トライ&エラーをしながらでしたね。最終的に、すべてのイベントをやりきった後は、メンバーの顔つきが変わっていたのは印象的でした」(吉見氏)

 結果は、7月に1.3万人、11月には国内外で約3万人を集める。これはこれまでデジタル化できていなかった営業が保有する顧客情報も含め一元管理につな「デジタルにすることで可視化されたデータを、リアルタイムで全社に共有しました。そのための全社員が閲覧できるダッシュボードを作るなどと、『単にイベントをデジタル化しました』『Zoomを使って営業ができます』ということではなく、そこで得られるデータを最大限活用することで、より大きな成果に結びつくというイメージを伝えたかったのです」

 東海林氏は、デジタルシフトは一過性のものではなく、コロナが収束したとしても、データで語るという点は不可逆のものであり、コロナで加速化した各部門の連携を前に進めるチャンスを逃してはならないと考えていた。

 その点は寺田孝氏も同じで、「マーケティングはこういう施策をする。インサイドセールスはこういう活動をする。フィールドセールス、あるいは製品部隊はこういう支援をするというプランを、各々のチームがしっかりと考えたうえで、1つの目標に向かって足並みをそろえていくことが肝心だと思います」と語る。つまり、あくまでIMC本部としては、デジタルを軸にした各部門の連携強化をゴールに見据えているということだ。

 では、IMC本部は事業部に対して、どのような働きかけをしていったのか。次の項目で見ていこう。

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