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アドビ・AOKI・牛角…「サブスク」成否分けた条件 楠木建・一橋ビジネススクール教授に聞く(2)

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流行のサブスク事業に潜む同時代性のワナ

 ――日本でもサブスクを導入する企業が相次いでいます。ウィズコロナ時代のニューノーマル(新常態)で、スマホから手軽に注文できるサブスクの普及は進みそうです。

 「一方で淘汰も始まっています。紳士服大手のAOKIホールディングスは若者をターゲットにいち早くスーツのサブスク事業を手掛けましたが半年で撤退しています。焼き肉チェーン『牛角』を運営するレインズインターナショナルも、1万1000円で1カ月食べ放題などができるサービスを一部で19年秋に始め、20年1月にやめました」

 「日本酒のサブスクサービス『SAKELIFE』を展開していたClear(東京・渋谷)も同サービスを事業譲渡しました。顧客が日本酒に詳しくなってしまい、継続的に購入する価値が減衰してしまったのが一因です。サブスクという課金形態は今後も増えていくでしょうが、情報の非対称性が解消され顧客が『卒業』してしまうジレンマも抱えます」

 ――サブスク事業の勝ち組と負け組を分ける原因はどこにあるのでしょうか。

 「アドビが成功した理由は課金システムのハードルを下げたことではありません。より決定的だったのは『フォトショップ』や『イラストレーター』がユーザーの業務に不可決なツールでありインフラであったことです。中核商品のいわば粘着性が高いことがポイントです。そう簡単には卒業できません。アドビの具体的なサブスク戦略の細部を分析するよりも、サブスクの本質を見極めることが大事です」

 「サブスクは定額課金という古くから存在する課金形式の1つです。新しいトレンドでも最新のビジネスモデルでもないことは一歩引いて考えれば分かります。割賦販売に近似しています。大型冷蔵庫やパソコンなど割賦販売に適した商品の共通点は、高額で長期的に高頻度で使い続ける耐久消費財であることです」

 「サブスク自体が競争優位を約束するわけではありません。すぐに代えが効くような商品・サービスでは他社との顧客の取り合いになるだけです。にもかかわらず『これからはサブスクの時代だ』と拙劣な判断と行動に出てしまうケースが現在進行形でも少なくありません」

 ――安易なサブスクゲームは同時代性のワナの典型なのですね。

 「特定企業が成功したケースを、その企業が長い時間をかけて練り上げた企業戦略が切り離されてメディアで急拡散したケースでしょう。戦略の一要素に過ぎない課金形式の選択が、いつの間にか経営戦略や競争優位の実態とすり替わったといえます」

 「逆・タイムマシン経営は、近未来を先取りするタイムマシン経営の論理をいったん反転させることで見えてくる視点を生かします。DXもAIも重要な経営手段です。しかし手段に過ぎません。自社の狙いとする目標と手段の関係をはっきり描き、同時代性のワナに飲み込まれないことが肝要です」

(聞き手は松本治人)

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