楽しい職場学

「笑い」はもろ刃の剣 リテラシー学び職場活性化を 西武文理大学サービス経営学部専任講師 瀬沼文彰

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 テレビのバラエティ番組では、いま「やさしい笑い」が注目されている。やさしい笑いはなんとも響きがいい。そんな笑いがあるのだとすれば、組織のなかでもきっと活用することができる場面が多そうだ。ただし、お笑いを専業とする芸人たちであってもやさしい笑いについては、頭を抱えている。そもそも、そんな笑いはないとする芸人も少なくないのが現状だ。

ぺこぱ・サンドにみる「やさしい笑い」

 やさしい笑いの代名詞は、お笑い芸人のぺこぱの「ノリつっこまない」「突っ込まないツッコミ」だろう。相手に対して怒らず、怒鳴らず、傷つけず、否定せずにポジティブに肯定する。それはフォローでもあり、ツッコミに見えても実はボケにボケを重ねたものだと解釈することができる。

 ぺこぱ的なツッコミは、組織内で誰かを笑わせるためには活用しにくい。しかし、いま、この手のお笑いが世の中でウケているのなら、組織内で必要とされるコミュニケーションのスタイルに関しては見えてくるものがあるのではないだろうか。お笑いからコミュニケーションを学ぶということだ。例えば、誰かの意見に対して、否定せずに肯定してみる。コミュニケーションではポジティブさを心掛け、他者の発言に対してフォローする。もちろん、それらを行ってみても笑いにはつながらない。しかし、笑いを作るための前提となる土壌を強固にしてくれることだろう。テレビのお笑いのコミュニケーションはこんなふうに考え組織に活用してみてはどうだろう。

 また、やさしい笑いで忘れてはならないのはサンドウィッチマンである。彼らがやさしいと評されるのは、人間性やキャラクターが理由かもしれない。その意味では、作られたキャラよりも人間性が重要な時代といえるだろう。そういう要素は組織内でのコミュニケーションでも考えてみるべきポイントになるはずだ。できる人を演じて他者にどう映るかを考えがちな組織内のコミュニケーションで人間性を醸し出せることは周りの人たちとの信頼関係につながりそうだ。サンドウィッチマンのネタは誰にでも分かりやすく親しみやすい。分かりやすさという点もメディアのなかのお笑いを組織のコミュニケーションに生かすためのヒントにはなりそうだ。

 ぺこぱ、サンドウィッチマンのどちらのコンビも、いじりやパワハラ的笑いを用いずに、ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)に反すことがないという点も評価を得ている理由だと思う。

 私たちの組織や日常生活でも、いじったり、差別によって、誰かを不快にさせたり、傷つけたりしてしまうのであれば、そうした種類の笑いは許すことはできないのは同じだ。だが、笑いの研究者として気になるのは、日本では、多くの場合、「こういうことを笑ってはいけない」「こういう笑いはいけない」という二元論の議論になりがちな点である。

笑いは信頼関係のバランスのなかで成立

 この連載でも繰り返し述べてきたように、笑いはコミュニケーションのなかで生まれるため常に相手との関係性や信頼関係のバランスのなかで成立するものである。過激な毒舌や下ネタを好むグループもお互いに信頼関係があり、かつ、それらをその場のすべての参加者が本心から楽しんでいるのであれば自由に言い合ってもいいだろう。家族や親しい友人のような閉ざされた、限定された場での笑いは、場合によっては世間的にはタブーとされているようなものが話題になることもあるかもしれない。同様に、組織内にも様々な人間関係があるとすれば、「これがダメ」というルールはないはずだ。

 とはいえ、その場にいる誰か1人でも不快に思っていないかどうかという点には必ず気を使うべきだ。その話を聞きたくないのに聞こえてしまう人がいないのかなどには絶えず注意が必要だ。そして、SNSなどを通じて自分の発言がパブリックな場に出る可能性がある場合は、それが誰かを傷つける可能性がないことを確認して発信することが必要だ。このあたりがいまテレビのお笑いの難しい問題になる点だろう。

 とはいえ、古今東西どんな笑いやユーモアにも、どこかに毒の要素や負の側面が含まれる。誰かを傷つけたり、攻撃したり、優位な者と優位ではない者のように何らかの形で集団を分断したりしてしまうこともある。仮に自虐であっても、自分の体格を自虐したら、自分と同じ体格の人も傷つけてしまいかねない。自虐なので、発した本人は、その人に向けたつもりではなくてもそうなりかねない。

 こうした笑いそのものが持つ負の側面を考えていくと、誰も傷つけない笑いが本当にあるのかどうかは疑わしい。冗談そのもの、あるいは、それを言うことによって、理解する人/理解しない人、共感する人/共感しない人、面白いと思う人/面白いと思わない人のように、何らかの分断が起きてしまう可能性もある。笑いは、考え始めると本当にややこしく複雑さにまみれている。

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