地方に新たな力 官民連携で実現
日本政府は「SDGsアクションプラン2020」で3本の柱を掲げる。ビジネスとイノベーション、次世代と女性の活躍推進、そして地方創生だ。国土の均衡ある発展を目指し、1980年代のふるさと創生事業から、首都機能移転構想、現在のふるさと納税まで、様々な地方活性化策を打ち出してきたが、人口減少が加速するなかで首都圏への一極集中に歯止めをかけるには至っていない。そんななかで世界の新潮流として登場したSDGsは、官民が連携して持続可能なまちづくりに取り組むという新しいカタチを世の中に示した。保険会社はその主軸を担える機能を備えている。
たとえば自治体と損害保険会社が連携することで、どんな効果が生まれるか。台風や集中豪雨などの自然災害リスクの予測技術を使えば、防災や減災への取り組みを強化できる。自動車事故などの分析データを生かすことで、安全で暮らしやすいインフラ整備に取り組める。そして企業向け保険で培ったノウハウを基に、地元企業の働き方改革や事業承継、サイバーセキュリティーなどの地域産業振興も可能だ。自治体にとっても、保険会社と連携してSDGsに力を入れることは、地方行政への住民の信頼を高め、地元企業で働く従業員の意識改革や意欲向上につながる。
保険会社の役割はいま、リスクに備え、被害を補償する本来の業務にとどまらず、未然にリスクを防止する領域にも広がりつつある。保険会社が持つリスクを抑える最先端の技術やデータは、持続可能なまちづくりを目指す地方創生にとって必要不可欠なものだ。長引く新型コロナウイルスによる悪影響で、地域の社会や経済も激しく疲弊した。そんな先の見えない不安な時代に、保険会社のSDGsに対する地域の期待はより一層大きくなるはずだ。
もちろん保険会社は、地域を支援する立場にとどまらない。地域が発展し、地元企業が元気になれば、保険会社のビジネス領域も広がる。新事業の開発や従業員の働きがいにつなげることもできる。
グローバルビジネスの時代に入り、日本企業は長期停滞に陥った国内よりも、成長を続ける海外市場へと目を向けるようになった。だが持続可能な世界の構築を目指すSDGsは、国内にも新たな活力を生み出せる可能性が潜んでいることに気づかせてくれた。地方創生に向けた官民連携は、補償だけでなく防止にも取り組み始めた保険会社にとって、新しいビジネスのカタチを映し出しているのかもしれない。
(編集委員 小栗太)
地域が元気になることで、我々も発展していく。そんな思いで地方創生に取り組んできました。現在、包括連携協定を結んだ自治体は、44都道府県、300を超える市町村に広がっています。日本の持続的成長には、地域の発展が不可欠です。我々も地方創生に携わることで、地域とともに成長していきたいと考えています。
SDGsの認知度は、地方でも明らかに高まりつつあります。「住み続けられるまちづくりを」という目標が、地域社会に非常に合っているからではないでしょうか。我々も被害を最小限に抑え、新たな環境に適応して再び発展できる「レジリエントなまちづくり」を事業の課題に掲げていますが、自治体との連携は自分たちの仕事が地域社会にどう役立っているのかを実感しやすく、社員の働きがいにつながっていると思います。
地域によって課題は様々で、連携の中身も自治体ごとに変わります。長野県との協定では、主に地元企業の海外展開や事業承継などの地域産業振興を支援しています。神戸市では、認知症の人が起こした事故の補償や、警備会社と組んだ見守りサービスなどを展開。このほか各地の防災・減災対策の一助となるよう、台風などによる被災建物予測棟数をウェブサイトやアプリで一般公開しています。
少子高齢化の進行や自然災害の多発など、保険を巡る環境は大きく変わり、しかも多様化しています。事業の柱は自動車保険や火災保険ですが、業界や地域ごとに課題が異なります。これからの保険会社は補償だけでなく、未然の防止から事後の対応まで、つなぎ目のないビジネスを展開しなければなりません。そのために最も大切なものは社員の力です。その点でも、地方創生への取り組みで得た知識や経験が人づくりにきっと役立つはずだと信じています。