キーワードは「伝達感」
20年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、採用のオンライン化が進みました。「これまでより、辞退率が高まった」「諾否を保留する人が多くなった」など、内定フォローに関する相談が増えています。
オンライン採用下で、内定フォローに苦しむのは何故でしょう。オンラインコミュニケーションの特徴を理解すれば、その理由が分かります。
キーワードは「伝達感」です。伝達感とは、自分の話が相手に伝わっている感覚、および、相手の話が自分に伝わっている感覚を指します。
学術研究によれば、オンラインは対面よりも伝達感が「低い」ことが明らかになっています。オンラインでは、理解し合えた感覚が得られにくいのです(※5)。
採用で考えてみましょう。伝達感が低いと、学生は「自分のことを企業にあまり分かってもらっていない」と感じます。同時に、「自分は企業のことをしっかり理解できていない」という気持ちになります。
不確実性を低減したい学生が、伝達感を得られない環境に置かれると、どうなるでしょうか。企業のことをもっと知りたいのに、あまり知れていないと感じる学生は、何を思うのでしょう。
企業から内定を獲得したとしても、「自分は、この会社のことをよく分かっていない」「この会社の内定を承諾して良いのだろうか」と不安になるに違いありません。
実際に、ビジネスリサーチラボが2020年に実施した内定者調査において、特にオンライン化以降に就活を進めた内定者は、内定の諾否を迷う傾向がありました。2021年に現在進行系で実施している内定者調査では、その傾向がより広範囲にわたっています。
オンライン採用が浸透する中、学生は情報を渇望するようになっています。説得するものとして内定フォローを捉えるのではなく、情報を提供するものとして捉え直すことが大切です。
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、11年にビジネスリサーチラボを創業。HR領域を中心に調査・コンサルティング事業を展開し、研究知と実践知の両方を活用したサービス「アカデミックリサーチ」を提供。13年から採用学研究所の所長、17年から日本採用力検定協会の理事を務める。著書に『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(共著、ナツメ社)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)、『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)
(※1)就職みらい研究所(2021)『就職白書2021』株式会社リクルート。
(※2)20年卒と21年卒を比べると辞退率が下がっています。ただし、22年卒の5月1日時点の辞退率は36.2%であり、昨年の同時期の27.7%よりも高くなっています。就職みらい研究所(2021)「就職プロセス調査(2022年卒)2021年5月1日時点 内定状況」株式会社リクルート。
(※3) Berger, C. R., and Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99-112.
(※4)Redmond, M. V. (2015). Uncertainty reduction theory. English technical reports and white papers. 3.
(※5)杉谷陽子(2008)「インターネット上の口コミの有効性:情報の解釈と記憶における非言語的手がかりの効果」『産業・組織心理学研究』第22巻1号、39-50頁。