起死回生 ~崖っぷちからの反転攻勢

伊勢の老舗食堂、コロナ下 「AI頼み」でにぎわい復活 ゑびやのエビラボ 混雑予報 外販も

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コロナ下で生まれた新サービス

 新型コロナの感染拡大を受け、人々は密集・密接・密閉という「3密」を回避するようになった。その中で密集が避けがたいとしてやり玉にあがったのが飲食店である。「飲食店の混雑状況がひと目でわかるようになれば、お客さんは喜ぶんじゃないだろうかーー」。小田島氏のそんな思いから生まれたサービスが、エビラボが2020年5月に提供開始した「混雑予報AI」だ。

 同サービスは、飲食店や小売店といった店舗の現在の混雑状況や、少し先の混雑状況をAI(人工知能)が分析し、パソコンやスマートフォン、店舗外に設置したスクリーンなどにその結果を表示するもの。来店客は店舗内の様子を事前に把握することで、密集を回避できる。

 緊急事態宣言が明け、営業を再開したゑびや大食堂にこのサービスを導入したところ、成果はすぐに出た。

 「単に密集を避けられるだけでなく、ゑびや大食堂が新型コロナ対策に真剣に取り組んでいる姿勢を示す意味でも効果があったと思います。おかげさまで予想よりも早く客足は戻りました」(小田島氏)

 ゑびや大食堂での成功を契機とし、エビラボは混雑予報AIの外販に踏み切った。現在までにサービスを導入した企業や団体は約10件。その中には三菱地所が運営する商業施設や、地元である三重県の菰野(こもの)町観光協会などが含まれる。

 エビラボが提供したサービスはもうひとつある。それが「3D Web来店」だ。同サービスは、パソコンやスマートフォンの画面に店舗の様子を3D表示し、自宅などに居ながらにして店舗でのショッピング体験を楽しめるもの。これを導入したゑびや商店では、事前に予約した買い物客の一人ひとりに対してスタッフが画面越しに対応し、選んだ商品をオンライン決済することができる。

 単にECサイトを構築するのではなく、ウェブ来店という「体験」を通して買い物客に付加価値を提供する。それにより、購買意欲を高める狙いがある。3D Web来店は現在までに、サッポロビールが運営する「エビスビール記念館」(東京・渋谷)や三重県総合博物館「MieMu」など、こちらも約10件に導入されている。

 「ECサイトを作ってもあまり売れないことに問題意識を持っていました。新しい技術を使って何かできないかと考えたときに、リアルとバーチャルのちょうど中間に位置する3D Web来店のサービスならニーズがあるんじゃないかと思ったんです」(小田島氏)

経験や勘よりもデータを重視

 そんな小田島氏は経営者としての確固たるポリシーを持っている。それは「データ分析を通して顧客の変化を捉え、その変化にすばやく対応していく」というものだ。経験や勘に頼るのではなくデータを重視する姿勢は、大手通信キャリアで事業企画に取り組んできた前職でのキャリアに裏打ちされている。

 妻の実家が営むゑびやに小田島氏が入社したのは2012年。ゑびや大食堂の店長などを経て2017年に代表取締役社長に就任した。同年、「違うビジネスにも挑戦したい」という思いからエビラボを設立。データ分析をゑびや大食堂やゑびや商店に導入し、成果を上げてきた。

 「私たちはゑびやのお客様がどんな方々なのか、すべてウオッチしています。過去に来ていただいたお客様と、今のお客様では年齢層がまったく違っていたりしています。例えば2019年3月~2020年2月に関しては40歳以上の比率が56%でしたが、コロナ禍の今は相対的に若年層が増えています。商品の構成や単価も若年層向けに変えていかなければなりません。こうした戦略を支えるのがデータなんです」(小田島氏)

 ゑびや大食堂やゑびや商店が提供する「肉寿司」や「海宝めし」は、この考えのもとに生まれた新たなヒット商品である。「どちらもインスタ映えを狙っており、若いお客様に好評をいただいています」と小田島氏は胸を張る。

 小田島氏には明確な目標がある。

 「日本の経済が右肩上がりだった時代とは異なり、今は人口減少の局面を迎えています。お客様の志向もどんどん変化していきます。過去の成功体験が通用しないケースがたくさん出てくるでしょう。コロナ禍がいつまで続くかわかりませんが、アフターコロナという観点で言うと、データをもとに意思決定していくことが不可欠になると思います。またゑびやが拠点を置く伊勢をはじめ、収益性の高いビジネスを地方発で作っていくことも必要になると思います。そうした世界に貢献することが私の今の目標です」

文:八鍬 悟志(やくわ さとし
都内の出版社に勤めたのち、フリーランスライターへ。得意ジャンルはビジネス分野と国内外の紀行文。特に人にフォーカスを当てたルポルタージュを得意とし、中小企業に対する取材をライフワークとする。日本百名山の踏破を目指しているほか、国内外を走るサイクリストでもある。

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