アフターコロナの働き方

ワクハラも回避 職場に同調圧力でなくインセンティブを 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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テレワークの不公平感解消に社内通貨を使う会社

 「働き方改革」の推進にもインセンティブは有効だ。

 テレワークの導入をめぐってはテレワークができる社員と、担当する業務の性質上、出社せざるを得ない社員との間で不公平感が生じているケースが少なくない。ある機械メーカーでは出社する社員に対して社内通貨というインセンティブを贈るようにしているそうだ。

 このようにインセンティブは、社員間の不公平感を取り除くツールとして使える。

 今年6月、育児休業法が改正され育休が分割して取得できるようになるなど、制度的には男性も育休を取りやすくなった。しかし実際に取得するうえでは、上司や職場の理解不足がネックになるケースが少なくないといわれる。ただ、ほんとうの問題は、周囲にしわ寄せが生じる職場の構造にある場合が多い。したがって社員が育休を取得しても職場や同僚にしわ寄せが及ばない仕組みにあらためるか、しわ寄せが生じた場合には、それをカバーすると手当が支給されるような制度をつくればよい。

 仕事の分担にインセンティブを取り入れることもできる。

 先に取り上げた機械メーカーでは、社員が担当する仕事も社内通貨を使ったオークション形式で決めるようにしている。人気のある仕事は価格が安くても落札されるが、人気のない仕事は価格を上げないと落札されない。したがって社員は強制されることなく、自分の意思で仕事を選べるわけである。しかも一種の市場原理を採用することで、インセンティブの大きさが恣意的に決められるのを防止できる。

共同の仕事をすれば手当がつく美容室

 共同の仕事にインセンティブを取り入れている会社もある。美容室をチェーン展開している企業は、個人単位の完全歩合制を採用している。ただ電話の応対、洗髪、床掃除といった仕事はだれかが行わなければならない。そのため「1回○円」というように、これらの仕事をこなすたびに手当がつく制度を取り入れている。制度導入後、スタッフが自主的にこなす風土ができたという。

 インセンティブは必ずしも金銭やそれに類するものでなくてもかまわない。特別休暇や旅行、施設利用権といった福利厚生でもよいだろう。いっぽう、かつては負担の大きい仕事を担当させた社員に報いるため、優先的に昇進させるケースも見られた。しかし役職ポストは本来、組織の機能面から適任者が選ばれるものであり、昇進をインセンティブに使ってはいけない。

 各種の調査結果にもあらわれているが、日本人の仕事に対する意欲やキャリア意識は受け身で、弱い。しかし仕事もキャリア形成も、自発的・主体的に行わなければ通用しない時代になっている。個人の自発性、主体性と企業の戦略や方針とを調和させる手段として、インセンティブが導入できる領域を真剣に考えてみるべきではなかろうか。

太田肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論、とくに「個人を生かす組織」について研究。元日本労務学会副会長。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞本賞などを受賞。『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)、『公務員革命』(ちくま新書)、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『個人尊重の組織論』(中公新書)、『「超」働き方改革』(ちくま新書)など著書多数。近著に『同調圧力の正体』(PHP新書)。

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