アフターコロナの働き方

ワクハラも回避 職場に同調圧力でなくインセンティブを 同志社大学政策学部教授 太田 肇

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 政府は12日、新型コロナウイルス対策に伴う緊急事態宣言を東京都に適用した。沖縄県を対象にした宣言と、大阪府など4府県を対象にした「まん延防止等重点措置」は延長した。これまでの対策を見ると、日本と欧米では大きな違いがあることがわかる。欧米では早々にロックダウン(都市封鎖)を行い、違反者には制裁を科す国が多かったのに対し、日本では強制を避け、自粛要請という「お願い」ベースの政策をとった。憲法との関係を指摘する声があるのは事実だ。しかし、自粛要請が優しい政策のように見える一方で、過度の同調圧力というひずみを生んだことは見逃せない。

 つまり感染防止という目的のために個人の自由を奪う点では、両方ともベストとは言いがたい。そこで考えられるのがインセンティブによる誘導という第三の方法である。

 ワクチンをめぐっては、職場で接種を強く促す同調圧力や意思に反した接種を強いられる「ワクチンハラスメント」が問題視される一方で、接種を終えた人に商品をプレゼントしたり、サービスの料金を割り引いたりする店が現れた。そして行政にもそれを後押しする動きが見られる。行き過ぎを警戒する声はあるものの、接種の自己決定を尊重している点では強制や過度の同調圧力より望ましいのではなかろうか。

社内にインセンティブを導入するメリット

 このようなインセンティブで誘導する方法は、会社組織や働き方にも応用できよう。もしかすると日本企業や日本人の働き方を大きく変えるきっかけになるかもしれない。

 わが国では物事をお金で解決するとか、「褒美でつる」のはドライすぎて好ましくないという考え方が根強い。しかし一方で、そのウエットな部分が問題の表面化を抑圧していたことも否定できない。そして心の中でくすぶる不満や不公平感が、手抜きやサボりといったモラルハザードを引き起こす場合もあった。

 強制や圧力の代わりにインセンティブを用いることで、不満や不公平感が生じるのを防げるだけでなく、自己決定感(自分で選択したという感覚)がさまざまな好影響をもたらす。

人事異動にオークション形式を

 人事異動にしても、自分から希望して異動すれば責任感が生まれ、仕事に対するエンゲージメント(熱意)も高くなる。社内FA制や役職公募制の導入は、その趣旨に沿ったものである。ただ本人の希望と会社の要求とが一致するとは限らないので、希望がかなわなかった人には不満が残る。そこでインセンティブを使えば、不満や不公平感を減らせる可能性がある。

 たとえば日本では配属や異動は「適材適所」という建前のもと、人事部主導で決められるのが普通だ。支店や営業所への配属も例外ではない。しかし現実には、だれがどの支店・営業所に配属されても支障がないケースは少なくない。それでも社員の側からすると、業務の負担や生活環境などの理由から人気のない支店・営業所もある。かりにその支店・営業所へ一方的に配属されたら、本人はやる気をなくしたり、人事部を恨んだりするかもしれない。そこで希望者が少ない支店・営業所には手当を上乗せする。理屈としては、ネットオークションのように希望者が現れるまで手当の金額を上げていけばよい。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。