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台湾、デジタル行政は「公開・透明・協力」 オードリー・タンが主導した新型コロナ対策

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オードリー・タンと李登輝の共通点

 ――オードリー・タン氏は3つの幼稚園、6つの小学校、1つの中学校に通ったといいます。そこで中退し独学で研究しました。

 「オードリー自身は極めて自由な家庭に育ったと話している。固定観念にとらわれない柔軟な気質は、そうした環境から生まれたのだろう。失敗すればすぐ反省してやり直せば良い、失敗の共有も貢献のひとつだと割り切っている。スピード重視の現実主義が台湾社会の特徴で、オードリーはその象徴でもある」

 ――その一方でルール違反には厳しいです。台湾では2週間の隔離が決められている海外からの帰国者が8秒間、隔離場所を離れただけで罰金刑になったというエピソードも生まれています。

 「日本ならば反発が起きそうだが、台湾はそうはならなかった。個人情報を把握できるデジタル行政は市民の信頼が無ければ進まない。当局は新型コロナ対策に関する記者会見を連日開き、市民の疑問を解消し偽情報を打ち消す努力を続けている。オードリー自身もデジタル行政の特質を公開・透明・協力と規定している。政府が突然方針転換したとしても公共の利益のためだと理解すれば市民は支持する。それが台湾社会だ」

 ――李登輝・元総統とオードリー・タン氏の共通点にも言及していますね。

 「2人とも偉ぶる様子を見せない気配りの人だ。さらに理系のスペシャリストであることも同じ(李元総統はもともと台湾大教授で農業経済の研究者)。2人とも当時の最年少で入閣した(李登輝は1972年、蒋経国政権に49歳で。オードリー・タン氏は2016年、35歳で蔡英文政権に)。ともに無任所相として省庁の垣根をまたいだ対応が担当だ(李元総統は農村復興・石油化学・職業訓練、オードリー・タン氏はデジタル全般、政府の透明化推進)」

 「経歴ばかりでなく2人は『公の精神』でも共通している。これは台湾社会に根付いている部分でもある。街中の至る所に『廟(びょう)』があり、一見非科学的と思われるような風習が残り、何より功徳を積もうとするあつい信仰心が尊重されている。国際的に進んだデジタル社会、スピーディーな現実主義と、誰かを助けたいと思う昔ながらのおせっかいな精神が共存しているのが台湾社会だ」

「台湾には多くのオードリーがいる」

 ――「台湾社会には大勢のオードリーがいる」と指摘していますね。

 「台湾には『鍵盤救国』(キーボードで国を救う)と自ら進んで考える若いシビックハッカーが数多くいる。昨年のマスクマップもオードリーは『実際に作ったのはプログラマーらだ』と言うのを忘れない。行政のデジタル化を進めるには、今後もシビックハッカーの協力が大切だと認識しているからだ」

 「一般の人々の接種予約は、やはりオードリーやオードリーを支えるシビックハッカーたちが共同で、今までマスク購入の用途にも使われていた政府の健康保険アプリを改良し、このアプリを通じて行われることになった」

 ――台湾は世界の中でも大変親日的といわれています。

 「その通り親日的だ。特に李元総統には『日本人は国際社会でもっと発言しろ。自信を持て』といった日本への熱い思いがほとばしっていた。しかし若い世代はアニメなどの日本文化は好きでも相互の信頼関係についてはクールだ。常に大国・中国との緊張関係を強いられているので、どこまで日本が頼りになるかは冷静に見ている」

 「私は以前から日本を台湾の『ディズニーランド』にしてはいけないと主張してきた。日本が近くて、美味しいものがたくさんあって、買い物もできて……というだけの存在になってほしくないという気持ちからだ」

 「今回のワクチン寄贈で、日本が真の友人であることを台湾は再確認してくれたのではないか。この寄贈の発端には、10年前の東日本大震災で台湾から250億円を超える義援金が寄せられたこともある。日本と台湾のお互いの善意の積み重ねがワクチン寄贈につながったといえる。SNS上は『謝謝日本(ありがとう日本)』のオンパレードだった」

(聞き手は松本治人)

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