アフターコロナの働き方

五月病も早期化?「ヨコからの承認」が新人離職防ぐ 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 せっかく就職したのに、入社早々、辞めてしまう若者が増加しているという。新型コロナウイルス禍で周到な就職活動ができず、「とりあえず内定を」と焦って就職先を決めてしまった学生が少なくない。慣れないテレワーク研修などで、新人が望むような教育が十分に受けられなければ、仕事への不安からますますストレスがたまる。もしかすると今年は新入社員を襲う「五月病」が例年以上に深刻化し、出社が困難になる新入社員が増える恐れもある。新人の早期離職を防ぐ決め手は何なのか?

「パートや嘱託の年長者がいる職場は新人が辞めない」

 「職場にパートや嘱託の年長者がいると新人が辞めない」と、複数の経営者から聞いたことがある。このエピソードは、新人を定着させるうえで何が必要かを物語っている。

 私がこれまで行ってきた研究では上司や先輩からの承認、たとえば褒められたり認められたりすることがモチベーションや自己効力感などを高め、仕事の成果をあげる事実が明らかになっている。しかし離職の防止という面からは、それだけで十分とはいえない。

 上司や先輩から受ける「上」からの承認だけでなく、友だちどうしの関係のような「横」からの承認が必要なのだ。

 とくに新入社員の場合、「横」どうしのつながりが中心だった学生時代から、「縦」の関係が中心になる職場へと環境が一変する。いくら上司や先輩が優しく接し、親身になって話を聞いてやっても、上司や先輩に素の自分をさらけ出し、対等にコミュニケーションをとることはできない。

 ところが「パートや嘱託の年長者」とは「横」の関係で接することができる。上下関係がないうえに、自分の姉や兄、親に近い存在だから気を許せるのだろう。仕事で失敗したり、上司に注意されたりして落ち込んでいるとき、「気にすることはないよ」と陰で慰めてくれる。上司や先輩からは聞けない裏事情をそっと教えてくれることもある。逆に力仕事を手伝ってあげて感謝される場合もある。そうした関係が新人には貴重なのだ。

同期のコミュニティが孤立を防ぐ

 新人にとって、もっと強力な救世主がほかにいる。

 毎年この時期になると服装やしぐさから一目で新入社員とわかる同期生たちが、連れだって職場をあとにする姿を目にする。一緒に食事をしたりお茶を飲んだりしながら、仕事のグチや悩み、心配事を語り合っていると精神的に落ち着いてくる。一時的にでも学生時代の空気感が味わえるのだ。

 数年前「同期のサクラ」というテレビドラマが放映されたのを覚えている人もいるだろう。仕事や私生活のトラブルにつぎつぎ巻き込まれ、くじけそうになる新人どうしが、同期の絆によって励まし合い、助け合いながら一人前に成長していく物語だった。新人にとって、同期の絆はそれほど大切なのである。

会社は「絆」づくりのサポートを

 私はふだん「絆」という言葉を強調しすぎる風潮が好きでないが、困ったとき、不安なときのセーフティーネット(安全網)としての「絆」は大切だ。新しい生活に慣れて精神的にも落ち着き、新たな人間関係が構築されるまでの時限付きの「絆」でもかまわない。

 周知のようにかつては会社でも役所でも、新人どうしが同期の「絆」をつくる場が用意されていた。採用直後の合宿研修では同期生が文字通り寝食を共にし、夜を徹して語り合うこともあった。また独身寮では、同期でなくても自然と横の関係ができた。そうした人間関係が新人の社会化を促進し、離職の抑制にも役立っていたことは疑いがない。

 ところが近年は即戦力重視の風潮や経費節減などの理由から、合宿研修や独身寮を廃止するケースが増えている。コロナ禍のもとでの感染対策がそれに拍車をかけている。

 また新入社員自身がプライバシーにこだわり、煩わしい共同生活を敬遠するあまりに合宿研修も、独身寮も不人気な傾向が続いている。しかし彼ら自身、経験がないだけに、その隠れた役割に気づいていないこともある。

 同期生を中心にした横の関係づくりは、早期離職防止の切り札というくらいに考えておいたほうがよい。したがって会社としては、むしろコロナ下のいまだからこそ、それなりの投資をすべきだろう。

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