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議決権不適切集計が問う「会社は誰のものか」 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎

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 今年は、2月末以降、コロナ禍が深刻化する中、世の中の関心が感染状況や感染対策、経済対策に集中した。企業も、在宅、テレワークなど対応に追われ、企業不祥事や「不祥事対策」としてのコンプライアンスが話題になることは少なかった。

 そうした中で、多くの日本企業に関わる問題として注目されたのが、9月24日に明らかになった「議決権行使集計」をめぐる問題であった。

 三井住友信託銀行、みずほ信託銀行で、期限までに受け取った一部の行使書を集計対象から外していたことを公表し、それに伴い、集中株主総会の議決権行使の集計で、不透明な慣習が長い間続いていたことが明らかになったのである。

株主の声、適切に反映されず

 この問題は、「会社は誰のものか」という、会社に関する根本的な問いに関連する問題ととらえることもできる。

 問題の概要は以下のとおりだ。

 締め切り日時が明記された総会招集通知を受け取った株主は、議案に対する賛否を、郵送かインターネットで回答する。信託銀行側は、郵便局と協議して、通常の郵送業務で届く日程より1日早く行使書を配達してもらい、前倒しで集計する仕組みをとっていた。期限後の日が到達日となった行使書は、実際には期限内に受け取っていても、集計の対象にしていなかったのである。

 三井住友信託銀行が東芝の株主総会で受託していた業務で、そのような不適切な集計が発覚したのを契機に、約1000社で同様の不適切集計が行われていたことが明らかになり、その後、みずほ信託銀行も、371社で同様の処理をしていたと発表した。両行が受託した合計約1400社の株主総会の決議で、株主の声が適切に反映されてないことが明らかになった。

 この問題は、企業のコーポレートガバナンスにどのような影響を与えるのか。

 少なくとも、不適切な集計を会社側が依頼したり、黙認したりしていたのではなく、不適切な集計によって株主権の行使を妨げようとしたのでもない。信託銀行側も、行使書を、事前に郵便局側から受領していても、正式な到達の日付が期限後であれば集計に加えなくてよいとの判断で長年対応していたことが、民法上の意思表示の到達に関する規定に照らすと誤りであったことが、今回判明したというのであり、一部の行使書を意図的に除外していたわけではない。

 しかし、総会の議案に対する株主の議決権行使は、株主としての会社経営に関する重要な権利行使の手段であり、意図的なものではなくても、総会の議案に対する賛否が正しく集計されていなかったことは、株主の意見を企業経営に反映させるという点で重大な問題だ。

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