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「400万台」の教訓 トヨタ・ホンダ なぜ同時代性のワナ回避できた? 楠木建・一橋ビジネススクール教授に聞く(上)

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パストフルネスの「逆・タイムマシン経営」を

 ――世界的に4大メーカーしか生き残れないとさえ言われていたのに、リーマン・ショックの影響もあって逆の結果になりました。原因はどこにあったのでしょう。

 「因果関係の理解において錯乱していたからです。国際的な自動車マーケットで、確かに規模の経済は大切です。しかし販売台数は『原因』である以上に『結果』です。競争力のある自動車を効率的に製造・販売しはじめて台数が伸び、規模の経済も享受できます。M&Aで規模を拡大しても競争力を保証するものではありません。」

 「熱狂の中にも冷静な経営者はいました。当時、トヨタ自動車の奥田碩社長は『M&Aを否定しないがトヨタグループは十分に大きい』とコメントしています。吉野浩行・ホンダ社長も『ホンダはすでにグローバル。環境対策を含め自前でやれる。規模が全てではない』と素っ気ないものでした」

 ――「400万台クラブ」の迷走から2020年の経営者は何を学ぶべきでしょうか。

 「ウォーレン・バフェット氏の『潮が引いた後で誰が裸で泳いでいたか分かる』という警句通りの結果となりました。くむべき教訓は自社のストーリーに重心を置いて本質を見極めることにあります。本質の第一義は簡単には変わりません。変化を振り返ることによってはじめて不変の本質が浮き彫りになります」

 ――「タイムマシン経営」に対して「逆・タイムマシン経営」を提唱しています。

 「米シリコンバレーなどで先駆的に芽生えている技術や経営手法を日本に持ってくるのがタイムマシン経営です。すでに『未来』を実現しているであろう地域に注目するわけです。しかし未来予測はどうしても不確かです」

 「逆・タイムマシン経営は、膨大に蓄積された過去の事実に着目する『パストフルネス』に本領があります。歴史自体が『ファクトフルネス』です。個別の事実だけでは得られない因果関係もうかがい知ることができます」

 「歴史的事実には単なる統計データにはない、ひとつひとつのファクトが豊かな文脈を持っている強みがあります。自社のビジネスストーリーと相対化する戦略思考を養うことで実際の仕事に役立てる実践知を引き出せる可能性が高いです」

 ――最前線のビジネスパーソンは毎日の情報をインプットするだけでも大変です。

 「現代は、デジタルメディアの発達で多くの人々の注意を引くような物言いやバズワードが誇張されています。キャッチーで刺激的なワンフレーズで語られることは情報のコモディティー化といえます。歴史に目を向けるパストフルネスは他社との差異を広げる強力な武器になり得るでしょう」

(聞き手は松本治人)

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