アフターコロナの働き方

「公私融合」こそ新しい時代の働き方 同志社大学政策学部教授 太田 肇

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 電子メールやスマートフォンで勤務時間外も仕事から逃れられないという声は従来あった。さらにテレワークの普及に伴い、在宅勤務中に家の中まで監視されている気がするとか、ずるずると仕事が長引き生活が圧迫されるとうったえる人も増え始めた。ITの普及により、プライベートな領域が仕事に侵食されるという危機感が強まっているようだ。

「つながらない権利」求める声 欧州で高まる

 フランスでは2016年に労働法が改正され、勤務時間外に仕事のメールや電話を拒否する権利が定められた。それをきっかけに、ヨーロッパでは「つながらない権利」を求める世論が高まっている。

 それに比べて日本では、まだ公私の分離が徹底されていないという指摘がある。

公私分離が困難な時代に

 いっぽうビジネスの視点からは、逆に公私の厳格な分離が不都合をきたすケースが増えている。

 私は平日に加え週末もたいてい仕事をしている。とくに原稿を書いたり、資料をつくったりするのは週末が多い。すると仕事の最中に、原稿の締め切りを少し延ばしてもらえないか、資料に写真を入れてもよいかどうかといった問い合わせをしたいときがある。「イエス」か「ノー」の返事をもらうだけでよいのだが、勤務時間外は連絡がつかない。しかも最近は土日だけでなく3連休やそれ以上休みが続くケースも増えてきたので、その間、仕事がストップしてしまう。また週明けの待ち合わせに少し遅れると断りを入れようにも連絡できない。

 これは私だけの特殊事情ではない。最近は副業、パラレルキャリア(起業や社会貢献活動など本業と別のキャリアを持つこと)で夜間や週末にも仕事や活動をする人が珍しくなくなっている。

 また会社では営業や顧客対応など、時間や曜日を選べない仕事が増えてきた。情報化やソフト化、サービス化にともなって、場所だけでなく時間の壁も崩れてきているからである。さらにグローバル化によって、時差のある国や地域とコミュニケーションをとる必要性もいちだんと高まっている。

 だからこそ「つながらない権利」が認められなければ私生活が際限なく侵されてしまう、と労働者が危機感を抱くのはうなずける。

雇用から業務委託へ切り替える動きも

 しかし見逃せない動きがある。経営者の中には、上記のようなビジネス上のニーズに社員が対応するのはもはや限界だと感じている人が少なくない。そして情報・ソフト系、サービス系の企業の中には、雇用から業務委託に切り替える動きが見られる。雇用と違って業務委託なら会社にとって時間管理の制約が小さいからだ。

 このまま固定的な勤務時間制度が変えられなければ、おそらくこの動きは今後いっそう加速するだろう。だとしたら労働者にとっても「公私の分離」に固執していては、雇用の機会や活躍する機会が脅かされていくかもしれない。

 ここで考えるべきなのは、そもそも「公私の分離」という原則がいまの時代、いまの環境に合っているかどうかである。

 仕事と私生活とが場所的にも、時間的にも切り離されるようになったのは産業革命後に工場労働が広がってからであり、それ以前に多数を占めていた第1次産業や職人、自営業の世界では、仕事と私生活は明確に分離されていなかった。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。