アフターコロナの働き方

「テレワークで地方移住」に落とし穴 ムラ社会・家族… 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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 人材派遣大手のパソナグループが本社機能を東京から兵庫県の淡路島に移し、社員1200名を異動させる計画を発表して話題になるなど、コロナ対策でテレワークが普及したのを機に、都会から地方へ移住する動きが注目されている。受け入れ側も、移住によって地域の活力向上につながることが期待されるだけに歓迎する自治体が多い。とりわけ過疎化による人口減に悩む自治体のなかには、土地や住宅を安価で提供するなど移住者の呼び込みに力を入れているところが少なくない。

地方移住に関心」3割、東京は転出超過に

 政府も地方移住の推進に前向きで、内閣府は「いいかも地方暮らし」という移住応援サイトを立ち上げた。コロナが流行する前の今年1月に内閣府が行った意識調査では、東京圏に住む人の31.1%が地方で暮らすことに関心をもっており、「気にはなっている」という人も含めると地方移住を考えている人は約半数(49.8%)に達する。またコロナ禍が到来して以来、東京では転出超過というかつてない現象も起きている。

 たしかに地方へ行くと不動産が安く手に入り、経済的にゆとりある生活が送れるし、職住接近で満員電車の通勤地獄からも解放される。また空気はきれいで、野菜や果物など新鮮な食べ物が手に入る。休日には子どもと魚釣りや虫取りをしたり、家族でサイクリングにでかけたり、広い庭でバーベキューを楽しんだりといったバラ色の移住生活を夢見る人も増えている。

 インターネットを使った各種コミュニケーションツールの普及によってテレワーク環境がかなり整備されたいま、地方で働くことじたいに支障は少ない。地方移住の大きな壁は取り払われたかのように見える。

想像以上に厚い「ムラ社会」の壁

 しかし、残念ながら地方移住の障害がなくなったわけではない。

 地方で移住促進に取り組んでいる人たちがそろって口にするのは、「せっかくIターンで地元に住んでくれても、大半が数年以内に都会へ戻ってしまう」という嘆きだ。移住失敗の主な原因は、地域の生活様式や人間関係に溶け込めないためである。

 地方に行けば先祖代々その土地に住み続け、地域に根を生やすように生きている人が多い。大人も子どもも気の知れた仲間どうしでプライバシーの観念は薄く、昔から伝わる暗黙の慣行や掟(おきて)、非公式な序列が根強く残っている。移住者がそのなかに溶け込むのは容易なことではない。

 また農作業に関連する作業や各種行事などがたくさんあるところへもってきて、近年は若者が減少したので、移住者にも地域のいろいろな役が回ってくる。そして会合や役務にしばしば駆り出される。せっかくの休日がほとんどつぶれてしまい、ゆとりある生活を送るどころではないと不満をうったえる人もいる。たまたま空いた日に家族でレジャーを楽しんでいると、周囲から奇異な目で見られることもある。

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