「1ー1ー1」 革新力に直結
1999年に米サンフランシスコで創業したセールスフォース・ドットコム。顧客情報管理(CRM)ソフトなどをインターネット経由で貸し出す「クラウドコンピューティング」を世界に普及させた同社だが、もう一つの重要なイノベーションを生み出したことでも知られる。
マーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)が提唱する「1―1―1」モデルだ。セールスフォースは設立以来、株式の1%、製品の1%、従業員の就業時間の1%を毎年、社会貢献活動に費やしてきた。「企業成長と社会貢献を両立する手法」として注目を集め、多くの企業が同様の取り組みを始めるきっかけを作った。
スタートアップを中心とするシリコンバレーの企業には「社会問題の解決が、自社の成長につながる」という経営哲学が根付いている。例えば、創業から17年で電気自動車(EV)最大手になったテスラの企業ミッションは「持続可能なエネルギーへの世界の変革を加速する」こと。自社のEVが増えれば増えるほど、二酸化炭素(CO2)排出が減り、地球温暖化の防止に貢献できる。
こうした経営姿勢は、企業に環境対策や社会貢献を求める「ESG投資」の流れとも合致する。テスラやセールスフォースの株価はここ数年、高騰が続いている。
シリコンバレー企業は、SDGsが掲げる人材の多様性にも長らく取り組んできた。世界各地から異なる言語・宗教・習慣を持つ優秀な人材を呼び込むことで、イノベーションを加速してきた歴史があるからだ。
足元ではエンジニア職の給与の高騰が続いており、人種や性別にとらわれずに優秀な人材を獲得・維持できる人事制度に磨きをかけなければ、あっという間に他社に人材を引き抜かれる。SDGsへの対応が、企業の競争力を左右する好例といえる。
その一方で、グーグルといった巨大IT(情報技術)企業への極端な富とデータの集中という批判にもさらされるようになった。各社とも環境対策や人材の多様性などの観点では最先端の活動を続けているが、域内の格差問題は広がる一方だ。「会社も社会も強くする」ために、一段のイノベーションが求められている。
(編集委員 田中暁人)
セールスフォース・ドットコムでは、「企業としてよりよい社会に貢献するにはどうすべきか」という課題解決にトップが創業以来、一貫して取り組んでおり、日本法人でも力を入れています。
重要なのは、経営陣がこうした活動を率先することです。年に数回、役員会議をライブ中継し、経営陣が環境対策や人材の多様性といったテーマについて時間を割いて議論を交わしている様子を社員だれもが見られるようにしています。
SDGsを標語として掲げるだけではなく、実際にどれだけの社会貢献ができたかを可視化する仕組みも導入しました。全社員に自らが取り組んだ活動を社内データベースに登録してもらい、定期的に評価を繰り返しています。
新型コロナウイルス禍で通常の社会貢献活動をすることが難しくなっていますが、例えばオンライン授業の支援などの活動を増やしています。在宅勤務時に特に力を発揮する、セールスフォースのクラウドサービスを非営利団体や教育機関に無償で提供する活動にも力を入れています。
こうした様々な仕組みがあってはじめて「社会貢献を重視する」という企業文化が社内に行き渡っているのです。
2016年にはトップ直属のチーフ・イクオリティー(平等)・オフィサーを任命しました。人材の多様性の維持には、全社の権限を持つ1人の責任者が管理する必要がある、と考えたからです。
イノベーションを生み出すには、多様な人材が欠かせません。「平等」という環境がないと、優秀な人材は集まりません。SDGsに真摯に取り組むことが、セールスフォースの競争力に直結するのだと考えています。