日経SDGsフォーラム シンポジウム

渋沢栄一の「論語と算盤」今こそ 日経SDGsフォーラム シンポジウム(下)

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[パネル討論]
アサヒグループホールディングス Senior Officer,Head of Sustainability 近藤佳代子氏
セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 サステナビリティ推進部 シニアオフィサー  釣流まゆみ氏
コモンズ投信 取締役会長 兼 ESG最高責任者 渋沢健氏
野村アセットマネジメント 責任投資調査部 ESGインベストメントマネージャー 鷹羽美奈子氏
コーディネーター 
日経ESG 編集長 馬場美希

大事な「と」の力

 渋沢 私の高祖父、渋沢栄一が「論語と算盤(そろばん)」で伝えたかったのは、「と」の力だ。「と」は“and”だ。渋沢は「日本資本主義の父」といわれているが、著述からは合本主義が読み取れる。「論語」と「算盤」を合わせることによって「持続可能性」を伝えたかったのだろう。今の時代にも十分通じるメッセージが込められている。

 近藤 企業のSDGsへの取り組みが社会にどのような価値を生み出しているのかを可視化し、評価する基準が必要だと考えるか。

 渋沢 会計制度に社会的インパクトと環境的インパクトを落とし込もうという動きが世界で始まっている。その動きを「論語と算盤」に沿って考えれば、大立志と小立志が矛盾してはいけないという当たり前のことになる。大事なのは、SDGsへの取り組みが日々の事業と矛盾していないかを確認することだ。

 釣流 大立志、小立志という考え方をどう伝えていくか。その点でアドバイスをお願いしたい。

 渋沢 可視化することを考えたときに、自分たちはどのような世の中・社会・コミュニティーを残したいかをイメージする。もしくは「自分たちの子どもが将来どうなるのか」と想像力を働かせることで創造のきっかけが生まれる。身の回りにある大切なものから飛躍して、それを現実につなげることだ。

 鷹羽 2050年カーボンニュートラルという大きな目標に多くの企業が賛同し始めているが、投資計画など課題は山積みだ。コミットしたリターンとのてんびんにかけるとき、投資家としてどのように判断すべきか。

 渋沢 カーボンニュートラルは、業界によっては追い風になる可能性がある一方、逆境になる業界もある。逆境には自然的なものと人為的なものがあり、人為的な逆境に対し、渋沢栄一は「できるかできないかではなく、何をしたいか、したくないかという心構えを持つべきだ」と言っている。

 迷うこともあるだろうが、きちんとしたベクトルがあれば、いずれシフトチェンジできる。つまり目標に向かって会社が色々なレベルでコミュニケーションできているかどうかで判断できると考える。

エシカル社会へ注力

 馬場 企業としてのSDGsへの取り組みについて伺いたい。

 近藤 グループ全体でサステナビリティー(持続可能性)とESG経営を根付かせ、事業の成長に寄与する形に具現化させるべく取り組みを進めている。特に喫緊の課題である気候変動・プラスチック問題の環境テーマと、人と地域のつながりが重要性を増す中で持続可能なコミュニティーづくりという2つのテーマへの取り組みを強化している。

 当社の理念である「楽しい生活文化の創造」を実現するため、社会の持続性と事業の持続性を掛け合わせた取り組みにしたい。

 釣流 社会からの期待を、対話を通じて理解し、事業活動を通じて還元する。お客様にどれだけ多くお返しができるかを大切にしている。今まさにお客様と取引先を巻き込みながら、エシカルな社会づくりと資源の持続可能性向上に取り組んでいる。

 例えば資源を循環させて地球を守る「ボトルtoボトル」事業は重要な活動に位置付けており、この取り組みを世界にも発信することが私たちの役割だと考える。まずは我々が誇れる会社になり、未来へつなげていくことを様々な活動の中で体現していきたい。

 鷹羽 当社はSDGsへの取り組みを3つの評価軸で測るチャレンジをしている。1つ目は企業評価。特に環境社会の課題を解決できるソリューションに重きを置いた評価だ。これは利益を生み出すという本来の企業の役割と成長につながる。2つ目はポートフォリオの透明性向上だ。

 3つ目はインパクトファンドの運用だ。例えば医療の充実のために投資する目的をつくったのであれば、実際に糖尿病や肥満の患者数を減らす目標をファンドにつける。そのことにより従来の投資の評価軸に加えて、インパクトも測定できる。

 渋沢 企業理念を表現する手段としてミッションは以前から使われていたが、3年ほど前から「パーパス(存在意義)」という言葉がはやり始めた。英語に翻訳するとその違いは明確で、ミッションは“What we do”(何をするのか)、パーパスは“Why we do”(なぜするのか)。ミッションは確かに大事だが、“自分事”として捉えられていないのかもしれない。しかしパーパスは「なぜ我が社は存在しているのか」に対する解を持っていて、これから先の価値を創造できる会社だ。

 皆さんがそれぞれの立場でパーパスを発信していると思う。これからの時代は正しい答えよりも正しい問いかけが大事だ。

パーパス意識して

 馬場 「論語と算盤」を羅針盤に、今後はどのような行動を取っていくべきか。

 鷹羽 投資家は将来のどこをターゲットにするのか、パーパスは何なのかを常に頭に置いて行動していかなければならない。そのためには、まずは自身の透明性を高めることだ。どう変わっていくのかを常に意識して投資を続けることが大切だ。

 釣流 環境宣言をした当社は、地球環境への負荷低減をとことん追求していく。小売業なので、お客様と共に進めていきたいと考えている。グループの中で何ができるのか、個人の挑戦でもある。やりがい、働きがい、先を見通す力があり、楽しいことを共感できる企業を目指す。

 近藤 算盤だけでなく社会の持続性にも取り組み、それをしっかりと事業の成長に寄与させたい。そのためには事業の中でバリューチェーンすべてにサステナビリティーを組み込むこと、この取り組みを従業員に浸透させていくことが重要だ。

 ステークホルダー(利害関係者)の皆さんとパートナーシップを組むことも重要だ。課題は多いが、「論語と算盤」を実践し、地球と人を笑顔にする企業を目指したい。

 渋沢 令和の新たな時代に、新しい日本の成功体験をつくりたい。昭和のメード・イン・ジャパンや平成のメード・バイ・ジャパンでなく、令和はメード・ウィズ・ジャパン。つまり一緒に持続可能な世の中をつくる時代だ。

 こうした取り組みを実践することで、日本のあらゆる企業が社会的課題に応えながら経済成長を促すモデルが構築できるだろう。今後、日本の人口が減ったとしても、メード・ウィズ・ジャパンが新しい成功体験につながると考える。

[基調講演]
国連大学学長/国連事務次長 デイビッド・マローン氏

途上国への支援期待

 国連大学の多くの拠点では大半の学生が開発途上国出身の人たちだ。私たちの使命は途上国の利益と課題に強く結びついている。

 2001年、国連はミレニアム開発目標「MDGs」を発表し、大きな成功を収めた。MDGsは途上国にとって非常に有益なものだった。

 その後15年にSDGsを発表し、各国が目標の達成に向け尽力している。しかし同年以降、途上国とほとんどの先進国で経済成長率が鈍化し始め、SDGsの実現可能性に影響を与えた。途上国はSDGsの達成に非常に苦労する中、新型コロナウイルスによって甚大な経済的ダメージを与えたこともあり、達成目標から大きく後退した。

 国連を代表して日本の皆様、そして私の母国であるカナダに伝えたいメッセージがある。両国は環境問題に向けた努力を続けている。菅義偉首相が30年までに国内の二酸化炭素(CO2)排出量を大幅削減するという野心的な目標を発表したが、これにはとても勇気づけられた。

 日本は自然保護に関しては素晴らしい成果を上げているが、有害物質の排出の取り組みについてはこれからだ。同じことがカナダにも当てはまる。今こそ多くの国でこの問題について真剣に取り組むべきだ。

 日本・カナダの両国は開発援助費を削減し、援助プログラムを縮小しているが、途上国のニーズは縮小されていない。開発援助を増やせば途上国が自ら気候変動に立ち向かう支援となり、自国で効果的な気候変動に取り組めば他国を助けることになる。

 両国がそれぞれの状況に応じて環境問題に取り組む一方、国連も気候変動問題とSDGsという重要課題の解決に注力していく。

[対談]
TCFDコンソーシアム会長/一橋大学CFO 教育研究センター長 伊藤邦雄氏
日経ESG 発行人 酒井耕一

ESG、常にレベルアップを

 伊藤 「見破られるESG」と「強靭(きょうじん)化・深化するESG」の二極化が起きている。見破られるESGの12パターンのうち、7~8パターンに該当すると見破られる可能性が高い。

 一方、深化するESG経営の特徴は他の変革要素と連鎖・連動させている点だ。中心にESGがあり、その外側に経営に重要な要素を配置したものをヘキサゴンモデルと呼んでいる。

 (1)資本生産性(2)パーパス(3)気候変動・TCFD(4)DX(デジタルトランスフォーメーション)(5)人材戦略(6)ファイナンス――の6つの要素とESGをどう連動させるかが重要となる。

 酒井 12のパターンを防ぐにはどうすべきか。

 伊藤 自分たちのESGへの取り組みがどのレベルにあるのかを、客観的に診断する必要がある。ESGを経営の中心に置くことを、社員やステークホルダーに宣言し、対話することが大事だ。

 酒井 事業行動や研究開発のあり方も変わるのでは。

 伊藤 ESG経営を経営の中心に据えるにはある種の覚悟を伴う。資本生産性・収益性が高くなければ、研究開発に資金を回すこともできない。しかし、サステナブルな企業経営を行うには短期の成果や効率を乗り越えて、中長期の時間軸に立って研究開発や投資の意思決定を辛抱強く行う必要がある。短期軸と中長期軸の“緊張関係”を取締役会が適切に監督することが重要だ。

 酒井 ヘキサゴンモデルの実践の理想型とは。

 伊藤 まずは12のパターンに当てはまっていないか自己診断を行い、(ESGをやっているふりをしている)「ESGウォッシュ」が見られないかチェックする。さらに課題を明確にし、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すこと。

 それができたら、次に6つの要素とESGが連動できているかを確認する。「強靭なESG経営」を実現するために、この連動の幅を拡充する必要がある。

 酒井 投資家やステークホルダーは、正しいアクションが行われているかをどのように判断すればよいか。

 伊藤 基本的には統合報告書の開示情報と、対話あるいはエンゲージメントを通じて整合性や一貫性、さらには経年変化などから会社のESG活動の実態を透かして見るしかない。

 酒井 欧州や米国では急速にサステナブルファイナンスや経営改革も進めている。この観点で日本企業にアドバイスをお願いしたい。

 伊藤 ESGは自己満足に陥りやすいことに注意しなければいけない。投資家にも目配りをして、常にレベルアップを図るべきだ。

 例えば脱炭素に向けて「トランジション・ファイナンス」を活用するのも一考だ。これによってESGの向上と資本コストの低減につながる。

■日経SDGsフォーラム シンポジウム

主催:日本経済新聞社、日経BP   

後援:内閣府、外務省、経済産業省、環境省、日本経済団体連合会  

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

協力:日経ESG経営フォーラム

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