SDGs時代のパーパスブランディング

独自性失う?パーパスブランドのジレンマ ブランドストラテジスト 大橋久美子

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主役はブランドでなく生活者

 この連載は今回で最終回となる。これまで私の記事を読んでくださった方からすると、このコルスター氏のコメントは、そこまで意外な話ではないだろう。ブランドというものは、社会価値とともに顧客価値や独自性が大事であり(第1回)、そのためにはNOW & “ME”とFUTURE & “US”がつながるコンセプトを見い出し、良い未来に向けて消費者(生活者)を促していく力が求められ(第2回)、その良い例として女性たちを固定観念から解放してきたブランドたちがあり(第4回)、そしてブランドはインターナルとエクスターナルをつなぐ結び目として自らアクションすることも求められる時代になってきている(第5回)。

 再度、未来への思いとともに、消費者(生活者)に向き合い、彼らの今と未来の間に橋をかけることの大切さを見つめなおしたい。Z世代など若い世代が未来への危機意識が高いというのは事実だが、自分からかけ離れた遠い未来のことを日々のブランド選択の中で最重要事項にする人たちは少ないだろう。未来が気になるが日常も楽しみたい。今、人々の最大の葛藤となっているのが、このNOW & “ME”とFUTURE & “US”の矛盾だ。普通の今を生きている人々が抱えるそんな葛藤を解決してくれる、良き未来に向けたポジティブな力を与えてくれるようなブランドに人々は共感し支持をする。つまり理想の未来像を語る優等生のヒーローよりも、人々を力づけ変革を生み出す縁の下の力持ちであることの方が、時代に求められている。

 イケアは第1回にも触れた通り100%再生可能に向けた製品イノベーションに取り組んでいるが、ブランドのコンセプト自体は「ワンダブル・エブリデー」。「イケアは再生可能100%を目指します!」と言ったヒーローアプローチではなく、魔法のように楽しいあなたの生活がずっと続く、というユーザーにとって意味のある価値の提案を行っている(永続性の約束は再生可能だからなされること)。生理用品ブランドAlwaysは「女性蔑視を解放する!」と宣言するのではなく“Like A Girl”という言葉の持つ侮蔑性と自由さの両面に着目することで、女性たちを「女の子らしくしなきゃ」という呪縛から解いた。メルカリは、循環型社会の実現を目指すという企業理念はあるが、ユーザーに対しては「フリマアプリ」という言葉から想起されるように「宝探しをするような楽しさ」と「売り手と買い手のやりとりの楽しさ」を提案。つまり、人々は、楽しみながら循環型社会の仕組みの中に入っていくことができるのだ。

企業ブランディングも生活者視点で

 SDGsの流れの中で、企業ブランディングが増えてきている。企業ブランディングにおいては、ほぼ消費者にターゲットが限定される製品ブランディングよりもステークホルダーが広くなる。消費者に加え、イノベーションを生み出すための大事な資産である従業員やパートナー、そして企業価値を決める大きな源泉となる株主が入ってくる。が、「未来への思いとともに、消費者(生活者)に向き合い、彼らの今と未来の間に橋をかけること」を目指すのは、従業員や株主やパートナーに対してのコミュニケーションにおいても同様だ。自分ごと化できないものに対しては、従業員はモチベーションをかき立てられないし株主やパートナーは関心を持たずスルーしてしまう。従業員も株主もパートナーも、みんな一人ひとりは生活者なのだから。

 人々の葛藤を解決するのがブランドであるという基本的なルールは今もこれからも変わらない。だが、これからの時代には、その葛藤として「今の自分の生活」だけでなく「未来のみんなの生活・世界」の要素が色濃くなってくる。その解決のために、ブランドは多面的な形で取り組み、人々から信頼を得ていく。

 SDGs時代のパーパスブランディングとは、なりたい未来に向けてどう進んでいけるか、ブランドは、今ここにいる消費者(生活者)にその力と確信を持たせる存在となることが求められているのだ。

大橋 久美子(おおはし・くみこ)
Office Story Branding(ストーリーブランディング)代表。博報堂、J. Walter Thompson(JWT)、LIFULLを経て、ブランド戦略立案を行うブランドストラテジストとして独立。 JWT時代にはブランディングモデル“Brand Nurturing”を開発、多くの日本企業のブランド戦略構築に導入した。 現在は消費者インサイトと未来創造をつなき企業価値を上げるための新たなモデル開発や戦略立案活動を行っている。女性エンパワーへの活動により、2019年campaign Asia誌 Women leading change Vision leader部門のシルバーを獲得。

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