価値は希少なものへと移っていく
「経済活動が所有から利用へ移った」とお話ししてきましたが、実は、その裏で働いているのは価値の希少性への移動なのです。
かつては希少性があった所有が普通になってしまったからこそ、より良く利用できることが希少な価値になった。その移動を多くの人が認め、選択したからこそ、経済活動の変化として発露したのです。
価値とは、常に相対的なものです。より希少なものへ価値が流れる中で、現在はその最たるものが体験といえます。
つまり、提供される人が「希少だ」と思える体験は何か。これこそが、DXを考える上でも外せないポイントになってきます。
「希少だ」と思える体験を考える上で、究極的にいえば、私はこの2択しか残らないと考えています。それは「好き」か「安い」か、です。
提供者から見て、「すごく大好きで欲しいもの」と「安く手に入って嬉(うれ)しいと思えるもの」に、希少性としての価値がより認められていく流れになるのではないかと思っています。だからこそ、人は自分の思いを強めてくれるような、背景に流れるストーリーを求めています。
未だに人々がヒーローをどこかで求めるのは、同時代性があり、希少性を感じるストーリーの中で生きていきたいという願いの表れだと感じます。その感覚だけは、時代の揺り戻しがあっても基本的に繰り返しています。
その時代ごとの流れをしっかりと読んで、自分たちをいかに変え、優れた顧客体験を提供していくのか。そして、その体験提供を通じて生み出されたデータを活用し、提供価値を加速させたり、強化したりしていくのも大切なことです。このステップにこそ、DXの本質があると考えます。
大切なのは自分たちの事業の再定義
まずは「自分たちは何屋なのか」を再定義すること。どのような人が顧客となり、自分たちは何を提供する会社なのかを深く考える。そこでは、自分たちの事業を再定義するのも一案です。次に、どうすれば、再定義した事業で圧倒的な顧客体験を提供できるかを想像する。デジタル化はそこに資するものでなければなりません。そして、生み出されたデータを活用して、より良い体験の再生産を図る。
これらを冷静に言語化する以外に、DXの近道はあり得ません。「自分たちは良い」と思っていても、お客様から好まれていないようなことがあれば、残酷ですがその事実をみつめなくてはなりません。みつめた結果、デジタルを活用しないということも選択のひとつに置いておくことも重要です。
DXとは、あくまでデジタルによるトランスフォーメーションです。現段階では異なる変化のさせ方が必要なのかもしれません。DXが全ての人にとっての魔法の杖(つえ)にはなるわけではないのですから。
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。企業の顧客体験DXを支援する「UX」「動画」「DX」の3つのソリューションを提供。