フィンテックサミット2021特集

カード利用者・事業者双方へ「新たな価値」提供に挑む 三井住友カード「カステラ」 白石寛樹データ戦略部長に聞く

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 フィンテックやデジタル・トランスフォーメーション(DX)を成功に導くためには、戦略的なデータの利活用が必須となる。わが国のキャッシュレス決済のリーディングカンパニーである三井住友カードは、同社が保有する膨大なキャッシュレスデータを、加盟店や自治体などの課題解決に活用するデータ分析支援サービス「Custella(カステラ)」の提供をスタートしている。サービス開発の背景や今後の展望を、同社マーケティング本部データ戦略部長の白石寛樹氏に聞いた。

キャッシュレスデータの活用通じマーケティングの課題解決を支援

――「Custella」開発の背景にはどういう課題感があったのか。

 テクノロジーの進化がビジネス環境に大きな変化をもたらす中、多くの企業がデータの戦略的利活用を、今後の業績を左右する重要な経営課題として認識している。当社も2019年4月の組織改定で「データ戦略室」を新設(※20年4月に「データ戦略部」に改組)。また、SMBCグループの20年から22年までの中期経営計画においても、今後目指すべき方向の一つとして「情報産業化」が掲げられ、先端テクノロジーを活用したデータの戦略的活用はグループの成長戦略の一つと位置付けられている。

 この背景を踏まえて、加盟店などの事業者に対し、キャッシュレスデータを通じて新しい価値を提供する目的で「Custella」を開発した。これは当社が保有するキャッシュレスデータを個人・加盟店が特定できないよう統計処理化した上で、加盟店などのニーズに応じて調査・分析、課題解決やマーケティング立案に必要な情報を可視化するサービスだ。

 国内最大規模の加盟店と、約4700万人の会員を有する当社が得るキャッシュレスデータは月間で数億件にも上る。クレジットカード会社ならではの信頼性あるデータを基に、購買行動を様々な切り口で分析できる点がCustellaの強みだ。Custellaという名称には、顧客中心のサービスの提供を意味する「Customer Intelligence」の理念や、「Customerを照らす」という思いが込められている。

様々なデータとの掛け合わせで高精度の購買行動分析を実現

――具体的にはどのようなサービスを提供するのか。

 大きく2つのサービスがある。「Custella Insight」は、毎月、各加盟店など事業者の顧客の購買動向や業界全体の動向を性別や年代、居住地といった切り口で可視化するサービスだ。事業者の課題解決のため、もう一歩踏み込んだサービスが「Custella Analytics」で、各事業者のニーズに応じて、調査分析から戦略提案までをフルカスタマイズで行う。

 活用事例として例えば、生命保険会社の営業注力エリア抽出のために、当社が保有するキャッシュレスデータから、生命保険加入者の年齢や性別といった属性や、日ごろの購買行動の特徴を可視化した上で、見込み顧客が多く居住するエリアを分析することなどが挙げられる。膨大なキャッシュレスデータの活用による顧客の購買行動の可視化は、見込み顧客の獲得や、自社商圏の把握、消費傾向の変化を反映した新商品開発などに貢献する。

――キャッシュレスデータの強みはどこにあるのか。

 クレジットカードは多くの場合、作ってから長期間に渡って日々の決済に利用され続ける。保有者の性別や年齢、居住地といった属性が把握できるだけでなく、長期にわたる購買行動の履歴も追える点がほかにはない強みだ。衣食住のみならず、健康やエンターテインメントなど、購買行動の全体像を俯瞰(ふかん)できることのメリットも大きい。また、購買行動の記録は生活習慣の変化、結婚や出産、就職といったライフイベントを推察する材料としても活用できる。

 Custellaで提供できる価値の幅をさらに広げるため、POS(販売時点情報管理)データなどの各事業者が保有するセカンドパーティーデータや、天候や口コミ、位置情報といったサードパーティーデータなどとキャッシュレスデータを掛け合わせての調査・分析も行っている。そもそも、キャッシュレスデータを活用した課題解決支援というコンセプトはキャッシュレスデータとWi-Fiの利用データを掛け合わせて、各地のインバウンド旅行客の消費傾向を分析、可視化した経験から生まれている。キャッシュレスデータと様々なデータを掛け合わせると、天候や居住地・勤務地などの要素、購買の意思決定との関連性が可視化され、それはつまり自社と顧客とのつながりの深さ、ロイヤルティーの高低を高精度で分析できる。Custellaを通じた購買行動の丁寧な分析は、顧客のロイヤルティー向上に資する“次なる打ち手”の考案に大いに貢献する。

――Custellaのサービス提供開始から1年半ほどが過ぎた。今後の展望や目標は。

 データサイエンティストやアナリストなど、データ戦略実践のための高度な人材の育成は重要課題の一つだ。一方で、インターネット・マーケティング・リサーチのリーディングカンパニーであるマクロミルとの業務提携を行うなど、この領域において豊富な知見と実績を有する企業との協業も進めている。キャッシュレスデータについての正しい知識をもつ自社の人材と、先端テクノロジーを使いこなす外部の優秀な人材が机を並べて事業をする環境が、日々急速に進化するテクノロジーを使いこなし、新しい価値を提供するためには不可欠だ。ビジネス課題解決の観点から様々なデータの価値を正しく理解し、データサイエンティストに分析デザインの的確なディレクションを行えるプランナーの育成にも力を注ぐ。

 また、キャッシュレスデータの活用による企業の課題解決支援の経験を積む中で、業種・業界ごとの傾向も少しずつ見えてきている。今後は業種ごとに共通する課題を見極め、サービスを拡張していく段階へと移行する。サービスの利便性や手軽さを高めることを通じ、中小事業者の利用拡大にも努めたい。最終的な目標は当社の加盟店であれば、等しくキャッシュレスデータを活用できるような環境の構築だ。

 足もとでは、コロナ禍により、電子商取引(EC)で購入した商品を実店舗で受け取るサービスであるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store、ボピス)の普及などが追い風となり、キャッシュレス化がより一層進展している。時代のニーズを的確に捉えたより良い顧客体験の提供と、Custellaを活用したデータのフィードバックの一体化は、事業者だけでなく、消費者にもポジティブなインパクトをもたらす。キャッシュレスデータの活用を通じ、事業者とカード利用者双方に、今までなかったような新たな価値を提供すべく、今後も挑戦を続けていきたい。

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