地方創生 〜アフターコロナの新しい形〜

「密」遠ざける豊かな緑 実装に入った地方創生 具体的事例から考える持続可能な経済循環

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 10月5日、東京で日経地方創生フォーラム「地方創生~アフターコロナの新しい形~」を開催。自治体や政府の関係者、識者が地域の活性化と競争力強化について議論した。本シンポジウムは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から一般の来場を中止し、インターネットを通じ無観客で会議の模様をライブ配信した。

■基調講演 残すに値する未来を創る

慶應義塾大学 環境情報学部 教授、ヤフーCSO 安宅 和人 氏

「疎」の空間が 地域の求心力に

 都市集中、限界集落は日本だけでなく、世界中の問題だ。我々は都市にしか人間が住めない未来に向かっている。この問題意識からテクノロジーの力を使い倒しつつ、都市集中型社会に対するオルタナティブを創る運動論を立ち上げ、検討を進めている。

 未来は、作りたい未来の課題を技術の力で解決し、パッケージ化することで生まれる。自動化技術で、人がいない課題の多くは解決可能だが、2つの大きな問題がある。

 1つはインフラの構築・維持コストの重さ。疎空間では、土木や保健行政などのインフラ整備の採算が全く合っていない。これを抜本的に低廉かつ保守しやすくする必要がある。この実現のためには道などの土木も水道も電気もすべてをゼロベースで考え直すことが求められる。

 もう1つは、都市に対抗し得る求心力の欠落だ。人間本位で環境に手を入れた結果、疎空間の環境価値は激減している。この国の人工林は、97%が針葉樹林、7割がスギかヒノキの単層林だ。森がもたらす価値のうち林業部分は1%に過ぎない。価値の大半を侵食防止、水の貯蓄や浄化が占めることを踏まえれば木々の多様性、土中の水の流れも含め、根底から森を作り直す必要がある。

 また過去数十年、新型コロナ、エボラ出血熱やSARS、MERSなど、感染症の拡大が繰り返されている。その背景には野生動物と人間の生活空間が、あまりにも近接していることがある。一方、温暖化に伴い2100年ごろには風速90メートルの台風が来ると予測されるなど、感染症だけでなく災害にも耐え得る生活空間を作る必要がある。

 文明は「密閉×密」にひたすら向かう、なかば都市化というべき数千年来のトレンドの中で進化してきた。現在、逆に「開放×疎(開疎)」に向かうトレンドが生まれつつある。しかし都市が消えるわけではない。まずは都市の誇る様々な機能を「開疎」にしていく必要がある。

 圧倒的な価値のある空間があれば、世界中から人が訪れ、土地の価値が上がる。フランス南西部のボルドーやイタリアの古都ピエンツァなど、世界的に高い価値を持っている疎空間は、「絶景」「絶快」、そして生きている喜びを味わえる「絶生」の「三絶」がそろっている。そうした空間を作れるかが今問われている。

 本物の求心力は土地の記憶に根差したものだ。これによって外部の文化や新しい人たちと交わって化学反応を起こすことが可能になる。残すに値する未来を作っていけるかどうかがいま問われている。

■パネルディスカッション withコロナ時代の自然資本を生かした地域復興のあり方
●パネリスト
衆議院議員 斎藤 洋明 氏
環境省大臣官房環境計画課企画調査室長 佐々木 真二郎 氏
安宅 和人 氏
気象予報士 太田 景子 氏
日本政策投資銀行地域企画部課長 北栄 階一 氏
三菱地所エリアマネジメント企画部専任部長 竹内 和也 氏
●コーディネーター
京都産業大学生命科学部産業生命科学科准教授 西田 貴明 氏

地方が持つ課題を低コストで解決 北栄 氏

 西田 グリーンインフラは、自然が持つ多様な機能を利用して社会と経済を発展させるインフラだ。環境を守るだけでなく活用もすることで、地域活性化や防災減災など様々な社会課題に貢献する。今年グリーンインフラ官民連携プラットフォームが設立され、関係省庁や企業が議論を進めている。

 北栄 グリーンインフラが持つ機能は、地方の課題を低コストで解決する。例えば千葉県柏市の柏の葉アクアテラスは、遊水地として活用されていた施設を市民が憩える親水空間へと再生。にぎわいの創出と一部の維持管理費捻出が可能となった。海外の事例では、デンマークのコペンハーゲンが公園内に雨水貯留の機能を備える洪水対策を実施した。従来型の対策に比べて90億デンマークの経済効果があると試算されている。

自然災害の緩和と適応にも要注目 太田 氏

 太田 海外のNGOが発表した「世界気候リスク指数2020」において、日本は世界一の気象災害被害国となった。温暖化対策は温暖化ガス排出の抑制として語られることが多いが、激甚化する自然災害と共存していく適応策も非常に大切になる。緩和と適応の両面からのアプローチとして、グリーンインフラに注目している。

地域循環共生圏の取り組み推進を 佐々木 氏

 佐々木 持続可能な社会のためには、再生可能エネルギーなどの地上資源をフル活用する社会に移行することが重要だ。環境省では「地域循環共生圏」の概念を提唱して、この取り組みを進めている。国土に広く薄く分散する地上資源を活用するには、自立分散型社会にシフトする必要がある。エネルギーや食料を地産地消して、その土地ならではの特産品を作り、経済を循環させることが重要になる。これはグリーンインフラの考えともリンクしている。

緑化で魅力ある都市づくりを実現 竹内 氏

 竹内 当社は東京都千代田区の地権者の協力と理解を得て、丸の内仲通りを街路樹によって緑化した。また、ビルの再開発に伴って緑地・緑化部を広げ、緑の量と質を高めてきた。さらにグリーンインフラ活用型都市構築支援事業を受けて、官民連携による都市公園の整備や民間建築物、公共公益施設の緑化も総合的に支援している。治水対策やにぎわいある空間づくりなど複数の地域課題について、グリーンインフラを活用して魅力ある都市づくりに生かしたい。

グリーンインフラで災害対策強化 斎藤 氏

 斎藤 地方自治体ではインフラの維持管理が大きな課題になっている。災害の頻発で、より精緻なインフラ整備が求められており、経済的な価値や効果、防災における価値をもっと可視化すべきだ。社会福祉協議会や町内会など、地域インフラの担い手にも政策立案に関わってもらいながら、グリーンインフラを実装していかなければならないと感じている。

 安宅 地方都市については、根本的な問題意識のずれを感じる。人々は緑に満ちたすてきな地方都市を期待して出かけるが、そこにあるのは廃れきった東京まがいのものや、駐車場だらけの空間だ。また、グリーンインフラは本来、土地の価値を高めるという行動論であるべきだ。コロナによる経済停滞が気候変動にほとんど影響がなかったことを考えると、まずは気候変動より土地の価値とエコノミクスの改善に集中することが大事だと感じる。

 西田 グリーンインフラを活用してどのように地方創生につなげるべきか。

 北栄 海外では、人がほぼ住んでいない疎空間にレクリエーション施設を整備して人を呼び、集まったお金を森林保護に活用する取り組みが活発だ。自然保護とまち全体の経済活性化を結び付け、世界の機関投資家が出資している。

 各地方の特色を生かしてグリーンインフラを活用するのがこれからの地方創生に重要だと感じている。

 佐々木 自然を活用する地方の事例が増えている。観光分野では、エコツーリズムに地域の歴史的な背景や風景を組み合わせて発信する取り組みが多く出てきている。また、農業系廃棄物や未利用資源を、発電や特産品などに活用して継続的なビジネスに結び付ける動きも盛んになってきた。地方創生の勢いがある地域は、主体的に楽しんで活動している共通点がある。

 太田 グリーンインフラは多様性があって多岐にわたるためイメージをつかみづらいが、シンプルにいえば未来に夢を持つということだ。パリ協定におけるCO2削減の排出目標は各国によっていろいろと差がある。たとえ達成困難な目標であっても「こういう未来が待っていたらいいな」と思い描きながら、社会を変える提案につなげていければと思う。

 竹内 2020(令和2)年度、当社は大手町・丸の内・有楽町のエリアでグリーンインフラの多様な効果の検証と見える化に取り組んできた。コロナウイルスの感染拡大を受け、その対策と向き合わなければいけない時代だからこそ、心地よい空間で過ごしてもらえるような先導的・先進的な取り組みを示すまちづくりをする必要がある。周囲の不動産会社と協力しながら、東京の都市力を上げていきたい。

地方集落を美しく価値ある空間に 安宅 氏

 斎藤 グリーンインフラはこれだけ幅広い政策なので、まずはどこかに突破口を作ることが大事だと感じている。地域や政策分野において目に見える成果を早く出して、それをアピールすることでまた活動を広げていくような取り組みをしていきたい。

 安宅 日本の疎空間は過去200年くらい、取水を目的として災害に弱いところに人間の集落が作られてきたという歴史がある。その空間設計を見直してメンテナブルな状態にして、かつ圧倒的に美しく価値のある空間にすることが重要だ。外の人にとっても価値のある開かれた空間にするきっかけとして、グリーンインフラの活動を考える意義は極めて大きい。

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