日経SDGsフォーラム シンポジウム

「取り残さない」へ 問われる共創 日経SDGsフォーラム シンポジウム(上)

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 国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限まであと9年。新型コロナウイルスとの戦いで経済活動に濃い影が差す世界は「誰一人取り残さない」社会をどう実現していくのか。日本経済新聞社と日経BPは感染症対策のためオンライン形式で「日経SDGsフォーラム」を開催。登壇した産官学のキーパーソンらはコロナ禍を変革の好機と捉える心と、多くの人を巻き込む共創の加速を訴えた。

[パネル討論]
弁護士/つくば市議会議員/リージット 代表取締役 川久保皆実氏
steAm 代表取締役(音楽・数学・STEAM教育)/大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 中島さち子氏
ヒューマンライフコード 創業者 兼 代表取締役社長 原田雅充氏
介護福祉士/モデル/白梅学園大学 非常勤講師 上条百里奈氏
コーディネーター
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史氏

コロナは変革の好機 

誰もが作り手

 蟹江 新型コロナウイルスの影響で様々な前提が崩れてしまったが、逆にいえば社会システム変革の絶好の機会でもある。皆さんはこれまで変革にチャレンジして実績を積んできた方々だが、おのおのの取り組みについてお話しください。

 川久保 私は子育て中の当事者として公立保育所の制度への問題意識を持ち、昨年10月の茨城県つくば市議会議員選挙に出馬して当選した。立候補に当たり「仕事と育児を犠牲にしない」「他人のお金に頼らない」「既存のやり方にとらわれない」という「3ない原則」を打ち立て、街頭演説の代わりに街のごみ拾いという独自の選挙運動を展開した。組織力や知名度、資金力がなくても、当事者としての問題意識を持った候補者が新しい選挙運動を経て当選し、政治を変えていける社会になることを願っている。

 中島 今は創造性の民主化時代だ。正解がないからこそ従来の年齢や性別、国などの境界線が消え、一人ひとりが未来のために関わりあう時代となってきた。

 私が携わるSTEAM(スティーム)教育とは、誰もがアーティストであり研究者・経営者であり、未来の作り手だという教育理念を持つ分野横断的な学びだ。国や自治体、企業やアスリートらとSTEAM教育の取り組みを進め、「新たな学びはどうあるべきか」を皆で共創しているところだ。

 上条 私は高齢者の介護サポートや介護に関する情報発信、現場の実態調査などを行っている。「日本型介護」の根底には、尊厳を重視して生活を整えるという考え方がある。在宅療養を選んだ末期肝硬変のある患者は、本人の尊厳を重視した生活で寝たきりの状態から徐々に回復。退院1カ月後には10メートルほどの歩行ができ、ポジティブな発言も増えた。日本型介護による生活デザインが病気や障がい、認知症と共存できる未来へとつながるのではないかと思う。

 原田 米国滞在時、本来なら廃棄される周産期産物の細胞を活用した治療で命を救われた小児患者を目の当たりにして衝撃を受けた。一日も早く製品化し、安定供給に資するサプライチェーンを構築する取り組みを進めている。へその緒はドナーにやさしく、国内で安価に調達できる。臍帯(さいたい)ごと備蓄可能なので安定供給にも寄与する。サルコペニアやGVHD(移植片対宿主病)、COVID―19呼吸器不全など臨床エビデンスも蓄積している。

 蟹江 既存の概念にとらわれず、新しいことを切り開いてきた上で、自身のチャレンジのきっかけとなった出来事や思いは何か。

 上条 中学時代の介護ボランティアのとき、100歳の方々が「今が一番幸せ」と言っていたのが印象的だった。介護や認知症に対してネガティブなイメージを持つ人は多い。社会を変えることで結果的に介護の現場が豊かになればいいという思いで活動を続けている。

つながる喜び

 中島 私自身が数学や音楽という好きなものに出合い、他の専門性を持つ人々と出会うことでつながる喜びを感じることができた。新たなものを生み出す楽しさ、変革する喜びを社会に伝えたいと2017年に起業した。米国などでは格差解消の目的もあり、STEAMに国が相当額の投資をしている。皆が元気に未来価値を共創できる社会の仕組みを模索している。

 川久保 つくば市では30年前からずっと保育所の制度が変わっていなかった。育児負担が偏りがちな女性が政治参加せず、当事者の切実な声が届いていなかったことが原因だ。従来型の選挙運動では多くの時間をかけなければならず、家庭や仕事に支障が出てしまう。これが子育て中の当事者だけでなく様々な立場の人が出馬を諦める原因となっている。選挙運動のやり方を変える下地作りをしたいと思い出馬したが、当事者が出馬することの意義をもっと多くの人に知ってほしい。今後は新しい選挙運動に挑戦したい人が集まる場づくりにも携わりたい。

 原田 創業以来、へその緒の活用には2つの産業障壁があった。技術的な壁は、私がかつて所属していた東京大学医科学研究所の技術で15センチメートルのへその緒から千人投与分の輸注パック製造が可能になり解決した。へその緒を産科で廃棄しなければならないという法的な壁は、19年の規制緩和で産業化の第一歩を踏み出した。今後は「へその緒は保管する時代」という社会的合意を形成することが課題だ。

人々巻き込め

 蟹江 SDGs達成まであと9年。変革を起こすには人々を巻き込むことも必要だが、どう考えるか。

 川久保 今回の私の選挙運動を知り、「私も挑戦したい」という声が全国から寄せられている。皆さんにお願いしたいのは、選挙の時に「この街を変えたい」という強い問題意識を持って動いてくれる人は誰なのか、しっかり考えて一票を投じてほしいということだ。また解決したい社会課題があるのであれば、手段の一つとして自ら立候補することも検討していただきたい。

 中島 私は25年の大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務めている。「いのち輝く未来社会のデザイン」のテーマで、遊びや学び、スポーツや芸術を通じて生きる喜びや楽しさを感じ、命を高める共創の場を創出することが目的だ。「未来の地球学校プロジェクト」と称して国内外・企業・高齢者など多様な点をつないで共創できないかと考えている。まずは仕組みから興味を持った方々と作り上げていきたい。

 上条 介護業界の変革はまだこれからだ。要介護者を「何もできない支えるべき人」ではなく「一緒に社会を支えられる一人の大人」として捉えていただき、巻き込み、巻き込まれながら豊かな社会をつくっていければと思う。

 原田 私の好きな言葉にキュリー夫人の「個人の改善なくして社会の改革はない」という言葉がある。私自身も個人の思いから、へその緒を先進技術で製品化することに取り組んできたが、当社だけでは不可能だ。関係省庁や病院、専門家らと連携し、基礎研究から開発、販売に至るまでのパートナーシップで真に困っている患者につなげていけると考えている。理念に共鳴する方はぜひ当社にご連絡いただきたい。

[パネル討論]
NIKKEI脱炭素委員会 委員/三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部 副部長
プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高まり氏
NIKKEI脱炭素委員会 委員長/東京大学未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏
コーディネーター 
日経ESG 編集長 馬場 未希

気候変動 金融にもリスク

 馬場 気候変動対策の世界の潮流について聞きたい。

 高村 昨年、菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言した。50年カーボンニュートラルは、パリ協定の「気温上昇を1.5度までに抑える」水準の削減対策に対応するものだ。世界120カ国以上がこの目標を共有し、中国も昨年の国連総会で遅くとも60年までのカーボンニュートラル実現を表明した。

 米国バイデン大統領は就任直後パリ協定を再締結し、4月の日米首脳会談では日米気候変動パートナーシップが合意した。その数日後にはバイデン大統領主催の気候サミットが開かれ、日本、中国、インド、ロシアを含む40カ国・地域の首脳が集まった。各国が30年目標を引き上げた背景には気候変動への社会の強い危機感がある。

 吉高 新型コロナの状況と気候変動は相互に関係し合っているからこそ世界が意欲的に取り組んでいると感じる。気候変動パートナーシップでインド太平洋地域における役割での協力が合意されたのは重要なことだ。 

 馬場 4月に菅首相は、新たな30年目標として温暖化ガス排出を13年度比46%削減すると表明した。大変高い目標だと感じる。

 高村 目標達成は今の対策のままでは難しいが、意欲的な高い目標設定により脱炭素化への課題が見えてくる。この6年で日本でも排出削減が進み、野心的な目標を掲げる企業も出てきた。この流れを積極的に生かしたい。

 馬場 46%削減を確実にするためには何が必要か。

 高村 エネルギーの脱炭素化、電力分野の脱炭素化は必須で、加速すべきだ。今ある技術で最大限削減するのに加え、長期的な移行戦略、投資も重要になる。

 吉高 30年目標は日本にとってリスクにもチャンスにもなる。日本企業は経営の意志とロードマップを示し資金を呼び込むことが大事だ。投資家に知られていない技術などを整理し、説明することもカギになる。

 馬場 企業の取り組みとESG(環境・社会・企業統治)投資、脱炭素マネーの最新動向を聞きたい。

 吉高 今年はEU(欧州連合)で非財務情報開示指令の改正案公表、日本ではコーポレートガバナンス・コード改訂など、ESG関連の気候変動に対する動きが数多くある。コロナ禍でもESG投資、グリーンボンド(環境債)は増えている。世界の大手銀行が参加するアライアンスでも50年までに投融資ポートフォリオをネットゼロにする目標を設定するなど、金融の世界でも脱炭素の動きが進む。

 運用にはインパクトも必要だ。ESG評価でカーボンプライシングを活用するなど様々な工夫がみられる。注目に値するのはEUの排出量取引制度だ。米国のIT(情報技術)大手がサプライチェーンに対して再生可能エネルギーでの納入や排出量削減の要請をしている。気候変動が金融システムのリスクになることが認識され始めた。

 馬場 国際的な議論で注目のポイントは。

 吉高 今年の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では市場メカニズムのルールづくりに注目している。議長の英国を中心としたグリーンファイナンスの動き、バイデン大統領の参加にも期待したい。

 高村 削減努力をどれだけ積み上げられるか。途上国の脱炭素の加速化は課題で、日本の海外支援も問われる。生物多様性に配慮して事業をしているかで企業を評価する動きにも注目している。

 馬場 脱炭素の新しい取り組みについて聞きたい。

 高村 金融や脱炭素の技術、イノベーションに詳しい専門家、メディアが連携して「NIKKEI脱炭素プロジェクト」を4月からスタートした。日本の様々な取り組みを発信し、50年までのカーボンニュートラルの実現を目指すプロジェクトになる。COP26でも発信をしたいと考えている。

データ■企業管理職に広がる意識 講演・討論ヒントに

 管理職に強まるSDGsへの関心――。日本経済新聞社はシンポジウム終了後にアンケートを実施、会社の課長職以上が聴講者の半数を超え、持続可能性を重視する企業文化の広がりをうかがわせた。年代別では20~70歳まで幅広い層の意識の高さも浮き彫りに。

 聴講理由は「SDGsに関心があるから」を筆頭に「社会的課題の解決に関心があるから」「企業の具体的な取り組みを知りたいから」など。社会課題を“自分事”と捉え講演や討論にヒントを求める様子が読み取れた。「聞き逃したセッションはアーカイブで視聴したい」などオンライン開催の利点を挙げる人や、地方都市からの参加者も多く、コロナ終息後はリアル・オンライン並行の「ハイブリッド開催」も選択肢となりそうだ。

[挨拶]
国連広報センター 所長 根本 かおる氏

「緑の復興」処方箋に

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは経済・社会など我々のあらゆる分野を揺るがしている。この人類の危機を乗り越えるにはグリーンリカバリー(緑の復興)が不可欠で、その羅針盤となるのがSDGsだ。ワクチンの公平な普及と大胆な気候変動対策が大きなカギを握るだろう。

 ワクチンはWHO(世界保健機関)とCOVAX(コバックス)を通じて途上国などに割り当てられているが、世界的にワクチンへのアクセスは不平等だ。コロナからの復興には全ての人々が健康を等しく享受できるよう政策を行い、資源を配分せねばならない。

 根本的な感染症対策には、人間界と自然界とを1つの健康概念で捉え、ワンヘルス・ワンシステムとして崩れたバランスの立て直しが必要だ。国連は2050年までに脱炭素を達成するための世界連合を構築するという大きな野心を掲げている。先の気候リーダーズサミットでは、グテレス国連事務総長が再生可能エネルギーへの転換と、各国の石炭火力発電からのフェーズアウトを訴えた。

 コロナ危機の間にも気候変動は驚くべきスピードで進んでいる。パリ協定が求める世界の気温上昇をセ氏1・5度未満に抑えるために残された時間は少ない。

■日経SDGsフォーラム シンポジウム

主催:日本経済新聞社、日経BP   

後援:内閣府、外務省、経済産業省、環境省、日本経済団体連合会  

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

協力:日経ESG経営フォーラム

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