起死回生 ~崖っぷちからの反転攻勢

コロナ禍の逆境バネに新事業 宮崎発企業のワン・ステップ 遊具から医療分野に進出

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 会社の経営は山あり谷あり、波乱の連続である。谷底が見えるほどの崖っぷちに立ったとき、経営者はどう考え、どう行動したのか。今回は、成長の原動力となっていたイベント遊具事業が、新型コロナウイルスの影響で需要急減に見舞われるなか、コロナ感染者の隔離などに使う設備の開発に会社の生き残りをかけたワン・ステップ(宮崎市)社長の山元洋幸氏に話を聞いた。

◇  ◇  ◇

コロナ禍で売り上げ9割減の危機

 「ちょっとまずいかもしれないな」。山元氏がはじめに危機感を覚えたのは、2020年2月に入ったころだ。ワン・ステップは主にエアー注入式のイベント遊具の開発・レンタルを手掛ける。空気で膨らむトランポリンやウォータースライダーなどが主力商品で、イベント向けにレンタルすることで収益を上げている。新型コロナの感染が拡大し、同社のもとにイベントのキャンセルが届き始めたのはそんな折だった。本来なら稼ぎ時であるはずのゴールデンウイークのイベント自粛は、山元氏らにとって大きな痛手となった。

 それでも当時は、「書き入れ時のピークである夏場になれば挽回できるはずだと思っていました」(山元氏)と振り返るように、まだ事態をそれほど深刻に受け止めていなかった。しかし感染拡大に歯止めはかからず、そんなムードは一変。2020年夏の東京五輪・パラリンピックの開催延期が3月に決まり、翌月には全国を対象とした緊急事態宣言が発令されることとなった。「2020年のゴールデンウイークの売り上げは前年比9割減。加えて夏場に予定されていたイベントが軒並みキャンセルとなり、いよいよヤバくなってきたと実感しました」と、のっぴきならない状況に追い込まれていたことを痛感する。この危機感がその後の新ビジネスの展開につながるきっかけになろうとは、山元氏自身まだ予想もしていなかった。

創業の原点は4坪の雑貨店

 出身地の大阪を離れ、大学に入学した山元氏は宮崎大学大学院に在学中の2000年に、起業家としての原点となる出来事を体験したという。

 「宮崎市中心街で進んでいた空き店舗対策事業があって、それに応募する形でわずか4坪のスペースに雑貨店を出したんです。学生だった私にはお金はありませんでしたが、冷蔵庫などに張り付けるマグネットを提供してくださった方がいて、それが意外と売れたんです。素直にうれしかったですね。私のビジネスの原体験です」。その後、中古車の販売や車椅子の修理・販売などを経て、2002年6月に現在の会社の前身である有限会社ワン・ステップを設立。イベント遊具のレンタル事業に参入する。

 なぜイベント遊具だったのか。山元氏は当時をこう振り返る。

 「イベント遊具を扱う会社は全国にも20社、30社ほどしかありませんでした。宮崎県を含む九州を見ると、別の事業を展開する会社がいわば片手間に遊具を扱っているだけで、ライバルがとても少なかった。経営経験の浅い私のような人間でも勝機があるのは、こういうニッチ(隙間)市場だと感じました」

 予感は当たった。年間50以上の新商品を開発するなどラインアップを拡充して前年比20%を超す成長を続け、2019年には年商6億1200万円にまで到達。西日本でトップ級のシェアを誇るまでになった。

迫り来る危機をチャンスに変えて

 ところが、まさかのコロナ禍。被害が拡大する局面で最悪のシナリオを試算したところ、恐るべき事実を知る。すなわち、イベントのキャンセルがこのまま続く場合、2021年5月か6月の段階で会社の運転資金が底をつく可能性があることが判明。危機感を募らせた山元氏は発想を転換させ、主力商品であるエアー注入式遊具の製造ノウハウを生かして簡易陰圧室の開発に着手する。簡易陰圧室とは、新型コロナ感染者を隔離したり検査したりする際に使用する部屋で、空気を注入することでほんの数分のうちに完成するのが特長だ。

 「コロナ対策として簡易陰圧室にニーズがあることを知り、うちの技術なら作れるかもしれないと思いつきました。すると、この場面でも協力してくださる方が現れました。簡易陰圧室は真空ポンプを製造する地元のアルバック機工や宮崎大学付属動物病院と共同で開発したものです。他にも、エアー注入式の検温ゲートや屋外用の消毒テントなどを開発しました。いずれもホームページに情報を載せたところ、医療機関などから問い合わせをいただき、『これは行けるぞ』という手ごたえをつかみました」

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