カーボンニュートラル実現のための水素実装

官民総力結集 技術の実装急ぐ 日経社会イノベーションフォーラム(下)

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 新たなグリーン成長戦略の目標値として、CO2排出量を2030年までに13年比46%削減することが打ち出された。官民の総力を結集しても、あと10年足らずで達成するのは非常に高いハードルといえる。実現への切り札と期待されるのが水素利用だ。発電だけでなく熱源燃料、化学原料としての利用も検討されている。

[パネルディスカッション] 脱炭素の切り札、利用拡大を

【パネリスト】
国際大学大学院 橘川武郎氏
千葉大学大学院 村木美貴氏
東芝エネルギーシステムズ 佐薙徳寿氏
川崎重工業 原田英一氏
Jパワー 笹津浩司氏
【モデレーター】
日経BP 総合研究所 上席研究員 金子憲治氏

[プレゼンテーション] 脱CO2へ 電源ミックス

国際大学大学院 国際経営学研究科 教授 橘川武郎氏

 カーボンニュートラル宣言以来、新しい景色が広がった。政府は電力、非電力、炭素除去の3つの分野で意欲的な取り組みを進めている。電力では再エネ、原子力に加えてアンモニア火力が注目される。電気自動車(EV)など電化を進めていくと、総電力需要は今より30~50%増える。再エネ利用ではまだ火力発電による調整が必要でCO2が排出する。これがアンモニア火力になることで解決するわけだ。

 水素とアンモニアは技術的に近くてもビジネス的には異なる。CO2排出の約62%を占める非電力は水素を利用し、残りの電力分野はアンモニアを選択するということになるだろう。

[プレゼンテーション] 都市づくり前に 市場形成を

千葉大学大学院 工学研究院 教授 村木美貴氏

 水素を都市づくりに使うには市場形成が重要になる。需要を拡大して低コスト化することがまず必要だ。

 水素の製造コストは高いが、オンサイトなのかオフサイトで輸送コストをかけるのか。都市部での水素利用を考えると脱臭のコスト、管路が長くなれば道路占用コストも膨らむ。再エネ発電の余剰分を水素に変えて貯蔵し、必要なときに燃料電池で発電もしくは水素利用できる所に供給する。既設管があれば、それを利用する。

 規模の経済を働かせるためには、需要家が増えなければならない。規制で水素利用に導くか、マーケットメカニズムに任せるのか。仕組みづくりが重要になる。

[パネルディスカッション] 不可避、不可逆 重い30年目標

 金子 2050年までのカーボンニュートラル実現に加え、30年までの中間目標が新たに打ち出された。政府は50年に再エネ発電で5~6割、原子力発電とCCUS(CO2回収・貯留・利用)火力発電で3~4割、水素・アンモニア燃焼発電で1割という定量的な数値も示した。

 橘川 50年のカーボンニュートラルは頑張れば可能。政府の数値は再エネ、火力、原子力と分けないで火力を2つに分けて原子力と合わせた。原子力が1割以下ならばいい組み合わせだ。ただ30年に向けての準備は不足している。

 村木 都市計画の視点ではエネルギー構成に合わせたインフラ整備も検討すべき。都市の中に水素を入れるならば水素ステーションの整備とか、大容量の蓄電池を都市のどこに置くのか、多くのことを柔軟に検証していく必要がある。

 佐薙 50年の再エネ率5~6割を重く受け止めている。発電設備に加え電力系統の手当ても必要。30年目標はさらに重い課題だ。

 原田 欧州では現地企業の対応が進んだ。再エネ関連は、実は海外機器が多いのが実情で、水素ではそれを避けるためにも、開発に大きな目標ができた。

 笹津 脱CO2は不可避で不可逆と受け止める。当社の30年目標は17~19年の平均との比で40%削減。ほぼ政府目標と一致する。多様な電源の選択肢を持ちながら、50年に向けてはあらゆる技術を投入して積極的に取り組む。

地域との連携 合意形成が鍵

 金子 CCS(CO2回収・貯留)は最終手段と思っていた。時代が変わったと感じる。

 橘川 心配なのは総電力需要を制限すること。製造業などが生産力を維持できるか懸念する。

 佐薙 鉄鋼では水素還元製鉄、化学ではCO2の資源化などプロセスの転換も求められる。水素は高価なので、需要を生み出して大量かつ安価に利用できるようにする必要がある。

 原田 産業分野の脱炭素化には水素を利用するしかない。水素発電所など「大量に水素を使う場」が実現すれば、大きく水素コストを下げられる。

 笹津 非電力分野の脱CO2は非常に難しい。水素は大型移動体の燃料、工業炉での還元剤や原料など、電化だけで解決できない分野で脱CO2が可能。貯蔵できるのもメリットだ。

 金子 産業部門での連携や都市と地域が水素社会でどう連携するかも重要だ。

 橘川 脱炭素をめざす自治体が増え、総人口では1億人超になる。しかし宣言実現の方法や手段に悩む自治体が圧倒的に多い。

 村木 地域連携では創エネ地域と消費地域の適合が重要。市民全員が脱炭素を歓迎するわけではなく、理解と合意形成に工夫がいる。

 佐薙 地域の脱炭素のキーワードは地産地消と水素サプライチェーンだ。需要地に水素を供給する連携が生まれてくる。

 原田 神戸市では市街地で水素発電をやっているが、反対運動は一切なかった。神戸市が早い段階から粘り強く住民と対話した結果だ。こうした活動は自治体とメーカーで協力してやっていく。

 笹津 地元のステークホルダーとの価値共有は大切だ。地域にある既存インフラを活用することで、その地域でカーボンフリー化を進めることができる。オーストラリアではまずはそれをめざす。

 橘川 水素とアンモニアは製造過程でCO2を出さないグリーン、CCSと組み合わせてカーボンフリー化するブルー、製造過程でCO2を排出するグレーといわれる、脱炭素度合い別の色分けが3色ある。20年代中はこのグレーも使うしかない。

 佐薙 東芝は浪江町でグリーン水素製造の実証実験を行っている。もともと水素基本戦略では30年の導入量が30万トンとしていたが、今回300万トンに拡大し50年までにさらに増える。だから色にはこだわらずに導入していくべきだろう。ただエネルギーセキュリティー面から国産化は重要だ。

 原田 実は水素を製造過程別に色分けすることはあまり賛成できない。重要なのはどれだけCO2を排出したか数値を知ること。一番効率的な水素から導入する方がよいと思う。

 笹津 ブルー水素は大量・安定供給が可能。国内製造には化石資源の輸入と国内でのCCSが必要だ。海外製造では有望なCCSサイトが近くにある化石資源を用いる。また、エネルギー密度が低い水素の輸送には工夫がいる。

コスト最適化へ 需要創出に注力

 金子 今後30年の電源ミックス目標の議論が本格化し決定していくだろう。改めて水素を実装していく上での課題は。

 橘川 脱炭素でも水素でも、コストは上がる。そこにインセンティブや排出量取引を入れれば動き出す。既存インフラを徹底的に活用してコストを下げる必要もある。アンモニアは既存の石炭火力を使うし、メタネーションは既存のガス管を使うので知恵が使える。

 村木 コスト上昇は避けられない。だから需要は拡大しなければならない。既存インフラ活用も重要。全員参加の公平性も求められる。最終的に市場が主導するのか、規制でそうなるのかも大事だ。

 佐薙 最も重要なのは水素需要の創出。水素はほとんどすべての分野で使用できるカーボンニュートラルの切り札だ。産学官がしっかり連携して、まずは需要創出に力を注ぐべき。それがコスト低減に効く。

 原田 コスト低減を技術開発で実現することを前提として、このコスト上昇を国民が公平に負担できる仕組みと、海外に資金が流出しない制度設計が必要だ。水素がコスト高でも、国内で還流することで国内経済は活性化する。

 笹津 重要なのはCCUS、特にCO2の貯留技術。日豪水素サプライチェーン構築実証事業でも貯留サイトがあることが鍵になっている。日本近海でも貯留ポテンシャルが確認されており、適地選定に向けた調査が進む。50年のカーボンニュートラルは極めて挑戦的な目標。脱CO2の流れは不可逆であると覚悟して臨む。

 金子 水素を身近に使用できる社会実装へ、官民の総力結集を期待したい。

主催:日本経済新聞社、日経BP

後援:経済産業省、東京都

メディアパートナー:FINANCIAL TIMES

協賛:清水建設、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、川崎重工業、東芝、岩谷産業、Jパワー(電源開発)

特別協力:三菱地所

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