内定フォローのゴールは、内定者から「承諾」を得ること。そう考える企業は少なくありません。しかし、少し視点を上げ、ゴールを追加的に設定すれば、内定フォローをより豊かなものにすることができます。
内定フォローのゴールは承諾ではない
内定フォローを通じて内定者の承諾を獲得したら、企業は一安心です。次年度の採用にリソースを本格投下できるようになります。内定者にとっても、承諾によって自分の入社先が決まります。大変だった就職活動が一段落し、胸をなで下ろす瞬間です。
確かに内定の承諾は、内定フォローのゴールの一つです。とはいえ、ゴールはそれだけではありません。次の2種類のゴールを追加することで、内定フォローの可能性を拡張できます。
一つは、内定フォローのゴールを入社後に広げる、という考え方です。内定を承諾した人材が、入社後に「適応」できずに自社を去ってしまったら、どうでしょう。本人にとっても企業にとっても、不幸な事態です。
入社後の適応を、実務的には「オンボーディング」、学術的には「組織社会化」と呼びます。これらを促すのもまた内定フォローの役目です。すなわち、内定フォローを入社後の円滑な受け入れにつなげるのです。
もう一つ追加すべき内定フォローのゴールは、自社の採用を「改善」するというものです。内定フォローのプロセスにおいては、内定者の声を聞くことができます。
内定フォローを工夫すると、自社の採用に関するリフレクションの機会になります。内定者は、自社の採用を候補者の立場で体験した人たちです。内定者の言葉には、採用改善のヒントが詰まっています。
入社後の適応を促す内定フォロー
入社後の適応を促すために、そして、自社の採用を改善するために、それぞれ何をすれば良いのでしょうか。まずは、入社後の適応につながる内定フォローの方法について解説します。
■入社後の実態を率直に伝える
入社してから会社に円滑になじむために、内定フォローの段階で行っておくと良いのは「RJP」(Realistic Job Preview)です。RJPとは、入社前にリアルな情報を提供することを指します。例えば「ある時期には残業が多くなる」など、一見ネガティブに聞こえる実態も隠さずに伝えるのがRJPです。
入社前の内定者は、入社後について様々な期待をふくらませます。ただし、入社前の期待が入社後の現実とかけ離れていると、新人になった内定者は衝撃を受けてしまいます。これを「リアリティーショック」と言いますが(※1)、リアリティーショックがあると離職のリスクも高まります(※2)。
これまでの学術研究を統合的に分析した研究によれば、企業がRJPを行うことによって、入社前に内定者が抱く期待が現実的なものになり、入社後の定着が促されます。自社の実態を内定フォローの中で伝えるようにしましょう(※3)。
■入社後の関係構築の準備を助ける
前述の通り、新しく入った会社に適応することを組織社会化と呼びます。組織社会化には一定の流れがあることが明らかになっています。
初めに、職場の中で人間関係を作り上げます。続いて、会社のルールを体得し、最後に、その会社のメンバーらしい価値観を会得する、という流れです(※4)。
ここで重要なのは、まず周囲と仲良くなり、受け入れてもらう必要がある点です。新人が職場に受け入れられている感覚を得るのに3カ月弱、仕事が遂行できている感覚を得るのに6カ月かかるという研究もあります(※5)。
新しく会社に入った新人は、周囲の人から様々な情報を得ます(※6)。周囲と関係ができていないと情報が入ってきにくくなり、適応が阻害されてしまうわけです。
このことを踏まえると、内定フォローの時点で、入社後の関係構築の支援を行うのがおすすめです。入社後の配属先が決まっている場合、同じ職場で働く従業員と引き合わせましょう。
どこに配属されるか分からない場合、内定者に周囲と関係を構築する方法を教えます。同時に、受け入れる職場の先輩や上司にも、新人と仲良くなることが重要であること、それから、そのための方法を共有したほうがベターです。