アフターコロナの働き方

「テレワークで地方移住」に落とし穴 ムラ社会・家族… 同志社大学政策学部教授 太田 肇

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

深刻なのは本人より家族

 周囲の目を冷たくしているもう一つの理由が、所得の格差である。都会の大企業に勤める人と、地方の中小・零細企業に勤める人や農家の人たちとの間には相当な所得格差が存在する。それが生活スタイルにも違いをもたらし、地域住民との交流を妨げる壁となっている。

 もっとも働く本人は、新旧住民の間に少々溝があっても、がまんできるかもしれない。問題がより深刻なのは一緒に移住した家族、とりわけ専業主婦の妻や子どもたちである。会社という別のコミュニティがある本人と違って、家族には「逃げ場」がないからだ。実際、短期間で都会に戻ってしまった人たちのなかには、家族がどうしても地域になじめなかったという例が多い。

 田舎生活の難しさは覚悟していたはずだが、想像以上だったのだろう。自治体関係者など旗振り役の人たちはともかく、大多数の住民の意識は昔とそれほど大きく変わっていないのである。しかも直近では、コロナ禍がいっそう地域を閉鎖的にし、外来者への目を厳しくしてしまっている面もある。

移住成功のカギは仕組みと計画

 だからといって、せっかく芽生えた地方移住の機運に水を差すようなことはしたくないし、地方暮らしの夢も諦めてほしくない。そのためには覚悟や心構えだけに頼るのではなく、有効な仕組みを取り入れることが大切だ。

 理想としては、移住者が地域に溶け込んで生活するのが望ましいだろう。しかし上述のような現状を考えたら、少なくとも過渡的には移住者の共同体をつくることが必要かもしれない。だからといって閉鎖的になるのではなく、交流促進の努力は必要である。会社ぐるみで移転した企業のなかには、夏祭りや盆踊りなどのイベントに地域の人びとを招き、交流を図っている例もある。

 もう一つは都会に拠点を残しておいて、少しずつ地域になじんでいくという「半舷上陸」作戦である。実際、地方移住に成功した人を見ると最初は本人だけ移り、後に家族を呼び寄せたとか、週末や学校の休暇中だけ地方で暮らすなどして徐々に地域の風土に慣れ、同時に地域の人たちからも自分たちのやり方を認めてもらったというパターンが多い。

 いずれにしてもそれなりに周到な準備が必要であり、降ってわいたテレワークブームに乗って、仕事の場ばかりか生活の拠点まで安易に移すのはリスクが大きいことを知っておくべきだろう。

太田肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論、とくに「個人を生かす組織」について研究。元日本労務学会副会長。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞本賞などを受賞。『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)、『公務員革命』(ちくま新書)、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『個人尊重の組織論』(中公新書)、近著に『「超」働き方改革』(ちくま新書)など著書多数。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。