SDGs時代のパーパスブランディング

ナイキ・バーガーキング…行動が生んだ信頼 ブランドストラテジスト 大橋久美子

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ナイキ「何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても」

 ブランドアクティビズムの一例として有名なのは、ナイキが”Just Do It”30周年キャンペーンにおいて、元NFLのスター選手コリン・キャパニックを起用した事例だ。キャパニックは、黒人差別に反対し試合前の国歌斉唱への起立を拒否しひざまずいたことでNFLを追放され、人種差別と愛国心によりアメリカを二分する大論争を呼んでいた。その彼を、「何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても」というメッセージをのせて起用するということは、キャパニックだけでなくナイキ自身がそのメッセージを体現し政治的なスタンスを表明し立ち上がったことを意味していた。予想通り保守派からは激しい批判やナイキの不買運動、さらにはナイキ商品を燃やすリアル炎上も起こり株価は大きく下落(トランプ氏も煽(あお)るようなツイートを行った)。が、次第に、リスクを取りながら勇気ある行動を行ったナイキとキャパニックに対する支持者たちが増えて行き、売上成長と最高値の株価を記録した。炎上にも動揺せず貫き通したナイキの覚悟に対して、共感が集まったのだ。

 未来をよくすると言うのは、環境や不平等のような大きな問題だけでなく身近な問題にも存在している。

 ユニリーバの衣料用洗剤Persilは、”Dirt is Good-子供たちが思いっきり泥んこになって遊ぶことを応援する”というパーパスを持っている。洗濯の面倒を気にしてしまう親も、Persilの洗浄力によって、子供が望むままに思い通りに遊ばせてあげることができる。

 ところが今や、子供たちは家の中でゲームばかりで外で遊ばなくなってしまった!屋外での遊びが少なすぎると、注意力の低下、不安、社会的スキルの低下、攻撃性の低下からうつ病、自傷行為、さらには自殺に至るまでのすべてに関連する。この問題にPersilは、ブランドアクティビストとして立ち上がった。教育学者による「いかに外で遊ぶことが子供の脳の成長にとって大事なのか」という啓蒙や、親が子供と外で遊ぶための方法が詰まったアプリや、学校と共同でエンプティースクールプログラム(学校を空っぽにするプログラム)を行うなど、子供が外に出て遊ぶことを支援するためのアクションを行っているのだ。これはずっと”Dirt is good-汚れはグッド”を追求してきたPersilらしいブランドアクティビズムのあり方と言えるだろう。

 前回連載の「Dove・AXE…欧米ブランド、ジェンダー平等へ10年の歩み」で触れたドイツで発売された「Tampon Book(タンポンブック)」(ぜいたく品の位置付けで消費税率19%となっていたタンポンを書籍として7%の税率で売り出したもの)も、消費者を巻き込むブランドアクティビズムの例だ。本として販売されたタンポンブックを買うことは、タンポンの税金に対する異議申し立てに参加することになる。女性たちは、そこに共鳴してタンポンブックを購買したのだ。

消費者もライバルも、より良い未来を作るための仲間

 Future&“Us”に向けて社会変化を生み出すためには、一企業・一ブランドの力だけでは不足である。ブランドは自らのパーパスを発信し、共感してくれる仲間を集めて巻き込んでいく。社会課題のことを企業よりもよく理解しているNPOや、製造工程や廃棄・リサイクルに至るまでの生産者・供給業者・補完業者らとのコラボレーションを考えていくことが大切だ。ここまで真剣にやることで、ウォッシングではなく、真のアクション・アクティビズムということができるのだ。

 今、人々がブランドに社会的インパクトを与える存在として期待しているのは、ブランドが周囲を巻き込む波及効果があるということを潜在的に知っているからだ。今や大企業には、その責任の範囲が自社だけでなく、パートナーまで含めた責任が求められるようになった。CO2排出に関するスコープ3というものがあり(スコープ1:自社排出、スコープ2:エネルギー起源による排出、スコープ3:サプライチェーンまで含めた間接排出)、スコープ3までの取り組みを行う企業も増えてきた。例えば、Appleは自社だけでなくパートナー企業を含めたサプライチェーン全体含めたRE100 (企業の再生エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアチブ)という取り組みを目指している。アップルがパートナーまで巻き込みながら環境問題に取り組みことによる社会的インパクトは非常に大きいと言えるだろう。

 ブランドが社会課題に真剣に取り組んでいるあらわれとして、今まで対立していた競合とさえ協力し合うブランドも増えている。ともに手を取りながら研究開発していくことで、問題解決までの時間を短縮することが期待されている。

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