コロナ倒産の真相

旅行事業のWBF インバウンド狙った積極投資が裏目 帝国データバンク 情報部

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コロナ以前から抱えていた経営リスクと財務リスク

 時流を読んだ成長投資は次々と実を結んできましたが、実は一方で同グループの投資姿勢やそれを支える経営体制に対して、以前より関係各所から不安の声が上がっていました。不安要素は主に3つありました。

 最も不安視されていたのが旅行業界における同グループの立ち位置です。以前より取引先など関係者からは「安定的な稼ぎを生み出す事業がない」「収益性の薄い格安ツアーは市場優位性があるものの、企画旅行や予約手配事業は他社に劣る」といった声が上がっており、旅行業界では決して勝ち組とは言えませんでした。そのため、流行り廃りが激しく景気や国際情勢に左右される当業界において、継続的に成長を続けるにはリスクを負ってでも次々に新規事業へ投資するほかなかったのだと思います。

 そして同グループの成長をけん引していたホテル事業においても、関西でのビジネスホテル事業は後発で立地も悪かったことから、大手ホテルチェーンに押され厳しい運営を強いられるなど、陰りが見え始めていました。

 2つ目は、積極的な成長投資による余裕のない資金繰りです。投資資金は基本的に9行の信金信組、6行の地銀、1行のメガバンクを中心とした金融機関からの借入金に依存していましたし、手持ち資金は長年、月商を下回る程度の確保にとどまっていました。入手した申立書によると金融債務は申立時点で不動産の取得資金を中心にWBFが約239億円(保証債務除く)、WBRが約106億円と年商を大きく上回る額に上っており、効率的な資産活用が行われていたと評価できる一方で、リスクヘッジはほとんど行われていませんでいた。取引金融機関の中には、有事の際は一気に転落してしまうという危機感から取引深耕に慎重になる銀行が出てきていたほか、新規取引を持ち掛けられたものの断っていた地銀もありました。

 実際に2011年頃、沖縄の瀬長島開発時にはホテルの建設工事に遅れが発生したり、一部取引先に支払い遅延を起こしたりと信用不安が広がったこともありました。身の丈に合わない投資計画に社内外からは反対の声も多かったといい、近藤氏を知る人物は「近藤社長は思い入れの強い投資案件では周りが見えなくなってしまうことも多かった」と話します。

 3つ目は、2019年頃からの関西におけるホテル事業の不振です。関西では2016年頃より大阪・京都を中心に新規ホテルの開発ラッシュが始まり、2018年からそれら物件が相次いで開業したことで集客競争が熾烈化していました。同時にインバウンド市場の成長も鈍化したことに加え、人手不足によりホテル客室係の人件費が高騰する事態となっていました。これら環境悪化の影響は立地面で劣っていた当グループも大きく受け、WHRは大幅増収を続けていたものの収益性が著しく悪化しています。

新型コロナでホテルが休業に

 資金繰りを安定させるべく、2019年末あたりには複数のホテル運営物件について一時的に賃料の減額を受けることなどで経費を圧縮するほか、所有物件の一部を売却して財務体質の改善に努めていました。

 そのようなタイミングで、中国で新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。当グループが運営するホテルにおいては、特に2月頃より中国からのキャンセルが相次ぎ、緊急事態宣言発令後は日本人によるキャンセルも増加。収束の見通しが立たない状況下で大半のホテルは休業を余儀なくされました。ホテル事業では3月から4月の売り上げがほぼ立たない状況で、人件費や家賃などの固定費の支払いが止まらず資金繰りは一気に悪化しました。同じく旅行事業においても顧客からの予約キャンセルが加速し、4月以降は予約がほとんどない状態が続きました。

WHRのみ4月末に民事再生法の適用を申し立て

 そのため、3月末にはグループ全体で金融機関へリスケを要請し出血を抑えましたが、WHRにおいては人件費のみで1カ月に約1億7000万円の支払いがあり、当時は経済再開の見通しも立たず限界も近づいていたことから、キャッシュアウトの多いWHRのみ4月末に民事再生法の適用を申し立てる苦渋の決断をします。

 新型コロナの影響が国内で表面化してからわずか2カ月での倒産、信用不安が業界で出始めてからこれほどまでに早い倒産はかなりの異例です。私達にとっても新型コロナの脅威を知った日となりました。

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