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台湾、デジタル行政は「公開・透明・協力」 オードリー・タンが主導した新型コロナ対策

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 4日午後、日本から台湾へのワクチンを搭載した日航機が台北・桃園空港に到着した。その光景を現地のテレビ局が生中継し、飛行機の現在地を追うことができるネットサービスの閲覧者は2万人を超えたという。蔡英文政権は日米などと連携してワクチン確保を急ぐ一方、国内ではデジタルを活用した感染防止対策を次々と打ち出している。その前線で指揮するひとりがIT政策担当の唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員。台北在住の早川友久・李登輝基金会顧問は、かつて李登輝・台湾元総統の秘書を務め、長時間インタビューなどを通じオードリー・タン氏を最も良く知る日本人の1人だ。早川氏にデジタル技術を駆使して新型コロナウイルス感染防止対策を進める台湾の状況をオンライン取材で聞いた。

台湾のコロナ封じ、綱渡りだった面も

 ――日本では新型コロナの感染拡大で「緊急事態宣言」の再延長が繰り返されています。台湾でも5月以来、急速に感染拡大が進んだといいます。

 「これまで1年近く、マスク着用と海外への出入国の制限を除けば、ほとんどコロナ禍以前と同じような生活を送ってきた台湾の人たちにとって市中感染の拡大は衝撃だった。それまで感染対策がうまくいっていたため、気が緩んでいたという面もあった。従来の対策では変異種を防ぎきれないことも見えてきた。かなり成功しているように思えていた台湾のコロナ対策も、実際には綱渡りで、かろうじて落ちずにいる状態を保っていただけにすぎなかったことを痛感させられた。ただ感染者数が爆発的に増加することは防いでいる」

 ――オードリー・タン氏は、感染者の行動軌跡がすぐ分かるシステムを開発しました。現役閣僚、IQ180、ITプログラマー、起業家、中学中退者、シビックハッカー(市民技術者)、トランスジェンダーなど多彩な顔を持つ天才的な台湾人です。昨春は短期間で開発したマスク在庫アプリ(マスクアプリ)で買い占めなどのトラブルを防ぎ、日本でも有名です。

 「市民らが最も心配したのが、感染した人がどこに出かけていたのか、ということだ。政府は市民の行動軌跡をしっかり残す制度を始めた。コンビニエンスストアやスーパーマーケット、カフェ・レストランなどでQRコードが掲示され、スマートフォンで読み取って名前などを登録するシステムだ。各コンビニやレストランがそれぞれ独自に準備した、グーグルなどのサービスを利用した登録ページが出てきて、名前や電話番号、同行者数を登録して送信する方式だった。高齢者などスマホの入力が難しかったりする場合は、店が用意した紙に記入していた。 感染者が出た場合、感染者が滞在した場所と同じ時間に、その場所にいた人たちを把握して注意喚起を行うためのものだ」

「デジタルが感染防止を助ける」

 ――うまく機能したのでしょうか。

 「一部のお店ではQRコードしか置かれておらず、スマホに慣れない高齢者が入店をあきらめたり、他の店ではQRコードを使わずに紙しか置かず、記入のために列ができるという状況も生まれていた。さらに個人情報保護に関して懸念する声も出てきた」

 「そこでオードリーが政府としての解決策を素早く打ち出した。それが『ショートメッセージ実聯制』。3ステップ5秒で登録完了という仕組みだ。(1)QRコードを読み取る、(2)表示されたリンクをクリック、(3)送信ボタンを押す――というもので、QRコードを読み込むと、これから入店するお店の登録番号を含んだショートメッセージが自動的に作成される」

 「この仕組みの最大の利点は、自分の名前や携帯電話番号などの個人情報を入力する必要が一切ないことだ。メールはシステムを管理する通信業者のサーバーに送られるが、ここに個人情報が蓄積されることはなく、入店するお店が個人情報を収集することもない。この情報は、感染防止対策と、感染者が出た場合の行動確認のためのみに使われ、28日後に削除される」

 「台湾は現在、警戒レベルが上から二番目の『第三級』となり、幼稚園から高校までが休校となっている。外出自粛も呼びかけているが、やはり食材の買い出しやコンビニに立ち寄ったりすることは珍しくない。入店の際にいちいち、名前や電話番号を入力するのが煩わしくなり、『めんどうだ』という気持ちが、感染防止対策のほころびにつながることを、オードリーは見抜いていたのだろう。個人情報管理の問題も同時に解決した。この方式は非常に好評で、オードリーが持つ『デジタルが感染拡大防止を助ける』という理念が実践されたといえる」

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