楽しい職場学

まね・型・メモ オフィスの笑いは語学のように学べる 西武文理大学サービス経営学部専任講師 瀬沼文彰

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笑いのスキルはメモで強化される

 最後は、メモの活用である。私の芸人時代はアナログな時代だったため、ネタ帳の文化があった。いまでもその文化はあると聞くが、スマホのメモでもいいと思う。お笑い専用だと少しハードルが高い気がするため、仕事と併用して、笑いについても日常からメモを増やしてみてはどうだろう。

 手始めに、自分が笑ったことをおすすめしたい。自分が笑ったことであれば自らクリエイティブするわけではなく、事実だけを書き込めばいいためメモが絶えず増えていく。自分がどんなことで笑っているのかを知る機会にもなり、それをメモすることで覚えることもできる。今度は、覚えたことを誰かに伝えることで笑いを生むことも可能だ。2回目の本連載で論じたが、世界のユーモア研究者によれば、話の暗記も立派なユーモアスキルの1つである。

 自分が笑ったことのメモが取れるようになったら、次に、職場で周りが笑ったこと、家族や友人から聞いた面白い話、テレビで好きな芸能人が語っていた面白い話、見に行った落語の小噺のように自分が面白いと感じたことに加えて、周りが面白いと思うこと、笑いが発生したことをメモしてみてはどうだろう。面白さは基本的には主観的なものである。しかし、お笑い芸人たちは、できる限り客観的に、お客さんである他者が面白いと思うことにもアンテナを張る。相手の立場に立つことで、自分が面白いと思ったことをどのように、相手に伝えればいいのかについて理解が深まる。

 さらに、メモには、感情が揺すぶられたら何でもメモしておくことも重要だ。それは主観的な怒り、悲しみ、苦しみ、感動などでもなんでも構わない。

 一ヵ月くらいそれを続けてみると、話の引き出しがたまってくる。私たちは、笑ったことについては、基本的には、日々の生活のなかで、ダムの放水時のように、次から次へと流してしまっている。メモ化して、一旦せき止めることで、記憶に残すことができるというわけだ。

 また、メモしたことについては、ときどき振り返る必要がある。感情が動いたことをメモしておけば、メモした際には怒りだったエピソードも、時間の経過に伴い、その出来事と距離を置くことができ、笑えるエピソードに変わるかもしれない。この面は、自分のストレス軽減にもつながるのではないだろうか。

 コロナ禍で、コミュニケーションがオンライン化されることで雑談は減少気味なのかもしれない。しかし、雑談を通して私たちは相手のことを知ることができる。また、私たちは、そうした部分に感情移入したり、愛着を持ったりするものだ。

 雑談用のメモ帳を作成してみると、多くの人は、「今日は何を書けるか」を気にするようになる。実はとてもすてきなエピソードだったとしても探していないと生活のなかで次から次へと流れていってしまい忘れてしまう。

 アナログなメモ帳ではなく、スマホを活用して、EvernoteやGoogle Keepなどの定番メモアプリもおすすめだ。現在は、音声入力もかなり便利になっているため、手入力しないでも音声で大ざっぱに入力しておくだけでもせき止めの効果がある。さらに、デジタルのメモの場合は、必ず記憶していなくても、必要な際に検索ができるため、いざというときに役立つ。

 笑いを作るための努力はなかなか地味かもしれない。しかし、センスで決まっていることはないので、このコロナの時期にリモートワークなどできた隙間時間に少しずつ学んでみてはどうだろう。日常の笑いはテレビでお笑い芸人たちが披露するほどハードルが高くない。

 さらに、話したエピソードや自分なりの話のオチの付け方などは自分自身が少なからず表現できる部分でもある。多くの人と接し、次々とコミュニケーションをしていかなければならない時代に、自分らしさも同時に伝えることは多くの人にとって課題だと思う。そんな面でも笑いはビジネスに活用できるはずだ。

瀬沼文彰(せぬま・ふみあき) 西武文理大学サービス経営学部 専任講師
日本笑い学会理事、追手門学院大学 笑学研究所客員研究員。1999年から2002年まで、吉本興業にて漫才師としてタレント活動。専門分野は、コミュニケーション学、社会学。研究テーマは、笑い・ユーモア、キャラクター、若者のコミュニケーション。単著に、『キャラ論』(2007、スタジオセロ)、『笑いの教科書』(2008、春日出版)、『ユーモア力の時代』(2018、日本地域社会研究所)など。

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